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細猫

第1話 異世界転移

「清美、放課後、屋上で待っててくれるか?」

「わ、わかった」


 (うぜえ)


 酒見ロクはいつものように、幼馴染2人を観察していた。


 どうやら今日、寺田慶次は白川清美に告白するらしい。


 ちなみにロクからすれば全く面白くない。


 そもそも、彼は清美が好きなので、清美に告白する慶次に腹を立てていた。


「慶次っ!成功すると思うか……?」

「ああ、そうかもな」


(バカなやつ)


 怒りをおさめようと、窓際へ目をやる。するとそこには、顔を赤らめている清美の姿があった。放課後が待ち遠しいのか、胸に手をやって嬉しそうにしている。


(清美ちゃん……かわいいなあ)

 思わず顔がほころぶ。そしてすぐに、表情を引き締めた。


 彼は清美のことが昔から好きだった。物心つく前から一緒にいて、彼女のことばかり見ている。


 そんな彼女の告白現場を盗み見るなんて最低だ、と自分に言い聞かせる。


(でも……気になる!)


 そうは思っても視線が吸い寄せられてしまう。やはり気になってしまうのだ。


***

 時が経ち放課後。屋上には、生徒が2人いた。


「またせて……ごめん」

「ううん、大丈夫」


 (チッ)

 いや、正確には3人だ。


 死角になっている場所で、壁に張り付きながら様子を見ている少年、酒見ロクがいる。


 彼はイライラしながら慶次を観察していた。


「どうして、よんだかというとな……俺」


(このバカ早くしろ)

 心の中で悪態をつくが、実際は何も出来ずにいた。

 告白などしたこともないし、好きな子に対してどうすればいいのか分からなかったからだ。


(ったく……ヘタレが)


 すると清美が口を開いた。

「それで……話って……?」

「えっと……」


 慶次は一度大きく深呼吸をする。そして叫んだ。


「俺、ずっと前からお前のことを──」

「何あれ」

 しかし言葉は遮られる。

 次の瞬間、空から黒い物体が降ってきた。


 ロクは、亡き母から教わった「カクバクダン」という言葉を思い出す。


「大丈夫かっっ!!」

「きゃあっ」

 慶次は幼馴染を守るために、彼女に覆い被さった。


 そして、黒い物体は2人に直撃する。


「……清美、大丈夫、か」

「いや、無理かも」


 2人は黒い物体によって、身体中が傷だらけになった。出血も止まらないようで、今にも死にそうだ。


「さっきの……続きだ、俺は出会う前からお前のことを──」

「言わないで、今言われても嬉しくない!もしも生きてたら、その時言ってね」


「……わかった。」

「そう」


 2人は言い終わると同時に息絶えた。


 ロクは飛び出しそうになる気持ちを抑えながら、2人を見つめている。すると、彼らの体を禍々しい魔方陣が駆け巡ったのを見た。


 そして、2人は跡形もなく消えた。


***

「白川さんと、寺田くんは──亡くなったそうです。」

 慶次達が爆発に巻き込まれた一週間。

 担任は生徒達にそう告げた。


 生徒達は、突然の出来事に悲しみ、そして驚いた。


 しかし、そうでない者が1人、それが酒見ロクである。

 彼は幼馴染の死に号泣するどころか、笑っていた。


 (勝手に、転移してんじゃねえ)


──幼馴染の自分を置いて、勝手に死ぬなんて許せない。勝手に恋人になるなんて許せない。


 そして、彼の頭の中は、1人の幼馴染のことでいっぱいになった。


(清美ちゃんに会いたい)


「今日は早退したいです」

 そして今日彼は、午前9時にて早退した。別に幼馴染の死に耐えられなかったわけじゃない。


 そして彼は、屋上から飛び降りた。彼らのいる世界に転移するつもりなのだ。


 地面に叩きつける寸前、彼はこう呟く。


「待ってろ、慶次!勝手に女作るなよ!」


 これが彼の最後の言葉だった。

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