外伝その一 キゼツノアテミ

「教えてくれませんか?あの、相手を無傷で気絶させる技を」

 真田大輔が意を決し、犬塚いぬづかしのぶにそう切り出したのは、公園で襲撃を受けた直後のことだった。

 

 襲撃の最中ずっと、何も出来ず、ただただ守られているだけ、そんな自分に、なんとも言えない歯がゆさを感じていた。

「そんな技は存じ上げませんが」

 と、しのぶは涼しい顔で答える。

 予想外の答えに、大輔の口調が早くなる。 

「いやだって、やってたじゃないですか、第一話の冒頭、初登場直後のシーンで、あの女暴走族レディースの子たち三人を相手に次々と……」

「そういうメタな発言、どうかと思います」

 しのぶに言われ、大輔は慌てて言い直す。

「すみません、ええと、初めて会った日、最初に僕を助けてくれたときに使ったじゃないですか、あの女暴走族レディースの子たち三人を相手に次々と……」

「だから、そんな技は存じ上げませんと申しております」

「あーそりゃ無理もねえ、しのぶちゃんの言う通りだぜ」

 

 すぐそばで聞いていた三好みよし伊三美いさみが、二人の会話に割って入ってきた。

「あのな、普通、人間が一撃で昏倒する程の衝撃を頭部に受けた場合、まったくの無傷ってのはありえねえんだよ、ボクシングとか見てりゃ分かるだろ?」

「でも……」

「気絶するほどぶん殴られれば、最悪の場合、そのまんま目を覚まさねえなんてこともしばしばある、頭部への攻撃ってのはそれぐらいの危険性リスクを伴うんだ」

 伊三美いさみはそこで一度言葉を切り、少しの間を置いて続ける。

「――ところがだ、もし相手を簡単に気絶させられて、しかも死亡させたり、何らかの後遺症を残したりする危険性リスクもない――そんな便利な技がもし実際に存在したら、どんな連中が一番重宝すると思う?」

「……悪い事をする人たち、ですか?」

「その通り!そんな技が本当に有れば、犯罪者連中にとっちやこの上なく便利だ、悪用された場合の社会的影響は計り知れねえ……だから、、必ずこう言うのさ、「そんな技はありません」ってね、それに――」

「――もしそんな技が本当に存在したとしてもだ、実際にやるとなるとおっそろしく難しいぜ、最小限のダメージで脳を揺らす力の加減、方向、角度、そして速度スピード……まあ要するにだ――」

「「おぬしにはまだ早い」、そういうことですね?」

「その通り!」

 

 と、伊三美いさみはおもむろに顔を向け、話しかける。

「まあ、そういう訳だから、良い子のみんなはフィクションを真に受けて、出てくる技を真似したりしちゃダメだぞ」

 伊三美いさみの背後でしのぶが言う。

「……そういうメタな発言、どうかと思います」

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少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 柊 太郎 @hiiragi_taro

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