従妹にチョコをあげる百合【2024/2/14】

「猫音ちゃん!引越しおめでとう!」


「ことりおねしゃん!」


 家から徒歩10分程度、住宅街の一軒家の一室。私、小鳥は猫音ちゃんのお部屋にお邪魔していた。その目的は引越しを祝うのもあるが、本命はもちろん――


「猫音ちゃん!これ、チョコね」


 2月14日、バレンタインデーのチョコを渡すことだ。


「おねしゃん、いいの?こんなに」


 猫音ちゃんは受け取ったチョコを見てそう聞いてくる。と言うのも私が贈ったチョコは目の前にある少し小さめのローテーブルを埋め尽くすほどの量がある。さらに、猫音ちゃんは気づかないだろうがその中のいくつかは少しお高いものもある。新卒社会人かつ実家住まいの財力を存分に発揮したバレンタインチョコだ。


「もちろんだよ!今まではお正月にしか合えなくってこういうのを渡せなかったし」


「ありがと!」


「まあそれに……一応恋人だしね」


「!コイビトだもんね!」


「うん!」


 一ヶ月半ほど前のお正月。猫音ちゃんにあった際、猫音ちゃんはお年玉として私が欲しいと言った。当時恋人いない歴=年齢だった私は猫音ちゃんに押し切られて恋人になったというわけだ。まあ私自身こんな可愛い子が恋人になるのならやぶさかではないし、猫音ちゃんも、好きな人ができたら自然消滅するだろう。

 とはいえ今は恋人な訳で、それなら恋人らしいイベントを楽しもうじゃないかと思い、大量のチョコを買い込んだのだった。


「おねしゃん、食べていい?」


「良いけど、全部で食べちゃダメだよ。毎日少しづつね」


「はーい!」


 私の忠告を聞いた猫音ちゃんは一番近くにあったポッキーの小包を手に取る。私は自分のバッグから水筒を取り出し、飲み物を準備する。


「はい、猫音ちゃん」


「はひはほ!」


「ふふっ、口にものを入れたまま喋っちゃダメだよ」


「もぐもぐ……んくっ。はーい!」


 咥えていたチョコを食べ切った猫音ちゃんは、返事をするとまた次のチョコへと手を伸ばす。お正月の時はませた事をしているなとも思ったが、こう言ったところはやっぱり年相応だ。


「んくっ。おねしゃんは食べないの?」


「私?」


「うん」


「でもこのチョコは猫音ちゃんにあげたものだしなぁ」


「猫音、一緒に食べたい!」


「そう?それじゃあ1つだけ」


 自分であげたチョコを食べるのはどうだろうと考えたが、猫音ちゃんの強い勧めもあり一緒に食べることにする。


「どれにしようかな〜」


「ん!」


「猫音ちゃん?」



 私がどれを食べようかと悩んでいると、ポッキーを加えた猫音ちゃんがこちらに口を突き出してくる。


「ん!ん!」


「えっと、これを食べろってこと?」


「うん!」


 私が質問すると、猫音ちゃんは満足そうに頷いて肯定する。でもそれって――


(ポッキーゲームじゃん!)


「えっと、猫音ちゃん?」


「ん!!」


「……わかったよ」


 猫音ちゃんに説明しようとするも、猫音ちゃん期待に満ちた目でこちらを見つめている。おそらくこれはわかってやっているのだろう。それを見て私は覚悟を決めた。


「いただきます……あむっ」


 少し恥ずかしくて目を閉じた私が差し出されたポッキーの端を加え、それを見て猫音ちゃんが反対側からポッキーを食べ始める。


(まあ、もうキスはしてるしポッキーゲームくらいなんとも……)


 そう思いながらポッキーを食べ進めようと目を開けると、目の前には猫音ちゃんの綺麗な顔があった。時間が進むにつれ、じわじわとその顔が迫ってくる。


(あっ、ダメだ、これ。かなり刺激が)


 目の前に広がる光景にドギマギしながらも、私もポッキーを食べ進める。距離はさらに近くなり、鼻同士がくっつきそうになる。猫音ちゃんは少し顔を傾け、目を閉じさらに食べ進める。これはそう言うことなのだろう、それを見て私も目を閉じる。

 そのまま3秒ほどの時間が経つ。長いようで短い時間の中、緊張と少しばかりの不安の入り混じったような感情の渦巻く私の唇に、ふにっと柔らかい感触が伝わる。そこからさらに二秒ほど、唇の感触が離れ始める。これで終わりだと思った私の唇に、不意に生暖かいものが伝う感触が走る。


「っ!」


 その感触に驚き、私は跳ねる様に猫音ちゃんから離れる。目を開け、猫音ちゃんの方を見ると、満足そうに微笑みながら自分の唇を舐める猫音ちゃんの姿があった。


「あ、今、舐め」


「おねしゃん、顔真っ赤だよ?」


「こ、これは、猫音ちゃんが……」


「ふふっ、かわいい」


「っ!!」


 猫音ちゃんの言葉を聞き、私は急いで顔を背ける。


(やっぱり、ませすぎでしょ最近の子……)


 そんな事を考えながら、私は不意に先の感触を思い出し、心の中一人で悶えていたのであった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

お久しぶりです、熊肉の時雨煮です。


こちらの旧『従妹にお年玉をあげる百合』ですが、タイトルを『従妹百合連作短編』として何かしらのイベントごとに更新することにしました!


低頻度更新になるでしょうが、楽しみにしていてください!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る