第3話 先王陛下は旅立つ

「まずい、スケア。カークモンド。レティシアがぶち切れた」

「ヒャッハッハッハ!今度は何がバレた?」

「はぁ……、何をやらかしたのです?」

「…………お主らはどうして、ワシが何か失敗したことが前提なのだ?」

「間違ってはいませんよね?」

「何か、問題でも?」

「…………いや、ワシが悪かった」


 勢いよく、応接室に飛び込んで来た先王陛下は、呼び出した剣聖と賢者に対して開口一番に身の危険を訴える。

 だが、その原因は自分であろうと指摘されて、すごすごと椅子に腰を下ろす。


「浮気がバレたか?メイド長といい仲だと聞いたが……?」

「バッ、バカ野郎ッ!外聞きの悪いコトを言うなッ!【シルバー】とはそんな関係ではないわッ!」


 スケアの爆弾発言に、背中にびっしょりと汗をかいたリヒトは慌てて、自分の身の潔白を主張する。


「余計なことがシアの耳に入ったらどうするんじゃ。半殺しでは済まんのだぞ」


 キョロキョロと周囲を伺うリヒト。

 完全にビビっている。


「ヒャッハッハッハ。色男はいくつになっても違うねぇ……」

「お主に言われたくはないわ」

「俺は独身だからねぇ。いくらでも自由な恋愛が可能ってワケよ。どうしてひとりに縛られるのか理解できないねぇ」

「いつか刺されて死んでしまえ……」


 愛の遍歴者プレイボーイなスケアがそう言って高笑いする姿を、どんよりとした瞳で見つめる先王陛下。

 すると、そんな様子を眺めていたカークモンドが大きくため息をつくと、話をもとに戻す。


「それで、何があったのですか?」

「ん?ああ。シアにシルバーとの関係を邪推された」

「ギャーッハッハッハッハ!ほら、当たってたじゃねえかよ!」


 賢者スケアが腹を抱えて爆笑する。


「そうではない!あくまでも邪推、邪推なんじゃ……」

「それでも、思うところはおありなのですか?」


 レティシアが証拠もなく疑うことはないと知っているカークモンドが、主を問い詰める。

 

「…………ある」

「あるんじゃねえかよ!」


 すると、冷や汗を流しながら心当たりがあると申告するリヒト。

 思わず素が出る剣聖。


 その隣では、スケアの笑いが止まらない。


 もはや、収集不能な状況であった。


        ★★


「…………なるほど、貧血で倒れかけたシルバーを抱き止めたところを聖女様に見つかった、と」

「そうじゃ。それは、シルバーもちゃんと証言してくれたわい」

「ならば、何故……」

「その後に、容態を気遣った文を送ったのが見つかったのじゃ……」

「はぁ?」

「だって、目の前で倒れたら心配になるじょろう?手紙だって……」

「出さねえよな?本音は?」

「…………ちょっとだけ」

「ギャーッハッハッハッハ!このスケベ野郎が!」

「だって、あの肉感的な身体を見たら……、こう思うところはあるじゃろ?本人も素直な良い娘じゃし……」

「あるじゃろではありません。英雄色を好むとは言え、貴方はもう一線を退いたのですよ。これ以上、家内に災いの元もまいてどうなされるのですか?」


 カークモンドの言葉に、しょんぼりと肩を落とす先王陛下。

 それでもカークモンドの説教は止まることはなかった。


 リヒトがバカをやって、スケアがそれを笑い、カークモンドが諫める。

 この三人はいつまでたっても関係性は変わらないのだった。 

 

「それで、これからどうなさるおつもりで?」


 ひととおり説教したカークモンドが、主の今後について問いかける。

 すると、スケアはかねてから考えていたと、ひとつの案を語る。


「旅に……、諸国漫遊の旅にでも出ようかと思ってな」

「旅……ですか?」

「うぬ。治世時には国内をあちこち回ったが、それはひとりの国王としてじゃ。何のしがらみも無くなった今、ひとりのジジイとして国々を見て回りたいと、ふと考えるようになったのじゃ」

「本音は?」

「シアの怒りが収まるまで時間が欲しい」

「ギャーッハッハッハッハ、素直じゃねえか!」

「まぁ、旅に出たいというのはホントじゃからな。たまたま、その機会が出来たと言うだけで……」


 要は怒られるのが怖いので、前から考えていた旅に出たいということだった。

 一種の逃避ともいう。


「いや、公爵ですからね、貴方は。しがらみはありまくりですよ」

「そこは、身分を隠して……な」


 正論で反対するカークモンド。

 それに対してスケアは、前のめりに賛成する。


「面白れぇじゃねえか。行くぜ、俺も」

「お前も伯爵だろうが」

「じゃあ、お前は行かねえのか?侯爵閣下」


 そんな軽口を叩くスケアに、苦虫を噛み潰したような顔でカークモンドが答える。


「………………行く」

「ギャーッハッハッハッハ!じゃあ、決まりだな!おい、スケアいつ出る?」

「早ければ今すぐに」

「よし。それでいくぞ」

「はぁ……。仕方ありませんね……」


 こうして、旅に出ることが決まった瞬間、応接室の扉が大きく開け放たれた。


「はなしはきかせてもらった!」


 バーンという効果音が後ろに見えるほどに、堂々と現れたのはリヒトの孫のオクトー。


「あたしもいく。おいしいものをたべにいくんでしょ?」


 

★★★★★★★★★★★★★★★★


こうして旅立ちました。

ええ、崇高な理由なんてありませんが、なにか?


拙作で『カクヨムWeb小説短編賞2023』に参加します。


みなさまの応援をいただけたら幸いです。


  


 




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先王陛下の世直し旅 うりぼう @tsu11223344556677889900

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