従妹からお返しをもらう話【2024/3/14】

(ん? メッセージだ、誰だろ?)


 会社からの帰宅中、電車の中で動画を見ていると、LINEに着信があった。私はメッセージを開く。


「えっ!? 猫音ちゃん!? ……あっ、すみません」


 LINEを開くとそこには猫音ちゃんのアイコンの左側に『①』というマークがあった。私はそのことに驚き思わず声を出してしまう。周囲から注目を集めていることに気づき一言謝った後、もう一度画面に目を向ける。


(やっぱり猫音ちゃんだ。でもなんでこの時間に?)


 スマホの時計を見ると現在時刻は21時、少し仕事が立て込んでしまって残業してからの帰宅だ。私はいつも仕事が終わった時は猫音ちゃんにLINEで連絡していて、反応がある時間とない時間からいつもなら猫音ちゃんはもう眠っているはずの時間だ。


(とりあえず、メッセージ確認しよう)


 そう考え猫音ちゃんのメッセージを開く。


『こんばんわ、小鳥お姉さん

 お仕事おつかれ様です!

 明日わたしたいものがあります!

 お仕事が終わったら家に来てくれますか?』


(小鳥ちゃんの敬語かわいい〜! 頑張って打ったのかな?)


 そう考えながらも私は返信を打つ。


『いいよ! でも少しおそくなっちゃうかも

 夜の7時くらいでもいい? ダメだったら土曜日に行くけど』


 送信するとすぐ既読がつき、返信が返ってくる。


『大丈夫です! 楽しみに待ってます!』


(ちょっと遅い時間になっちゃうけど、7時ならまだ起きてるかな? ところで渡したいものってなんだろう? 聞いたら教えてくれるかな?)


『わかった!じゃあ明日の7時ね

 ところでわたしたいものって何?』


『それはひみつです!』


(うーんダメか、まあ明日の楽しみってことで。猫谷さんに伺うこと連絡しなきゃ)


 そう考えた私は猫谷さんのLINEを開く。


『猫谷猫谷さん、夜分遅くに失礼します。

 猫音ちゃんに家に呼ばれて、明日の19時に伺おうかと思うのですが大丈夫でしょうか?』


 すると、またしてもすぐ返信が返ってくる。


『小鳥ちゃんこんばんわ。猫音から話は聞いてるから構わずいらっしゃい。頑張って作ってたから褒めてあげてね』


(頑張って作ってた? と言うことは猫音ちゃんの手作りか……もしかして!)


 私はカレンダーを開く。今日は3月13日、そして明日はホワイトデーだ。


(そう言うことか〜、むふふ〜楽しみだな〜)


 どう言った要件か把握した私は幸せいっぱいで残業の疲れなど完全に吹き飛んでいた。なお、後で電車内の人々にニヤけ顔を見られていたと気づいた時には死にたくなった。


 **


「お邪魔しまーす」


「おねしゃん! こっち!」


「ちょっと待って猫音ちゃん! 猫谷さんに挨拶しないと!」


 翌日、仕事終わりに猫谷家へお邪魔すると早速猫音ちゃんに部屋へ攫われそうになる。私はその前に猫谷さんに挨拶しないととリビングのドア枠に捕まってその場で耐える。


「猫谷さん、こんばんわ!」


「小鳥ちゃんこんばんわ。随分早いわね」


「はい、今日はたまたま仕事が少なくて、定時で帰れました」


「あらまあ」


 本当は昨日に引き続き忙しかったのだが、上司に大事な予定があるといい定時で帰らせてもらった。グッジョブホワイト企業。猫谷さんの様子を見る限りどうやら見透かされているようだが。


「私のことは構わず奥へどうぞ、猫音が待ちきれ無さそうだから」


 その言葉に猫音ちゃんの様子を見ると、より一層力強く私を引っ張りながらこちらを期待の目で見ている。


「わかりました、それじゃあお言葉に甘えて」


 そう言ってドア枠から手を離すと再び猫音ちゃんに引っ張られ始める。


「おねしゃん! こっち!」


「猫音ちゃん、一緒に行くから落ち着いて」


 少し小走りで猫音ちゃんついて行くと、猫音ちゃんの部屋につく。


「おねしゃん、ちょっと待ってて」


「は〜い」


 そう言って猫音ちゃんはバタバタとリビングの方へ走っていった。数分ほどして、猫音ちゃんが布の被せられた小さな台車とともに戻ってくる。


「おねしゃん、お待たせ! これ、プレゼント!」


「わ〜、なんだろな〜」


(ホワイトデーのお返しと言ったらチョコとかクッキーかな? でもあの台車はなんだろう?)


 私の小さな疑問はすぐさま大きな驚きへと変わる。


「はい! ほわいとでー?のプレゼント!」


「これは……すごいね」


 布の中には台車いっぱいに乗せられたお菓子があった。よく見るとお菓子の包装が手作り感満載で全て同じデザインだ。


「もしかしてこれ猫音ちゃんの手作り?」


「うん! 昨日いっぱい作ったの!」


「わ〜、嬉しいなぁ」


 本当は昨日の猫谷さんとのLINEで手作りというところまでは察していたが、ここまでの量とは思わなかった。


「すごいいっぱいあるね」


「うん! マカロンにキャンディーにキャラメルにマドレーヌ! それから――」


 猫音ちゃんは作ったものを1つずつ指を折りながら唱えていく。


「それでそれで! これは今食べて欲しいの!」


「これって、バウムクーヘン?」


「うん! これはおねしゃんと食べたくて」


「そっか、じゃあ食べよっか」


「うん!」


 バウムクーヘンの包装を解き、一切れ取り出して半分に割って片方を猫音ちゃんに差し出す。


「はい、どうぞ」


「ありがと――あむっ」


「猫音ちゃん!?」

 

 猫音ちゃんはそのまま私の手からバウムクーヘンを食べる。


「おねしゃん、そっちかして」


「え? あっ」


 私が反応する間もなく猫音ちゃんはもう片方のバウムクーヘンを奪い去る。


「はい、おねしゃん。あーん」


「えーっと」


「あーん」


「うぅ、あーん」


 猫音ちゃんからあーんされるのに少しこしょばゆく感じながらもバウムクーヘンを一口齧る。


「えへへ。おねしゃん、ずっといっしょにいてね」


「っ! それはずるいよ猫音ちゃん……」


 猫音ちゃんの無邪気な笑顔とその言葉にドキドキしてしまったのだった。


 **


「おねしゃん、どうだった?」


「うん、すっごくおいしかったよ!」


「ほんと? うれしいなぁ」


「ふふっ、ありがとね」


 無事バウムクーヘンを食べ切り、猫音ちゃんに感想を言う。先ほどは不覚にもドキドキしてしまったが、猫音ちゃんは子供で私は大人だってことを忘れてはいけない。


「ところで、どうしてこんなにたくさん作ったの? 大変だったんじゃない」


「えっとね、お母さんが『おかしにはひとつひとつ意味があるんだよ』って教えてくれてね。それで、どれがいいかな?って考えたんだけど」


「けど?」


「選べなくって全部作っちゃった」


「そっかぁ、全部かぁ」


 私は横目で台車の上を見る。お菓子はまだまだ山のように残っている。


「私、たまに猫音ちゃんの愛が怖いなぁ」


「たりなかった?」


「ううん、十分だよ」


 残りのお菓子は会社帰りに数日かけて持って帰らせてもらった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

マカロン:あなたは特別な存在

キャンディー:あなたのことが好き

マドレーヌ:特別な関係を築きたい

キャラメル:一緒にいると安心できる


バウムクーヘン:幸せがずっと続くように

 

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従妹百合連作短編シリーズ 熊肉の時雨煮 @bea_shigureni

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