つるっぱげ獣人王子と毛むくじゃら王女

雅楽夢

第1話 つるっぱげ獣人王子と毛むくじゃら王女

 つるっぱげの獣人王子がいました。獣人たちが住むライオニア王国の、そのつるっぱげの獣人王子はシャデウスといい、頭からつま先まで毛が一本もない事で知られています。  

 彼は強い力と知恵を持ちながらも、その特異な外見から人々に不気味がられ、遠ざけられる存在でした。彼は常に孤独感と劣等感に苛まれていました。


 一方、隣国ヴェリスタン王国には毛むくじゃらの王女がいました。毛むくじゃらの王女はレイラといい、人間でありながら、頭からつま先まで毛むくじゃらの姿で知られています。その姿は周囲から恐れられ、冷遇されることも多く、彼女もまた自分に強いコンプレックスを抱いていました。


 そんな二人の住む国はお互い仲が悪く、昔からいがみ合ってばかりいました。ライオニア王国の獣人たちは人間を高慢な存在とみなし、ヴェリスタン王国の人々は獣人を野蛮な存在とみなしていたのです。

 そして、シャデウスとレイラが生まれてから、更に両国の関係が悪化しました。獣人たちは人間が呪いをかけたのでつるっぱげ王子が生まれたのだと、人間たちは獣人が呪いをかけたので毛むくじゃら王女が生まれたのだと思ったのです。


 シャデウスとレイラはこの状況を憂いていました。自分の外見のせいで国同士の仲が悪くなった事に胸を痛めていたのです。


 そんなある日の事でした。不思議な力により二人は夢で出会いました。同じ悩みを抱えているからこそ二人はお互いの境遇を憐れみました。そしてその特異な姿に理解を示し、共感し合うことができたのです。

 それからというもの、二人は何度も夢で会うようになりました。お互いがその内面の美しさ、誠実さに惹かれ、心を通わせるようになったのです。そしてこれを機に両国が共に平和になる道を模索し始めました。

 

 ところがこれを良く思わない存在がいました。それは争いを好む邪神です。邪神は二人の関係を邪魔するためにあれこれと策略を巡らせました。そしてある朝、目覚めた二人は自分が相手国で捕らえられていることに気付いたのです。

 それは邪神が仕組んだものでした。シャデウスはヴェリスタン王国の地下牢に、レイラはライオニア王国の地下牢に閉じ込められてしまったのです。邪神はこうする事で互いの国を刺激し、争いが起こる事を期待しました。ところが、人々の反応は予想外のものだったのです。


 まず、ヴェリスタン王国にいるシャデウスを見た人々は、その圧倒的な肉体美に魅了されました。鍛え上げられたその体は力強さとしなやかさを持ち合わせており、その堂々たる姿は彼の武勇と威厳を示しています。

 そして、レイラを見たライオニア王国の獣人たちもレイラが持つ美しい毛並みに大変魅了されました。その艶やかな毛並みは光沢があり輝いていて周囲の空気までも明るく彩るのです。


 二つの国は二人を地下牢に閉じ込めておくなんてとんでもない事だと、速やかにそこから出してあげました。そして温かく迎え入れてはもてなしたのです。


 これを見た邪神は大変不満に思いました。どうにかして争いを起こさせようと更に策略を練りました。そこで次なる一手として、ヴェリスタン王国には猛獣を放ち、ライオニア王国には豪雪を降らせたのです。邪神は二人の存在が災いを引き起こすのだと、そう思わせるよう仕組んだのですが、それは全く別の方向へ進む事となりました。


 シャデウスは襲いかかる猛獣たちを片っ端から倒しては人々を懸命に守り抜き、そしてレイラも、そのぶ厚い毛皮で獣人たちを寒さから必死に守ったのです。

 邪神は他にも地震や台風を引き起こしましたが、二人はそれぞれ知恵と工夫でそれを乗り切り、人々に絶大な信頼を得てゆきました。立ち向かう勇敢な姿は皆に勇気と希望を与え、やがて両国が一致団結する事となったのです。その姿に、もうどうしようもないと悟った邪神はついに去って行きました。


 平和を勝ち取った両国には、お互いを結ぶ虹色の橋が架けられました。その橋を最初に渡るのはもちろん両国を平和に導いたシャデウスとレイラです。

 初めて実物と対面した二人は照れながらも喜びを分かち合いました。そして抱擁を交わした二人には信じられない事が起こったのです。


 なんと、まるで二人の特徴が入れ替わるように、つるっぱげだったシャデウスの体にはフサフサとした立派な毛が、毛むくじゃらだったレイラの体は髪の毛以外の体毛が徐々になくなっていったのです。そこには威厳に満ち溢れた獣人王子と美しい姿となった王女の姿がありました。


 両国はこの奇跡を喜びました。二人は二つの国を結ぶ架け橋となり、和解を実現させたのです。

 その後、結婚した二人は幸せな生活を送りました。両国の関係はより強固なものとなり、彼らは文化や習慣を理解し合い、協力しながら共に国を発展させていったのです。

 二人の存在は平和と団結をもたらす英雄として多くの人の心に刻まれました。その活躍はこれからも語り継がれてゆく事でしょう……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

つるっぱげ獣人王子と毛むくじゃら王女 雅楽夢 @bee3gamu8

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ