第2話

「い、いてて」

 目を覚ますと、そこはじめじめとした洞窟。


 目は見える、音は聞こえる、立てる、歩ける。


「……成功だな」


 もしも失敗していたのならば、目を覚ますこともなかった。


 よって転移は成功した。

 彼は心の中でガッツポーズをする。

 


 (さっさと出ないとな)

 そう、彼は幼馴染の恋人を奪うためにここにやってきたのだ。

 だから彼は、さっさとここから出ていくことに決めた。


──しかし、


「あ?なんだこれ」

 今いる場所は、出口のないほら穴。つまりは、閉じ込められている。


「なんだよこれ、出られないじゃん!」

 彼の怒りの声は洞窟中に響く。しかし、誰もいない。


 つまり、脱出するのは不可能であった。


「俺は何のために転移したんだ?清美を手に入れるためだろうがっ!!」


 彼の叫びは洞窟中にこだまする。しかし、出口はない。


「ふー、とりあえずここから出る方法を考えないとな」


 彼はすぐに

冷静になる。こういう場合の対処法を母から習っていたからだ。


 (焦っちゃだめ、周りをよく見なさい)


「よし」

 そして周りを見渡してみるが、何も見つからなかった。


 そこで彼は、近くの壁や地面をぺたぺた触る。


「ん〜」

 すると、小さなくぼみを見つけた。


「ここに何かあったような気がするんだが……」

 彼は拳をそっと出し、くぼみを叩いて見せる。

 すると、ガコンという音がして、壁が崩れた。


「うわっ」

 壁が崩れた先には、階段が続いている。

 うん、何かがおかしい。


 転移前、彼にこんな怪力はなかったはず。


「まさか……」

 彼は試しに、拳を握りしめて力を込める。

 すると、壁に大きな穴が空いた。


「ははっ」


 思わず笑ってしまう。


(もしかして、人間じゃなくなってる?)


 目の前に出した彼の手は、指が4本しかなかった。それに爪も長く伸びている。


「ゴブリン……じゃないな、背が高すぎる。エルフ? いや、ツノは生えてないはず」

 彼は頭を悩ます。


 (なんか、鬼に近いな……鬼は異世界にいないはずだから、多分)


「あ、そうか!」

 ロクは、自分の種族を理解した。


 そして彼はすぐに、階段を駆け下りる。


(俺の種族はドラゴニュートだな!)


 ドラゴニュート、それは人間と竜の間にできた種族。知能が高く、魔方陣を扱うことに長けている。


 ドラゴニュートになった彼の頭脳は、人間の時よりはるかに良くなっていた。


 それに、こんなことまで──できるのであった。


「ドラゴニュートってやっぱ飛べんだな!」


 彼は階段を飛び降りた後、背中に生えた翼を使って飛んでいた。


 彼は翼を羽ばたきながら、スイスイと進む。

 そしてあっという間に、洞窟の外まで来てしまった。


(やっぱり異世界は最高だぜっ!)


 目の前に広がるのは大自然。

 木々が生い茂り、小鳥が鳴いている。


 とても神秘的な場所だった。


(さてと、早速清美ちゃんを探しに行きますかっ)


 彼は思い人を探すべく、飛び立とうとする──が


「くせものっ!」

 突然、後ろから何者かの声がした。


(早速お出ましか?)

 ロクは腰につけていた短剣を構え、声のした方を振り向く。


 そこには、金髪の男と、青髪ロングヘアーの美しい少女がいた。


 (早速美少女発見〜!いや、俺が好きなのは清美だけだから)


 美少女に興奮しつつも、警戒は怠らない。


「あの〜、僕は怪しいものじゃないです」


 そう名乗るが……


(どこが怪しくないんじゃボケ)


 ロクは心の中でツッコんだ。

 彼の見た目はほぼ悪魔である。

 これを怪しむなという方が無理であった。


 故に金髪の男が槍を突きつけて来た。


「こんな場所にドラゴニュートがいるなんてありえない!しかも言葉を話すとは」


(何を当たり前のことを言っているんだろう)


 しかしそんなことは言えないので、ごまかすしかない。


「えと……それは……ですね」

「まさか!貴様、魔王軍だな!」


(だからなんでそうなるんだよっ死ね!)


 ロクは心の中で再びツッコんだ。


(あーもうめんどくさえ)

 そして彼は、自分の目的を果たすべく動く。


「いや、あのですね……」

「やはりそうか!」


 ロクが何かを言おうとしたら、男は勘違いをして襲いかかってきた。


(もういいや……とりあえず殺そう)


 ロクは狂人である。男が死ぬのなんて気にしない。


「死ねっ!」

「くっ」

(こいつ、強い!)


 しかし、男は貧相な見た目に反して強かった。


「うわー、怖いよーごめんなさーい」

「は?」


 ロクは、命乞いをしてすぐに逃げる。


「待てーっ!この悪い猿!」

 後方では、金髪の男が必死に腕を振りながら走っていた。


 そんな敵を見て、思わず笑ってしまう。


「逃げたぞっ!追え!」

(うるせえな……)


 うるさい男の声を後にして、翼を広げる。そしてあることに気づく。


 (飛べない)

 そう、飛べなくなっていたのだ、


 理由は──


「待ちなさいっこのペラペラ野郎!」



 青髪の少女が、彼にそう叫んだ。


「ペラペラ野郎?」

 彼は疑問に思った。


「降りて来なさいってことよ!【引力】」

「なっ」


 【引力】によって、ロクの体は急に引き寄せられる。そしてそのまま落下した。


 (やっぱ異世界って最高だな)


 地面に衝突する寸前に、彼は翼を広げ、衝撃を和らげる。


 そしてそのまま無傷で着陸したのだった。


 目を開くと、青髪の美女がこちらを覗き込んでいるのに気づく。


「お強いですね〜、さすが美少女」

「……貴方何者?」


(そうかそうか、まず名前を聞かないとな)


 自分の美しい容姿をわかっているロクは、ニッコリと笑って名乗る。


「酒見です。貴女のお名前は?」


「……私はマリン・ファミル。」

 彼女は名乗った後、すぐに口を開く。


「ふふ、ドラゴニュートって初めて見たわ!美しいのね」

 彼女は、宝石のような笑みを見せた。


 (裏があるね)


 彼は直感でそう思った。

 これでも転生前、彼はほぼ詐欺に近い商売をしていたので、そういう裏を見抜くのは得意なのだ。


「ありがとうございます」

「あら、ドラゴニュートなのにお礼が言えるのね」

 少女はまた笑みを見せる。


 ロクは思わず彼女から後ずさる。

 とんでもない殺気を感じたのだ。


 すると彼女は、今までの笑顔はどこにいったのか。と思うほど顔をしかめる。

 そして槍をロクに向ける──。


「でもさ、魔物は我が国に入っちゃだめなの!だから失せろっ!!」


 彼女は、手のひらから火球を飛ばす。


「やべーー!!けどなんかダサい」

「死ねえええっ!」

 火球はあっさりと直撃する。


「がはっテメー何……痛って!」

「ギャハハハハッドラゴニュートとはいえ、弱いのだな!」


「死ねええ!はあっ!」

 少女マリンは持っていた木刀でロクを殴る。そして何度も攻撃した。


「キャハハハハッ!15歳の少女にボコボコにされる気分はどうだ!」

「最悪だよっ!」

「じゃあ死ね!」


「っテメーいい加減にしろ!」

「なっ!逆らうというのか?」

 少女は、彼の腕を掴んで投げ飛ばす。


 そのまま向かいの木まで吹っ飛んでいく。


 青年は気絶した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

タイトル募集中 細猫 @qoaWIqmskswm

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ