終わりの日

すべてが沈んだところで私はついに目を覚ました。


最初から夢だと知っていたのに途中から忘れていたようだ。


辺りは薄暗いが時計を見ればそろそろ夜明けのようで東向きの部屋はすぐにカーテンの隙間から光がちらつくだろう。


最近はとても慌ただしくて心がすり減ってしまっていた。

もうこの時間に起きる必要もないのに体に沁みついた習慣が忌々しい。


二度寝することも出来ずぼんやりとベッドに横たわりながらスマホでネットニュースを眺める。


もう間もなくだと懸念されていた国がとうとう水没したようだ。


ここはあとどのくらいだろう。




ああ本当に……飲み込んでやればよかった。

すべてが沈んだなら鳥になってもどこへも行けない。

だから魚になりたかったんだった。


はるか南の低い低い空に少しだけ強く光る星がある。

水瓶からこぼれた洪水を受け止める、あの魚になって一旦ぜんぶ飲んでやるんだ。



飲み干したならその水を今度は分からず屋の白い椿の枝に、花を避けて少しだけかけてやるのだ。

冷たい、と言って睨んでくるだろうな。


私はいい気味だと笑ってそれきり忘れる。


復讐なんてそれだけでよかったんだ。



水が止まらない。



それが出来ていたなら……。

たったそれだけのことが出来ていたならきっともう世界は沈まないのに。




明るくなってきた。

水浸しの朝が来る。


私はもう、魚ではない。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

終わりの魚 晏久良 魚月 @phalegln

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ