2
いきなり桂羅が
「そういえば買い出し、
「ああ、息抜きだと言うから」
「何か言ってなかった?」
「
「合格したら私たちのところから通うのかしら」
「
「問題ないと思うわ。飛鳥さんにも事業を手伝ってもらって構わないのだから」
東矢財団のメディカルセンター構想には信頼できる担い手がたくさん必要だった。火花たちの従妹なら問題ないと叔父は考えると泉月は言うのだ。
「そうか」
「反応薄いね」
雀荘と違い家庭麻雀は自分で積む。さすがに自由自在に積み込む技術を火花は待っていなかったが、積んだ山に何があるか、特に字牌は覚えている。
間もなく火花が積んだ
火花の家では牌を積んだら卓を動かして位置を変えるのが慣例となっている。手癖の悪い祖父が積み込みで
今の流れではちょうど火花が
しかしそこに行きつく前に
これで
「ハリス……」思わず火花の口からその隠語が漏れた。
「ん」と
火花は桂羅を無視した。
「飛鳥ちゃんと星を観たんでしょ」楓胡が呑気に言う。
火花は助けられたと思った。そしてその直後に
もし泉月がふだんの手堅い泉月なら
この冬最初の
「星と言えばさ」桂羅が口を挟んだ。「ベテルギウスとかシリウスと……あと何だっけ。三つ合わせて何とかって言うんだよね」
「プロキオンよ」泉月が冷めた口調で答えた。「冬の大三……」
その
捨て牌に
「私に降りろと言うのね」泉月は桂羅を睨んだ。
桂羅が不敵に笑う。
泉月はため息をつき、
「余計なことを……」火花も桂羅を睨んだ。
「そういえばハリスって呟いたわね」泉月が言った。「
「何で知ってんだ? お前、トマス・ハリスなんて読まねえだろ」
「え、何、何」楓胡が能天気に訊ねる。常に猫を被る楓胡の真意は誰にもわからない。
「
「俺、そんなこと言ったことあったか?」
「
「お前、あいつと麻雀やったことないだろ」
「何を言っているの、あったじゃない。二度ばかり。
「あいつ、俺には妹の
「はあ」泉月はさらにため息を吐く。「同じクラスだし、同じマンションだし、いくらでも接点はあるでしょう」
「まだまだ手はある」火花は気持ちを切り替えた。もう一枚の
「あらー」楓胡が
「な、にー!!! そんな安い手、いつでも上がれただろう。俺を勝たせるために待っていたんじゃないのか?」
「そう思ったんだけど、最下位になったら火花ちゃんが今月十六回夕食を作ってくれるのよね。それも良いかなと思ったのよ。だって火花ちゃんのお料理美味しいじゃない」
「は?」
「読み間違えたね、火花」桂羅が勝ち誇る。
一位桂羅が決定し、一月の夕食当番はゼロとなった。
「良かったわ、楽しみにしているね、お・に・い・ちゃん」泉月がペロリと舌を出す。
「その呼び方、やめろといつも言ってるだろ」火花は悪態をついた。「わかったよ、作ってやるよ。お前らにこってりした高カロリーの晩飯」
「「はあ?」」桂羅と泉月が声をあげた。
「そういや桂羅、春先俺の作るものうまいうまいと言ってくれたよな。確か四キロ太ってジムに通うようになったんだっけ?」
「う」桂羅は歯噛みした。
「やだわ、どうしましょう、ブラ買いなおさなきゃ」楓胡はいつも呑気だ。
「やっぱり最低の男だったわね」泉月が吐き捨てた。
「にゃにおう……」
その時、すごい音がして
四人が一斉に見上げて凍りついた。
無表情の
従兄の雷が落ちた。
うたかたのビッグドラゴン はくすや @hakusuya
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