第20話 五柱の神々の愛 ~少年期の終わり

「やれやれ、面倒ごとに巻き込まれちゃったよ」


 でも、他の受験生の力を見れたのはよかったかもしれない。

 サンプル数1だと信頼度は低いけれど、とりあえずあのなんとかって人の土魔法より僕の地神アトラスの力の方がずっと上回っていた。


 他の受験生と比べて決して劣ってはいない。

 武術の方もシュターク父さんに認められたし、魔法も武術もどっちも十分合格できる圏内にいるはずだ。


 そう希望を増して僕は試験会場の校舎、そして教室に入った。

 後ろほど席が高い位置にある段々教室になっていて、前には試験官がいて、黒板には『アカディウス学院・入学試験【学問科】 開始時刻10:00』と書いてある。


 僕は試験までの時間を集中力を高めながら過ごすことにした。


 ……ん?


「あれ……?」


『アカディウス学院・入学試験【学問科】 開始時刻10:00』


 ――アカディウス学院には武術、魔術、学問の三つの学科がある。

 

「学問科!?」


 ガタッと立ち上がってしまい、他の受験生達の注目がいっせいに集まる。

 やば、と慌てて座って平静を装うが心の中は大荒れだった。


 学問?なんで?なんで?

 武術と魔術は神の力でいけると思うけど、学問って。

 そりゃまあ前世の知識で数学とか理科ならこの世界基準でみれば相当できると思うけど、それ以外は全然自信ないんですけど!?


 父さんと母さんが手続きしてくれてて、楽でいいわ~と思ってたけど、なぜ学問に!?

 間違えたのかな、いやあんな風に話してたのに間違えないよな。

 いったいなぜ!?


――――――――――――――――――――

「ねえシュターク、どの学科がいいかしらあの子には」

「ああ、それなんだが……学問科にしたらいいんじゃないかって思ってな」


 出願前日、グリーンティアの自宅にて。

 サリアとシュタークがリイルの入学について話し合っていた。


「学問? でもあの子が得意なのは魔術……のような神の力と、武術のはずよ?」

「だからこそ、だ。はっきりいってあいつの力はもう学生のレベルを飛び越えてる。俺たちよりも上にいってるほどだぞ、もはや学ぶどころか教える側よりも上だろう」

「たしかにそうね」

「だとしたら、一番学ぶことがおおいのは何か」

「なるほどね! 学問が一番あの子が得るものが多いってことね」

「ああ。そういうことだ」

「さすがねシュターク、いつも鋭いんだから」

「そんなに褒められると調子に乗っちまうぞ~サリア」

「シュターク❤」

「サリア❤」


 だが二人は忘れていた。

 多くを学ぶ以前に入学できなければ学べないということを。

――――――――――――――――――――


 くっ……しかしもう今更変えられないし、学科試験をなんとかパスするしかない。

 家にあった本は結構読んだし、なんとかなるはず……多分!


「それでは試験を開始します」


 試験官が合図をし、問題用紙を配り始めた。

 もうやるしかない!


 問題用紙にはこの世界の歴史や地理に関する問題がびっしりと出題されていた。

 僕はそれを見て……。


(全っ然わからない)


 難しすぎる。

 こんなもん専門にみっちり受験勉強してなきゃ絶対無理でしょっていう複雑で細かいところまで聞いてくる問題だった。

 いやまあ入試って普通そういうものか。


 しかしこれでは学院に入れない、どうしよう……。

 なんとか考えるんだ。思いっきり考えれば何かわかるものがあるはず……。

 

 しかし、なんともならない。

 元々知らないものは、考えたってどうにかなるはずがない。頭の中にないのだから。


 やばいこのままじゃ落ちる。

 お願いします神様なんとかしてください!


 祈った瞬間、僕の頭上に光が差した。

 これは……もしかして神様が本当になんとかしてくれたのかな。


 そういえば、文武両道の文を司るミチザネという学問の神様がいるという。その神様が僕に力を貸してくれたのかも!


 もしかして頭の回転が早くなってたり?

 そう思って今一度、問題をじっと穴が開くほど見つめ倒すと。


 ぼやぁ……っと、問題用紙に文字が浮かび上がってきた。 

 もちろんその文字は……問題の答えだ。


(えっ、学問の神様の力ってそういう系!?)


 頭がよくなるとかそういうのを想像するじゃないですか、普通。

 答えが問題用紙に出てくるって、それは学問の神様のすることなのだろうか……?


 これそのまま書き写していいのだろうか……と一瞬疑問を覚えたが、しかしこの答えは僕の能力で召喚したものだから、自分の力に違いない。

 禁止事項は何も抵触していないし、自力で解いたのだから問題なしだ!


 というわけで、僕は神の力で明らかになった答えを解答用紙に書き写していった。

 歴史以外の他の科目についてもその力は発揮され、僕はバッチリと全ての問題に答えることができたのだった。




 なんと驚くことに次の日にはもう合格発表がされるというスピード感で、その日は宿に一泊して、翌朝学院へと行く。

 受験生は大教室に集められ、そこで合格者の名前が呼ばれていくという方式での合格発表だが――。


「………………リイル=シュターク!」

「はい!」


 文句無しに僕は合格できた。

 ありがとう神様。

 試験で神頼みが本当に役立つことがあるなんて、今日まで知らなかったよ。


 しかも!『極めて優れた試験結果』ということで、特待生の学費免除で学院に通えることになったのだ。

 これで、学院に通うための条件もクリアーだ。

 

 教室、教師、生徒……学院でこれから僕が関わっていく人を眺めながら、僕は決意する。


「この学院での生活がどうなるか……とにかくこれから四年間、頑張って行かなきゃね」


 そして来月から四年にわたる、僕のアカディウスの学院生活が始まる――。




******天界*******


「ふっふっふっふ。儂のおかげで無事入学できたぞ。見たか? フツヌシよ」

「ふん、その前に入試とやらを受けることになったのは我の武の力がきっかけだ。つまり我の方が貢献しているということよ」


 文の神ミチザネと武の神フツヌシは、地上の様子を映すスフィアに食いついて見ながら、言い合いをしていた。


 ここは天界。

 神々が過ごし下界を見守る世界。

 だが今彼らの目は下界全部より一人の少年に向いている。


 緩やかなローブを身に纏った、亜麻色の長髪をなびかせる天の神ゼウスが、それよりやや離れたところで興味深げに頷いている。


「ふむ。こうなるとはな。だがよいことだ。天空のごとく大きな世界に飛び出すべきだ。リイル=ゼルークは。そうは思わないか? オケアノスよ」

「ええ。それに関しては同意です、ゼウス。しかし――」


 青いウェーブのかかった髪をかき上げながら、オケアノスはしばし考え込む。

 何かを憂いているようだが、長い睫毛がその表情をさらに物憂げに見せている。


「あの子を追っている時に出会った、アープの信奉者達……あれが少し気にかかります」

「ふむ……旧神どもにいまさら力があるとは思えんが、信奉者達が今でも根強く残っているなら、面倒なことになるやもしれぬな」

「ええ。……でもきっと大丈夫ですよね! あの子はアープの使徒達を『私の』力でぼっこぼこにやっつけてましたし! 私とリイル君の愛の力があれば、何が起きようと余裕で乗り越えられちゃいますよ!」


 オケアノスは嘘みたいにからっと表情を晴れ上がらせた。

 にまにまと地上の様子を映すスフィアが捉えている、入学式中のリイルの様子を眺めている。




 そんな、リイルに注目して溺愛して力を与えている神々の様子を冷めた目で見つめる神が一人いた。

 黒いショートカットの少女の姿の神は、面倒くさそうに仰向けに寝っ転がりながら、濃い隈の目でリイルの様子を見る彼らを見つめている。


「ところでさ」


 黒い神は小さい、しかし響く言葉をオケアノス達にかけた。

 オケアノス達は一斉に黒い神の方へ振り返る。


「そもそもなんで、あんた達ってリイル=シュタークのことそんなに愛してるの?」



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彼は神様達から愛愛愛愛愛愛愛愛愛されすぎている 二時間十秒 @hiyoribiyori

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