猫と魔法使い

長田桂陣

一話完結

「そんなぁ、こんなに頑張ったんですよ?」


 少女に試験官から言い渡されたのは不合格だった。


「その程度の変身魔法では、この名門魔法学校には入れないよ」


 少女は試験官に詰め寄る。

 今日の魔法の出来は中々のものだと自負している。


「師匠だってこの魔法なら、合格間違いなしだって言ってくれたんです」


 少女が抱えている黒猫がニャーと鳴いた。

 えい!っと少女が呪文を唱えると、少女の姿が子猫にかわる。

 抱えていた黒猫はするりと地面に着地した。

 それを見た試験官がなぜ不合格なのか説明してくれる。


「小動物への変身魔法は初級なんだよ。合格基準は中級魔法からなんだ」


 子猫はニャーと鳴くと、再び少女へと姿を変える。


「よく見てください! しっぽも耳も完璧なんですよ!?」

「よく見ろって、もう元の姿に戻っているじゃないか」

「何を言っているんですか、よく見てくださいよぉ!」


 そんな騒ぎを聞きつけて、青年が現れた。

 青年の登場に試験官が安堵の表情をうかべる。


「いったいどうしたのですか?」

「先生、なんとかしてください。この受験生が不合格を聞き入れないのです」


 青年教師の登場に少女の顔が真っ赤になった。


「しししし、師匠。あの人です。あの人が私を助けてくれた人です」


 黒猫がにゃーと鳴く。

 少女は思い切って青年教師に声をかけた。


「あの! 先日は助けていただきましてありがとうございました。貴方に会いたくて魔法学校へ入学しに来ました」


 青年教師が少女をまじまじと見た。

 しかし、どうにも見覚えがなかった。


「失礼ですが、どなたかとお間違えではないですか? 私は君に覚えがないのです」

「そんなぁ」


 少女にすがりつかれ青年教師は困り果てた。


「と、とにかく魔法を見せてください。今は魔法学校の入学試験の最中です」

「そうでした。そこのおじさんは私の中級魔法を初級魔法だって言うんです!」

「中級魔法を見せてくれるのですね? 中級の変身魔法といえば小さな動物では駄目です。最低でも人間サイズのものに変身してください」


 少女は断言する。


「はい。今日の出来は特に良いのです。合格間違いなしです。耳もしっぽも牙だって完璧です! よく見てください」


「……」

「……」


「あの、早く魔法を?」

「あ、変身するところから見たいのですね。お任せください。えい!」


 少女が呪文を唱える。

 そこには先日、青年が助けた子猫が佇んでいた。

 

 黒猫師匠がにゃーと鳴いた。


おわり

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猫と魔法使い 長田桂陣 @keijin-osada

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