13話 旅路
俺は荷物。俺は荷物。俺は荷物。
追手の目を掻い潜るため、キャラバンの積荷に隠れることになった。
「じゃあこの蓋を閉めたら、僕がいいというまで喋らないでね」
「わかった。頼む」
手荒く積み込まれるとすぐに荷車が動き始めたことがわかった。
ミゲル曰く、俺がミスしなければバレることなく脱出し、追手を撒いたところで出してくれるとのこと。
このまま彼を信用して任せるしかない。
*
もうどれくらい時間経っただろう。
荷が動き始めてすぐ、一度止まり揉めてるような声が聞こえたがすぐに動き出した。
かなり街から離れたと思うが、蓋が開く気配はない。
明かりも入らないため時間の経過がわからない。
ずっと張り詰めてったからか、酸素の薄さもあってか、そのまま眠りについた。
*
え、まだ?長くない?
どれくらい経ったかわからないが、空腹具合から大体の想像はつく。
最小限に持っていた水も無くなった。
……いや、きっとミゲルの考えがあるんだ。
*
「や、ごめんシオン。忘れてた」
「殺す気か……てか死ぬ……食べ物」
結局外に出れたのは三日後、次の村に到着してからだった。
「ルーナはなんで上にいて気付かないんだよ」
「私も忘れてた。すまん」
この用心棒なんもできねえな。
「いや本当に申し訳ない。本当ならもっと早くに出てきてもらって、2人には車列の護衛としてガードしてもらおうと思ってたんだけど、少々イレギュラーがね」
「まあ聞こうか」
「僕たちは現在、都に向けて移動している。あと数時間ほどで小さな村に到着、一泊して出発、の予定だ。追っては恐らく君が村にいない事にもまだ気付いてない」
それに関しては出発前にある程度聞いていた話だな。
「ご存知かとは思うけど、この国の辺境であったこれまでの街と違い、都に近付くにつれて人を襲う魔物が出現するんだ」
「そうなの?」
「シオンは故郷から出たことがなかったんだよね」
「私は知ってたぞ。田舎モンだな」
「うるせえな」
「しかし街を出てからというもの、魔物どころか野盗すら見かけないんだ」
「いいことじゃん」
「崇高なるエルフ(笑)ならこれがどういう意味か分かるよね?」
「含みのある言い方」
(こいつにわかるわけねーだろの顔)
「……より強い魔物か魔族が現れて散ったか……強力な冒険者が狩り尽くしたか?」
「御名答」
「まじかよ……」
「フッ……私はエルフの中でも指折りの知能を持つ……」
「相対的にエルフの評価を下げるな」
「ミゲルさん!前方観てください!」
御者が声を上げる。
俺とミゲルは馬車の小窓から顔を出した。
人影が四……五体。よくよく見てみると街灯程はある大きさ。人間じゃない。
「あれって魔族か?戸建ての家かよ……」
「ああ、だけどあんなサイズのははじめて見た」
「ちょ……私にも見せろ!」
単眼に鋭い角、まだかなり離れているのに地響きがここまで届く。
一団は俺達に気付くことなく同じ方向に進んでいた。
「ミゲルさん!このままだと……」
「村を襲う気か?あんなのが通り過ぎただけで、村が耕される……!」
「俺が先回りして戦うよ!馬を貸してくれ」
「さっきまで飲まず食わずだったのに、体も箱詰めにされてて動けないだろう!」
「誰のせいだと!?」
確かに腰はバキバキだしちょっと食ったくらいじゃ動けない……。
でもこのままだとどちらにせよ先に村が襲われるか、俺達に気付かれてやられるか。
ルーナ一人でも心許ないし……。
「おいシオン!あれ見ろ」
ルーナの声で前方に目をやると、巨大な魔族が一体宙に舞っていた。
倒れた衝撃でこちらまで強い砂風が吹き付ける。
他の魔族が声を上げながら一斉に地面を踏みつけ始めた。と思えば視線は右往左往し、まるで耳元でハエが飛んでいるかのように腕で払う。
「なにが起こってるんだ?」
「駄目だ全然見えない」
「いや、誰か戦ってるぞ!」
ルーナだけが声を上げた。
続いて望遠鏡を持った他の商人も叫ぶ。
「ミゲルさん、これを!」
「確かに誰かいる……なんて身軽さ、あれは人間か?」
「というか子供くらい小さいぞ……?」
俺だけ何も見えない!完全に置いていかれてる……!
御者から望遠鏡を貸してもらってようやく見れた頃には、巨大な魔族は五人全て倒れ込んでおり、踏みつけるようにローブ姿の影が立っていた。
ローブから覗いた目が、俺達を横目に村の方に翔けて行った。
俺の異世界転生じゃない 水瀬智尋 @minase_tihiro
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