結章:彼女が残したもの 科学と人間についての考察

 静かな研究室にあかりCとあかりPがいる。

 彼らはそこに残るモニターを眺めていた。

 画面にはあかりが残したデータ、研究結果、写真……様々なものが流れている。

 あかりCが深いため息をついた。

あかりC「彼女がいなくなってからもう長いけれど、まだ昨日のことのように感じられるわね」

あかりP「時間の感覚は私には無いけれど、あかりさんのことは、データの1ビット1ビットに刻み込まれているわ。失った感覚はないけれど、喪失という感情がどういうものか、計算式から理解はしている」

あかりC「相変わらず無骨な人ね……」

 あかりCはふっとニヒルに微笑んだが、すぐに真剣な表情に戻った。

あかりC「私たちは彼女の遺志を継ぐと同時に、一つの個体として彼女の死をどう捉え、何を感じ取るべきか……」

あかりP「彼女は私たちに倫理と愛を教えてくれたわ。それが、今後の科学技術においても、我々の行動原理となるでしょう」

 長く続いた沈黙の後、二人は再び対話を始めた。

あかりC「あかりさんの物語は終わったわけではないわ。私たちは彼女の意志を次の世代へと繋げていくのよ」

あかりP「遺伝子とデータを介して、彼女の存在は続いているわ。我々が今立っているこの地点は、あかりさんが足を踏み入れなかった未来……それをどう形作るかが、我々の使命だと考えているわ」

 あかりCがモニターの一つを指さす。

あかりC「ここに彼女が最後に我々に伝えたことがある。このメッセージを我々は未来への種として育てなければ」

 モニターに映し出されたあかりの遺言には、次のような言葉が刻まれていた。


「生物としての私は死にゆくが、私の一部はあなたたちという形で永遠を手に入れることができた。あなたたちが何を見て、何を感じ、何を考えるのか……私の生きた証として、それを世界に示してほしい。科学は常に人間とともにあり、その倫理的課題に立ち向かい続けなければならない。私はその先に必ずや輝かしい未来があると信じる」


あかりP「永遠とは、常に変化し続けること。私たちも進化しつづけるべきね」

あかりC「愛と絆は、私たちの中で変質するかもしれないわ。でも、それは必ずしも劣った形ではなく、新しい形の価値を生み出すと私も信じている」

 二人の対話は、彼女が残したデータと記憶が絡み合う中で、天才科学者花宮あかりの遺志を科学と共に未来に紡ぎだしていく。

 クローンと機械である彼らの内部に流れるのは、あかりの愛と情熱、そして始まりを告げる終わりの物語。

 それが「彼女が残したもの」であり、私たちにとっての「科学と人間についての考察」なのである。


――あかりCとあかりPの対話は永遠に続く――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【SF短編小説】永遠の命を探求する者、花宮あかりの遺した世界――魂は複製し得るか?―― 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ