悲しみの魔王 絶望編

クマとシオマネキ

〜ある日ある時、在りし日の魔王と夢の国〜

 魔物、魔族の死体が転がる。


 そびえ立つという言葉の似合う巨体を揺らし、身体の全てが攻撃態勢に入る。


 全ての上半身は巨大だが人の姿とさほど変わらないが、頭には茨のような冠が浮いている。 

 さながら魔族の神の如く神々しい。

 下半身は合成獣キメラ…いや、多数の大口、魔眼、触手、鎧、そして大型の魔物の手足が無数生えた、獣と呼ぶには余りにおぞましくも恐ろしい姿であった。


 そして魔王に殉ずる様に死兵と化し、雄叫びを上げながら、魔王への忠誠を言葉にしながら次々と魔王の間に突入する魔物達。


 それを見た魔王は、目覚めたかのように咆哮した。


 それに対峙するは、あらゆる種族が混ざる七人の英雄。

 

 魔王と眼前に迫る、英雄の中でも勇者と名高い魔族の国の隣国、レイランドの英雄…その名は勇者シズク。


「待ってくれ!話を聞いてくれよ!クソ!何で!?お前はこんな事出来る奴じゃなかっただろ!?」


――転生前の話を出す前に…まずは我を倒してみよ、勇者…勇者シズクよ――


「シズクじゃない!俺は静流だよ!お前の幼馴染みの静流だ!俺は真央を独りにしてしまったんだ…俺はお前を倒すことなんか出来ない!出来るわけ無いだろ!?」


――我はマオではない…それに我は…独りではない…アムス…イリヤ…コニシ…ラー…我々…だ…我々は五体で…五体で魔王となった――


「我々!?何のことだ!?まさか…さっきの奴も…それにマオ…血の…涙が…」


――何も知る必要は無い…さぁ勇者よ…英雄よ…南方の民よ、魔族よ、全ての生きるものよ…我はこの世界の…我から奪った者共…我々以外の全てを憎む…我が力と憎悪!とくと味わうが良いッ!!!―――


 魔王と勇者の物語、ありきたりな、しかし悲しい戦いが始まった。


 とある世界、とある時代、魔王が生まれた。

 それは、この世界ではよくあるいつもの話。

 しかし、弱き魔王が心を通わせ、望みを叶え、失う絶望を知った時…


 黒い太陽が祝福し絶望に狂った最強の魔王が生まれた。



 絶望の中、正気を失った魔王の心の片隅に沈む記憶



 花畑、そこに似つかわしく無い異形の魔物達。

 悲しみから堕ちた魔王の、堕ちた先で見つけた楽園。

 

「凄い!この世界にもこんな綺麗な所あるんだね!旅に出て良かったよ!ねぇ!おかあさ…イリヤ…」


 見た目は死霊、女王の風格を持つ女が優しく微笑む。


「魔界を出ればいくらでもあるさ!しかし今更馬鹿だねぇ、お母さんで良いんだよ!なぁ、アムス!」


 最強を目指し今や魔族で敵う者無しと言われた悪魔の騎士が頷く。


「そうだな、イリヤも良き事を言う。ならばさしづめ我は父か…」


 ローブを纏った魔力漲るオークが花を摘んで何かを作っている。


「じゃあオイラは兄だ!ほら!花で冠作ってやったぞ!お姫様だ!妹よ!」


「コニシは弟だよぉ!でも可愛い冠ありがとね!」


 オーガという力の象徴の部族の中でも一際屈強であろう鬼も花を摘む。


「オレモ オハナ ツンデキタゾ!オヒメサマ!」


「ラーもありがとう!ラーは間違いなく弟だよね」


「オトウト?【オイ】 ト ナニガチガウ?」


 死霊がオーガの頭を撫でながら笑う。


「【オイ】は仲間の証だろう?私達5人は家族ってことさ!仲間や義兄弟とは違う。親と子の家族って事だよ!」


「そうだよコニシ!お父さん!お母さん!そして、コニシとラー!私達は家族なんだよ!」


「えぇ!?オレはお兄ちゃんだろうがよぉ!」


「なんでよ!?絶対に私がお姉ちゃんでしょ!?お姫様の言う事を聞け!こんな弟は!えい!」


「いてて!マオのバーカ!」


「ハハハ!仲の良い事だ」

「フフフ、本当にね」

「ケンカハ ヤメテヨォ」


 下半身が化け物の花冠を付けた女の子がオークを花畑で追いかける。

 近くでオロオロする屈強なオーガ。


 それを死霊の女王と、悪魔の騎士が見守っている。


 異世界、魔界であっても陽は登り、照らす。

 夕焼けは異世界でも元の世界も同じ、暖かく家族を包む。

 どこの世界でも当たり前にある風景。

 走り回る3人の子供、それを見守る両親。


 5人は魔界であっても、姿もその存在も異形だった。

 それでも幸せだった。

 何時までも、永遠に続けば良いと思っていた。

 ただ、そこにあるのは幸せな家族の姿だった。

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悲しみの魔王 絶望編 クマとシオマネキ @akpkumasun

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