13話 旅路

 俺は荷物。俺は荷物。俺は荷物。

 追手の目を掻い潜るため、キャラバンの積荷に隠れることになった。


「じゃあこの蓋を閉めたら、僕がいいというまで喋らないでね」

「わかった。頼む」


 手荒く積み込まれるとすぐに荷車が動き始めたことがわかった。

 ミゲル曰く、俺がミスしなければバレることなく脱出し、追手を撒いたところで出してくれるとのこと。

 このまま彼を信用して任せるしかない。



 もうどれくらい時間経っただろう。

 荷が動き始めてすぐ、一度止まり揉めてるような声が聞こえたがすぐに動き出した。

 かなり街から離れたと思うが、蓋が開く気配はない。

 明かりも入らないため時間の経過がわからない。

 ずっと張り詰めてったからか、酸素の薄さもあってか、そのまま眠りについた。



 え、まだ?長くない?

 どれくらい経ったかわからないが、空腹具合から大体の想像はつく。

 最小限に持っていた水も無くなった。

 ……いや、きっとミゲルの考えがあるんだ。



「や、ごめんシオン。忘れてた」

「殺す気か……てか死ぬ……食べ物」


 結局外に出れたのは三日後、次の村に到着してからだった。


「ルーナはなんで上にいて気付かないんだよ」

「私も忘れてた。すまん」


 この用心棒なんもできねえな。


「いや本当に申し訳ない。本当ならもっと早くに出てきてもらって、2人には車列の護衛としてガードしてもらおうと思ってたんだけど、少々イレギュラーがね」

「まあ聞こうか」

「僕たちは現在、都に向けて移動している。あと数時間ほどで小さな村に到着、一泊して出発、の予定だ。追っては恐らく君が村にいない事にもまだ気付いてない」


 それに関しては出発前にある程度聞いていた話だな。


「ご存知かとは思うけど、この国の辺境であったこれまでの街と違い、都に近付くにつれて人を襲う魔物が出現するんだ」

「そうなの?」

「シオンは故郷から出たことがなかったんだよね」

「私は知ってたぞ。田舎モンだな」

「うるせえな」

「しかし街を出てからというもの、魔物どころか野盗すら見かけないんだ」

「いいことじゃん」

「崇高なるエルフ(笑)ならこれがどういう意味か分かるよね?」

「含みのある言い方」


 (こいつにわかるわけねーだろの顔)


「……より強い魔物か魔族が現れて散ったか……強力な冒険者が狩り尽くしたか?」

「御名答」

「まじかよ……」

「フッ……私はエルフの中でも指折りの知能を持つ……」

「相対的にエルフの評価を下げるな」

「ミゲルさん!前方観てください!」

 

 御者が声を上げる。

 俺とミゲルは馬車の小窓から顔を出した。

 人影が四……五体。よくよく見てみると街灯程はある大きさ。人間じゃない。


「あれって魔族か?戸建ての家かよ……」

「ああ、だけどあんなサイズのははじめて見た」

「ちょ……私にも見せろ!」


 単眼に鋭い角、まだかなり離れているのに地響きがここまで届く。

 一団は俺達に気付くことなく同じ方向に進んでいた。


「ミゲルさん!このままだと……」

「村を襲う気か?あんなのが通り過ぎただけで、村が耕される……!」

「俺が先回りして戦うよ!馬を貸してくれ」

「さっきまで飲まず食わずだったのに、体も箱詰めにされてて動けないだろう!」

「誰のせいだと!?」


 確かに腰はバキバキだしちょっと食ったくらいじゃ動けない……。

 でもこのままだとどちらにせよ先に村が襲われるか、俺達に気付かれてやられるか。

 ルーナ一人でも心許ないし……。


「おいシオン!あれ見ろ」


 ルーナの声で前方に目をやると、巨大な魔族が一体宙に舞っていた。

 倒れた衝撃でこちらまで強い砂風が吹き付ける。

 他の魔族が声を上げながら一斉に地面を踏みつけ始めた。と思えば視線は右往左往し、まるで耳元でハエが飛んでいるかのように腕で払う。


「なにが起こってるんだ?」

「駄目だ全然見えない」

「いや、誰か戦ってるぞ!」


 ルーナだけが声を上げた。

 続いて望遠鏡を持った他の商人も叫ぶ。


「ミゲルさん、これを!」

「確かに誰かいる……なんて身軽さ、あれは人間か?」

「というか子供くらい小さいぞ……?」


 俺だけ何も見えない!完全に置いていかれてる……!

 御者から望遠鏡を貸してもらってようやく見れた頃には、巨大な魔族は五人全て倒れ込んでおり、踏みつけるようにローブ姿の影が立っていた。

 

 ローブから覗いた目が、俺達を横目に村の方に翔けて行った。

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俺の異世界転生じゃない 水瀬智尋 @minase_tihiro

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