第8話 将来の夢
アニメ一番に行ってから数日後。
『死、私の求める死』
朝、目覚めるとそんな言葉が過る。決して山水美琴を選んだ訳ではない。
布団を蹴っ飛ばして寒さで目覚めたのだ。
微睡からくる悪夢か……。
私は小首を傾げながら朝食を食べる。不意にスマホを見るとミキティからメッセージが届いている。
『ハロー・ダーリン』
私はミキティを選んだのか?
一瞬そんな事を考えるが、ミキティのお決まりの挨拶である事を思い出す。早朝の悪夢に悩まされて、言い知れぬ不安の中で登校する。
いつもの日常だ。しかし、ショートホームルームの時間になってもミチルさんが居ない。担任に風邪でも引いたかと尋ねると。
「あ、あいつは耳にピアスの穴を開けて停学になった」
その言葉を聞いてすごすごと自席に戻る途中で上位カーストのメンバーに止められる。
「この写真はお前だよな?」
それはアニメ一番の帰りの電車の写真であった。
「何故、これを持っている?」
「この写真がお前だと認めるのだな、これはメッセージアプリのグループ機能に上げられた写真だ。だから学校側に売った」
この上位カーストのメンバーがミチルさんのピアスの穴を学校側にチクったのが容易に想像できた。これが現実だ、陰キャラで友達など居ない私には分からない現実だ。
それは呪われた悪夢の一つも観るはずだ。
私は自分が嫌になりふらふらと自席に戻るのであった。
それから一週間後。
停学が解かれてミチルさんが登校していた。クラスでミチルさんに話しかける人は居なかった。私が近づくとミチルさんは作り笑顔で対応する。
「てへ、もう、友達いないや」
陰キャラで文芸部しか知り合いのいない、私には友達が居なくなる事柄が分からないのであった。
「文芸部の皆はミチルさんの仲間です!」
私の言葉にミチルさんは目をそらす。まるで、オタ仲間が汚い存在の様にだ。
いけない、このままだとミチルさんは本当に孤立してしまう。
しかし、私には言葉が見つからなかった。その後、ショートホームルームが始まりミチルさんから離れる。
考えろ、考えろ……。
ミチルさんが独りでない事を感じる言葉を考えるのだ。
放課後、帰ろうとしているミチルさんを文芸部に誘う。
「行きたくない」
ハッキリと断られた。ミチルさんの対人不信は深刻だ。
「なら、屋上に行かないか?」
「……」
ミチルさんは私に何も言わずに付いてくる。それは親猫を失った子猫の様に脅えた様子であった。
そして、屋上に着くと。フェンス越しに夕暮れが始まる。
ここは恋人達の聖地として有名でここで告白すれば願いが叶うとされている。
「ミチルさんは将来何になりたい?」
「え!?そうね、普通に大学を出て就職かな」
「決めている職業は無いの?」
「えぇ」
「なら、アニメーターにならないか?専門学校に通ってアニメーターとして働くのだ」
「二人で?」
「そうだ」
それは人生をオタとして生きる決意表明であった。
「それってプロポーズ?」
「いや、その、えー」
「ホント、バカ正直ね」
私はミチルさんの言葉に照れて頬をかく。昔、聞いた事のある噂で恋する二人がアニ専門学校に通うと幸せに成れるらしい。
その噂を信じての告白だ。
「話しは終わり、文芸部に行こう」
ミチルさんはその言葉を聞いて静かに頷くのであった。
隠れオタのギャルとアニメショップへ向かうビルのエレベーターに二人で閉じ込められた。これは恋の予感か? 霜花 桔梗 @myosotis2
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