第一章 ~『新人賞の受賞連絡を受けて』~
エリスが小説賞を受賞したと知らされ、隼人は病院へと急いでいた。駆け込むように、彼女の病室を開くと、そこに彼女の姿はなかった。
「エリスさんなら検査で外しているわよ」
看護師の女性が戸棚を片付けながら教えてくれる。
「なら待ってます」
「遅くなるかもしれないわよ」
「めでたいことがあったので、お祝いしたいんです」
小説を出版するのはエリスの夢だった。宿願が叶った喜びを分かち合うのは幼馴染である自分の役目だと椅子に腰掛けると、看護師の女性は思い当たる節があったのか声を漏らす。
「もしかしてお祝いごとって、竹岡先生との関係についてかしら?」
「どういうことですか?」
「あら、違った? 二人は美男美女だし、仲も良いから。てっきり交際したのかと誤解しちゃったわ」
苦虫を噛み潰したような嫌な想いが胸中に広がる。理想的なカップルだと認めつつも、エリスが誰かと交際することに拒絶反応を感じてしまったのだ。
「竹岡先生は病院でも人気なんですか?」
「看護師たちの間でファンクラブがあるほどよ。見惚れるほどの容姿に、高身長。さらには医者だもん。付き合えたら人生バラ色。女なら誰だって付き合いたい理想の男性よ」
「エリスも……もしあの人が恋人なら幸せでしょうね……」
「たぶんね」
「そうですよね……」
複雑な心情を固唾と共に胃の中に飲み込むと、病室の扉が開く。竹岡に連れられて、エリスが戻ってきたのだ。
「安静にね」
「はい」
竹岡は去り、エリスだけが残る。
彼女は隼人が見舞いに来てくれたと知ると笑みを浮かべる。だがそんな彼女を置いて、隼人は竹岡の背中を追いかけた。
「あ、あの……」
「ん? どうかしたのかい?」
呼びかけられた竹岡が振り返る。男でも見惚れるほどに整った顔立ちだった。
「あの、竹岡先生はエリスのことをどう思っているんですか?」
「患者と医者だよ。今はね」
「今は?」
「君がモタモタしていると、私のものにしちゃうよ。なにせ、略奪しても奪いたくなるほど魅力的だからね」
「…………っ」
「それに……君は彼女の状態を理解しているのかな?」
「先は長くないと聞いています」
「明日、死ぬかもしれない状態だ。好きなら焦ったほうがいい。私からできる忠告はそれだけさ」
そんな言葉を残して、竹岡は去っていく。その背中を見つめながら、隼人は覚悟を決める。
(エリスの幸せのためだ……)
隼人が病室に戻ると、看護師の女性はいなくなっていた。二人っきりの空間は慣れっこだが、なぜだか手に汗が滲んでいた。
「竹岡先生に用事でもあったのですか?」
「つまらない用事だ。それよりも新人賞おめでとう。念願のプロデビューだな」
「ありがとうございます。また長生きしないといけない理由ができてしまいましたね」
新人賞を受賞してから書籍として販売されるまでには時間がかかる。死んでしまっては折角掴んだチャンスも失ってしまうことになる。
「発売されたら、読んでくださいね」
「もちろんだ。発売日に購入する」
「そしたら、私、悔いなく死ねそうです」
「まだまだ幸せはこんなもんじゃないだろ。例えば、ほら、恋愛とか……」
「いつ死ぬか分からない私が恋愛なんてできませんよ」
「でも、竹岡先生がいるだろ」
「あの人は確かに魅力的ですが……」
「なら俺に任せておけ」
「隼人くん?」
「俺が必ずエリスを幸せにしてやる。約束だ」
エリスの手をギュッと掴み、元気づけるように力を込める。その冷たい手の平に、隼人なりの情熱を届けるのだった。
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【タイトル】
余命宣告を受けた少女の初恋相手は僕に似ているらしい。でも残念。僕はもう剣を捨てた陰キャです!!
【URL】
https://kakuyomu.jp/works/16817330669789946424/episodes/16817330669789967868
余命宣告された金髪碧眼の幼馴染が死を迎えるまで 上下左右 @zyougesayuu
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