第14話 ハレンチ?
新しいよそいきの服に身を包み、鼻歌交じりにアリーシャ様が鏡の前でくるくると回っています。
いつもは明るい色が多いのですが、今着ているものは黒が基調となっていて落ち着いた印象。
まるで私の白いワンピースと対になっているようで嬉しくなります。
「そろそろ到着の時間ですよ。外で待っていましょう」
「待って、今行くわ!」
歩いて丸々一日はかかることもあって、今回はメリッサさんに手配していただいた馬車に乗り込み移動します。
こうして私達は大会が催されるイルード城下町へとやってきました。もちろんアリーシャ様には単なる観光だと告げています。
お祭り騒ぎで賑わう中、ひとまずは宿をとり部屋に荷物を置いていきました。
「メアリ、まずはどこから寄るの?」
「この大通りは今特別な出店が多いそうなので、それを見て回ろうかと考えています」
「それは名案ね!」
アリーシャ様は私の腕にぎゅっと抱きついてきたのですが、柔らかなものが当たっていてどぎまぎとします。
「あの、アリーシャ……これは?」
「こうしていればはぐれないと思うのだけど、だめかしら?」
にこにことしながら首をかしげているアリーシャ様。
「たしかに合理的かもしれませんね。……でもどうして笑っているんですか?」
「なんでもないわよ。さ、行きましょう!」
ふと見かけたお店で買った、普段お目にかかれないようなお菓子を片手にアクセサリーのお店を見て回っています。
こういったところが初めてなのもきっとあるのでしょう。お店の方との会話が弾む様子に、アリーシャ様が心から楽しんでいるのがよくわかります。
こうして私達は時間も忘れ街中を巡っていきました。
「ここはなにをするところなのかしら。メアリは知ってる?」
「いえ。せっかくですし覗いていきましょうか」
闘技場に入り観客席に隣り合って座ると、アリーシャ様はきょろきょろと周りの様子を伺っています。
この方に怪しまれることなく大会出場を果たさなければなりません。よってここは恥を忍ぶ必要がありそうです。
私はなにが行われるのかの説明を軽く済ませると立ち上がりました。
「すみません、しばらく席を外します」
「どうかしたの?」
「少々お腹の調子が……」
「あら大変。わたしも医務室まで一緒にいきましょう」
「そこまでではありませんのでお構いなくです。もうじきに始まるそうなので、アリーシャは気にせず楽しんでくださいね」
さて、抜け出してすぐにすることは変装です。宿に戻り、購入しておいた戦士の兜と鎧を装着します。
腕とお腹と足の露出が多いのが気になりますが、受付終了時間の都合上そうも言っていられません。
「出場希望の戦士ミランです」
以前の名前で参加登録を済ませ控え室に通されます。中には三十人ほどが待機していて、一斉に私に視線が集まりました。
しばらく待っていると会場内での開会式が始まり、優勝賞品などの説明がなされます。
聞いていたとおり増幅の腕輪とだけ明示されましたが、これが三種の三つ目とは限りません。
可能性を一つ潰す意味でもひとまず手に入れてしまいましょう。
「ではこれより大会予選を開始します――」
ここからは高レベルの幻術を使い対戦相手の戦意を喪失させます。幸い魔法耐性の低い相手ばかりのようで、戦わずして勝ち上がっていきました。
その合間合間に変装を解き、アリーシャ様とともに観戦をするのですがいよいよ本格的に心配されつつあります。
「今日はもう帰りましょう。観光なんていつだってできるわ」
「いいえ、あともう少しなのです」
「ねえ、一体なにがなの……?」
さすがに苦しい言い訳でしたでしょうか。いぶかしむ様子から逃れてついに決勝となりました。
どうやらここまで来ると幻術は効かず、ようやく戦闘となりそうです。私は背負ったバトルアクスを構えました。
最後の相手は見るからに屈強な戦士で身長差はかなりのもの。観客席からはその名を呼ぶ声ばかりが聞こえてきます。
「それでは試合開始です!」
開始早々一撃で決めてしまってもよいのですが、相手の面子や今後の影響を考えれば互角といった雰囲気を出していった方がいいでしょう。
魔物相手に慣れつつある、武器による鍔迫り合いを演じて試合時間を稼いでいきます。
それはこのあとも防戦一方でいこうとしたその時です。
「あんた、初めて見た時男かと思ったぜ」
「はい?」
「貧相な体つきしてっからだよ!」
がははと下卑た笑いが響き渡り、私は頬が引きつるのを覚えながら上昇限界まで自己強化魔法を重ねがけします。
あえて防御させるようにゆっくり振り下ろし、武器同士がガキンと音を立てます。
直後全力で振り抜いたところ、男は場外まで飛んでいき壁に激突して止まりました。
「なんという幕切れでしょう! 大方の予想を裏切って戦士ミランが優勝、優勝です!」
こんなことなら初めから手加減しなければよかったです。そうして賞品を受け取ったあと急いで着替えアリーシャ様と合流したのですが……。
「あのミランという人、どこかで見かけたような気がするのよね」
宿への帰り道、そう問いかけられて私はどきりとしました。
「そうなのですね……」
「どこだったかしら」
「…………」
「わかったわ! メアリと背格好が似ていたの。髪の色も同じだった気がするのよね」
私はじいっと見つめられているのですが、そうなのです。アリーシャ様は妙に勘のいいところがあるので油断なりません。
「世界には自分によく似た人物が三人いると言いますからね」
「ええ、そうよね。メアリなら絶対にあんな破廉恥な格好しないもの。さ、宿に戻って夕食にしましょう!」
はれんち、ハレンチ、私そこまで破廉恥でしたか……?
楽しそうに先を行く姿をぼんやりと見つめながら、人知れずその言葉に衝撃を受けていたのでした。
スキル『能力偽装』でメイド無双 ~没落令嬢との百合百合らいふ~ ななみん。 @nanamin3
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