従妹百合連作短編シリーズ

熊肉の時雨煮

従妹にお年玉をあげる百合【2024/1/1】

「猫谷さん、明けましておめでとうございます!」


「あら小鳥ちゃん!あけましておめでとう」


 1月1日、元旦。私、小鳥遊小鳥は祖父母の屋敷にて叔母の猫谷さんに新年の挨拶をしていた。


「小鳥ちゃんもすっかり大人ねぇ。確か大学卒業して、もう社会人だったかしら?」


「猫谷おばさん!あけましておめでとうございます!おかげさまで第一希望の会社に就職できました!」


「よかったわねぇ、色々聞かせてちょうだい」


「ことりおねしゃん!」


 猫谷おばさんと軽く世間話をしていると、猫音ちゃんに私の服の袖を引っ張られる。

 

「猫音ちゃん!あけましておめでとう!」


「ことりおねしゃん!あけましておめでとうございます!」


 猫谷猫音ちゃんは私の13歳下、小学四年生の従妹だ。私達の家では年に1回、親族一同で祖父母の家に集まることになっている。猫谷さん一家は海外住みでなかなか日本に帰ってこれないので、猫音ちゃんと会うのは年に1回の私の楽しみなのだ。

 

「おねしゃん!こっち!」


「あ!待って猫音ちゃん!」


「ふふっ、お昼までには戻ってくるのよ」


「はい!娘さんお借りします!」


 猫音ちゃんに引っ張られるまま、私は屋敷の空き部屋へと連れ込まれる。この部屋は、毎年猫音ちゃんと会う時に一緒に遊んでいる部屋で、祖父母もそのことを知っているのか、この部屋だけは空き部屋のままにしていてくれている。


「猫音ちゃん、今年は何して遊ぼうか?」


「えっとね……これ!」


「これって、ゲーム?」


「うん!クリスマスに貰ったの!」


「そっか!いいもの貰ったね!じゃあこれで一緒に遊ぼうか!」


「うん!」


 私はその辺から適当な机と椅子を二脚引っ張り出すと、猫音ちゃんが取り出した携帯ゲームを卓上モードにして片方のコントローラーをもらう。プレイするのは横スクロールのアクションゲーム。私は猫音ちゃんのアシストに回りながら、猫音ちゃん主体になるようにプレイする。


「猫音ちゃん!あと一発!……っ!やった〜!ボスクリアだ!」


「やった〜!」


「よし、一区切りついたし、ちょっと休憩しようか」


「うん!」


 最初のボスを倒したところで一度休憩を挟むことにする。私は持ってきていたバッグからお茶の入った水筒や紙コップ、お菓子などを取り出し机に並べる。


「はい、猫音ちゃん、これお茶ね」


「おねしゃん、ありがとう!」


「うんうん、いっぱい食べてね」


 無邪気に返事をする猫音ちゃんを見ていると、ついつい甘くなってしまう。今年は私も社会人になったということで親族の子供達にお年玉を用意してきたが、猫音ちゃんの分は少しだけ多めに入れてしまった。お母さんにバレたら怒られそうだが、渡してしまえばどうしようもないだろう。


「はいこれ、猫音ちゃんのお年玉」


「……いいの?」


「うん!でも中身は秘密にしておいてね」


「うん!ありがとう!」


 忘れないうちにとお年玉を渡すと、猫音ちゃんは嬉しそうに受け取る。しかし、そのあとぽち袋を見つめたまま動きを止めてしまった。


「猫音ちゃん、どうかしたの?」


「……おねしゃん、お話ある」


「え?うん、いいよ。何かな?」


 今まで見たこともないほど真剣な顔をした猫音ちゃんが私にそう言ってきた。その様子に私は姿勢を直して聞く。


「このお年玉、いらない」


「えっ!?」


「その代わりに欲しいものがある」


「な、なんだそういうことか。いいよ、何が欲しいの?」


 いきなりお年玉がいらないと言われて驚いた私に、猫音ちゃんが代わりが欲しいと言ってくる。珍しくわがままを言ってきた猫音ちゃんに、私が用意できるものならなんでも用意してあげようと思いながら続く言葉を待つ。


「えっとね、私、引っ越しすることになってね」


「そうなんだ、どこに引っ越すの?」


「お母さんが、おねしゃんと同じとこだって」


「え!?じゃあこれからはもっと一緒にいられるってこと?」


「うん、だからね、今までは無理だったけど、今ならできるかなって」


「?それで何が欲しいの?」


「おねしゃん、こっち」


 猫音ちゃんが私に手招きしてくる。顔を赤くしてるので恥ずかしくて耳元で話してくれるのかなと思い猫音ちゃんに近づく。


「――ちゅっ」


 そんな私の唇に、猫音ちゃんはキスをした。


「えいっ!」


「へっ!?」


 驚きのあまり思考停止していた私は、猫音ちゃんに押し倒されてしまう。気がつくと、猫音ちゃんは私のお腹の上に馬乗りになっていた。


「えっと、猫音ちゃん?これは――」


「私、ことりおねしゃんが欲しい」


「……え?」


「ちゅっ」


「んんっ!」


 猫音ちゃんの言葉に混乱していると、再びキスされてしまう。今度はさっきよりも長く、深いキスだった。


「ぷはっ」


「んっ、猫音ちゃん!?どこでこんなキス覚えてきたの!?」


「学校で男子が読んでた本に書いてた。コイビトのキスだって。ちがう?」


「えっと、確かに間違ってはないけど……え?恋人?え?」


 いまだに混乱している私の両頬に、猫音ちゃんの両手が添えられ、再び猫音ちゃんの顔が迫ってくる。


「待って待って!なんで私に恋人のキスをしたの?」


「……おねしゃんが欲しかったから」


 再びキスされるのを静止し、理由を聞き出すと、猫音ちゃんはもう一度そう答える。


「えっと、欲しいって?」


「……お年玉って、大人が子供にくれるものなんだよね?」


「うん、そうだね」


「大人になると、コイビトとケッコンってのをして、その人のトクベツになるってお母さんが言ってた」


 欲しいという部分に関して聞くと、猫音ちゃんはそう説明を始める。


「おねしゃんが誰かのトクベツになるの、私嫌……だから、私がおねしゃんのトクベツになる!私がおねしゃんをトクベツにする!」


「だから恋人のキス?」


「うん」


 猫音ちゃんの説明を聞いて、やっと理解できた。要は私が誰かのものになるのが嫌なのだろう。


「大丈夫だよ猫音ちゃん。私はまだ結婚しないから」


「……いつかはする?」


「まぁ、するかもしれないけど」


「じゃあ嫌!私がケッコンする!ケッコンするの!!」


 私が将来的には結婚するかもしれないと知ると、猫音ちゃんは涙を浮かべながら私の胸に飛びついてきた。できることなら私だって猫音ちゃんの願いを叶えてあげたい。

 

「でも恋人ってのは……」


「……コイビトって、好き同士の人がなるんでしょ?私、おねしゃんが好きだよ。おねしゃん、私のこと、嫌い?」


「っ!!好きだよ!大好き!」


「じゃあコイビトになって!」


 私がどうするべきか結論を出せず悩んでいると、猫音ちゃんが上目遣いでそう聞いてきた。思わず私も好きだと答えると、涙を浮かべながら再び迫ってくる。


「……わかった、いいよ」


「っ!本当!?」


「うん、猫音ちゃんの恋人になるよ」


 あんな目で見つめられてきたら答えないなんてできない。あの目は反則だよ。

 

「やった!今日からおねしゃんとコイビト!コイビトコイビト!」


「ふふっ、嬉しそうだしまあ今はこれでいいか」


 猫音ちゃんは嬉しそうだし。猫音ちゃんが恋人の意味を本当に理解して、好きな人ができたらその時は私がちゃんと別れればいい。


 この時私は、未来で法律が変わり本当に結婚することになること。そして私自身が猫音ちゃんに惚れてしまうとは微塵も思っていなかった。


「ところで、なんで今までは恋人になれないって思ってたの?」


「えっとね、前に猫ちゃん拾ってきた時にお母さんが『ちゃんと世話できないんだから拾ってきちゃダメだ』って。だから毎年1回しか会えないおねしゃんもダメだと思って」


「際ですか……」


 どうやら私はペットと同じらしい。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

皆さんあけましておめでとうございます!熊肉の時雨煮です!


今回はお年玉を題材に、初めて短編での投稿をしてみました。


短編だけでなく、【吸血公女に拾われた】でもお正月番外編や【愛する姉と恋する妹のシスコンラブコメ】の本編更新もしますので読んでいただけると幸いです!


皆さんにとって良い一年でありますように。そして今年もよろしくお願いします!


【吸血公女に拾われた】:https://kakuyomu.jp/works/16817330663314119392

【愛する姉と恋する妹のシスコンラブコメ】:https://kakuyomu.jp/works/16817330667464614825

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