うたかたのビッグドラゴン

はくすや

 鮎沢家の正月は麻雀マージャンに明け暮れる。もともと祖父母とその娘、息子の四人で楽しんでいたのが始まりらしい。

 祖母が家を出たのを機にしばらく封印されていたが孫の火花ほのか雷人らいとが卓を囲むようになると復活した。

 ただ、生真面目な雷人らいとが何時間も麻雀をするはずもなく、雷人が退席すると母親の玲子れいこや妹の飛鳥あすかが引き継いでいた。

 その家族麻雀が今年は新たな局面を迎えていた。きっかけは昨年五月火花ほのかたちが初めて揃ってこの家を訪れた時だ。祖父晴明はるあき、叔父歳也としや、叔母玲子れいこ火花ほのかの四人で打っていたところに楓胡ふうこ桂羅かつら泉月いつきの三姉妹が観に来たことに始まる。

 楓胡ふうこは家を出ていった祖母から麻雀を教わっていたらしい。「私もやりたいです」と呑気な笑みを浮かべた。

「お前、泥沼にはまる覚悟があるのかよ」火花ほのかは言った。

火花ほのかちゃんと一緒なら」

 またかと桂羅かつら泉月いつきは呆れた顔を見せたが、後ろで観戦するうちに二人とも麻雀に興味を覚えた。カードゲームが好きならはまるものなのだ。

 楓胡は祖父晴明はるあきが酔って離れるとその後を引き継ぎ、桂羅と泉月はそれぞれ叔父歳也、叔母玲子に教わって覚えた。しかもコーチ役がそれぞれのキャラにぴったりだったものだから二人ともめきめきと上達した。

 学園の連中が知ったら天地が引っくり返るくらい驚くだろう。現生徒会長が祖父の家で家族麻雀に打ち込んでいる。誰も想像できないに違いない。一部知っている者もいるがそいつらも火花は取り込んでしまっていた。

 今夜の麻雀も祖父晴明が寝床につき、叔父歳也が酔いつぶれ、叔母玲子が介抱に呆れてしまうと火花たち四人の勝負になった。

 雷人と飛鳥も寝てしまっている。

「ただじゃ面白くねえから今月の晩飯当番を賭けねえか」火花ほのかが言った。

 この四人で何度も卓を囲んでいる。それぞれの性格も把握済みだ。何か賭ければ泉月いつきは手堅くなるだろうし、楓胡ふうこは火花に勝ちを譲る。桂羅かつらとのタイマンになると火花は見込んでの持ちかけだった。

 しかし、甘かった。

 何だ、こいつら上手くなってねえか。

 ただでさえこの三姉妹は優秀な上に性格が特徴的だ。

 優等生の泉月いつきはとにかく手堅い。親でないときは振り込まないように慎重に打つ。下りることが多い打ち方だ。しかし親になると安い手で上がり続ける。それこそ漫画の「宮〇照」みたいに。叔母玲子に教わったのが奏功している、と火花は思った。

 桂羅かつらは最も勝負師だ。五月の球技大会バスケの決勝で泉月が率いる二年A組と当たった時にその片鱗を火花は見た。四点負けていて残り数秒の段階から一か八かの逆転を狙うプレイは今でも伝説となっている。麻雀も大きい手を狙う傾向にある。上がった数は泉月の方が圧倒的に多いのだが、得点は桂羅が勝っている。

 楓胡ふうこにいたっては女優だから正体不明だ。何を考えているのか火花には全くわからなかった。

 そうして、気づいたら半荘ハンチャン三度やって火花は三位二回と四位一回。四度目の半荘オーラスにしてトータル最下位に沈んでいた。

 このままでは晩飯当番が月十六回も回ってくる。これは悪夢だ。

 何とか最後に挽回して三位には上がらなければならない。三位には楓胡がいたが、いかに火花に甘い楓胡でも自分が最下位になって夕食当番を半分以上受けるなどあり得ないだろう。

「もう最後なの? つまんない」楓胡が可愛い子ぶって言う。

「親の俺が勝ち続ければずっと楽しめるぞ」

「あら、そうね」

「手加減したらダメよ、楓胡」泉月が強い口調で言う。

「こいつが勝ち続けたらあんたが最下位に落ちるんだよ」桂羅も声を上げていた。

「そう言うお前が勝ちたいんだろう」火花は桂羅に向かって悪態をついた。

 現時点で桂羅がトータルで一位。二位泉月とは三千くらいの差だ。三翻3900で逆転可能だった。

 そして北家火花が親のオーラスが始まった。

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