定位置を求めて

第6話

　観察を始めて1ヶ月が経ったころ、その人は突然姿を消した。同じ駅から乗っていたその人を、駅で見かけることさえも無くなった。その人を観察するための定位置は、単なる場所に戻る。その人は会話の最後で呟いた。「景色が楽しい」と。知り合いと見られる人は小首を傾げ、「よく分かんないけど、面白いな」と言った。聞いた会話を思い出す度に思う。その人の発言は、電車通学に慣れない理由の答えになるのだろうか。

　定位置を探す旅は続く。