第2話「ビクトリー系Vtuber」

 奴との出会いはオススメに出てきた一本の配信アーカイブだった。


【初配信〈Ⅴtuber大鰭夜惟(おおひれよごれ)〉爆誕!】


 新しいⅤtuberを開拓するか、なんて軽い気持ちで配信を開いた。

 それが大きな間違いだった。俺が開いたのは配信ではなくパンドラの箱だったのだ。


 スマホの画面に映し出されたのはバーチャルの面影など微塵もない3Ⅾ女。しかも到底人前に出るような姿をしていない。

 プリン頭の若い女はゲーミングチェアの上に胡坐をかき、紙煙草をふかす。カップ酒を流し込み「ぷはぁー」と親父顔負けの反応を見せた。



『Ⅴtuberの大鰭夜惟で~す、お前ら元気かぁ~?』

 ぷらぷらとやる気なく手を振る。


[草]

[なんだこいつ]

[どこがバーチャルやねん]



 コメント欄は騒然、ツッコミの嵐が巻き起こっている。

 もちろん俺も同意見。もはや妄言のたまわるアル中にしか見えなかった。



『あー違う違う。あたしのⅤはバーチャルじゃなくて、ビクトリーのⅤ! 勝ち組ってことなのよ~』

 見せつけるように人差し指と中指を立ててピースを作る。指の間にはモクモクと白い煙が上がる紙筒が挟まっていた。



[お前が勝者でいいよ]

[くさそう]

[彼氏いなさそう]


『ぎゃははは! 残念だったなぁ、あたしには恋人も愛人もいるんだよな~お前らとは違うんだよ!』


[嘘つけ]

[虚言癖乙]

[誰もお前を選ばない]


『嘘じゃないよ~。ほら、あたしの手の中にいるじゃ~ん』

 左手に煙草、右手に百円ライターを持ち、ひらひらと見せびらかす。


 凄い、人間ここまで落ちぶれられるのか。もはや感心するわ。

 コメント欄に目を向けると、俺と同意見の人たちが少なからず存在している。


[草]

[手遅れ]

[むしろ好感ある]


『あたしはお前らと仲良くなりたいからさぁ、盃交わそうぜ~』


[飲みたいだけだろ]

[乾杯!]


 かんぱ~い! っとカップ酒を持った右手を上に掲げ、ごっくごっくと飲みほした。


『ぷっはぁぁぁ~これであたしらはズッ友よ。そして配信者とリスナー、大鰭夜惟とヨゴレ者ってわけよ~』


[ヨゴレ者ってなんや?]


『ああ、リスナー名のこと。良くね?』


[俺らを汚すな]

[汚いのはお前だけだ]


『まあまあ、これから長い付き合いになるんだしさ。色々話そうぜ~とりあえず景気づけにもう一杯! はい、かんぱ~い!』


 もう一杯、もう一杯と無限に酒を流し込み続ける姿は、もはや排水溝。

 しかし奴にも限度はあるようで、徐々にペースが落ちてくる。アルコールが回ってきたのか、顔が赤くなり呂律があやしくなってきた。


『いやぁ~、あたしの初配信なんて、めでてぇときに酒飲まないで、いつ飲むっていうんだよぉ! ぎゃははははは!』


 画面の向こうの女は、完全に出来上がっていた。

 そして数十分後、初配信とは到底思えないとんでもない配信事故が巻き起こるのだった。

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