第50話 私は私を超えていく
「誰が男バスよ。私は中学の時は女バスよ。まあ、周りが私のレベルについて来られなかったから高校では続けなかったけどね。」
「違いますよ。ダンマス。ダンジョンマスターのことです。」
「何それ?美味しいの?」
「そっか。先輩、ゲームとか興味ないですもんね。」
「知略を競うようなものならまだしものんべんだらりとやるようなゲームなんて時間を無駄にする最たるものね。で、ダンマスがどうしたっていうのよ。」
「ええと、私のステータス上では先輩が私のダンマスになってるんです。」
「そのどこに不都合があるのかしら。ダンマスが何かは相変わらずよく分からないけどマスターっていうくらいなら私が支配する側なんでしょ。で、須奈乃が下僕。いつもの日常通りで何も問題ないじゃない。」
「誰が下僕ですかっ。まぁ実際そうかもしれないですけどね。それは置いといて、ダンマスがどうこうより、このVRみたいな感じで見えてるステータスに何か思うところはないんですか!?先輩が訊いてきたのもこれのことですよね!?」
「うん、だから判らないから訊いたんじゃない。須奈乃は馬鹿ね。」
「あー、馬鹿って言った~。先輩のくせにこんなこともわからないんだ。」
「意味の分からない文字っぽいのが羅列されているだけでそれが何か判る方が異常ですぅ。ぱっと見たところ何かに変換できそうもないし。」
「へ?どういうことですか。」
ここまでのやり取りを見聞きしていた近くにいた子たちも寄ってくる。
「寮長、私にも変な画面が見えちゃって寮長がダンジョンマスターってなっているんですけど…。」
「私もです。」
「私には寮長が「お姉さま」になってます♡」
「ミーにも見えるねー。イヨがマスターになってるよー。あと、「fleet-footed」なんてスキルがあるらしいねー。」
私にも見えるってのがどんどん集まってきて、やれ自分のスキルはこうだとか情報が錯綜し始める。
「一度鎮まってちょうだい。で、みんなが見えているステイタスとやらにはどんな情報が見えているのかしら。」
整然と聞き取りを進めるとどうやらみんなには自分の名前と能力を数値化した情報、超能力みたいな特別な力っぽい名称が見えているようだ。
そう言えばスキルを獲得した、なんて聞こえた気がするわね。
なるほど、なんとなく判ってきたわ。
「どうして先輩だけちゃんと見えないんですかね。」
「そんなの決まってるじゃない。私を数値化しようなんて無謀なことをするからよ。明日の私は今日の私を当たり前のように超えていくのよ。それこそ一秒後の私は今の私を超え続けていくのよ。固定値で表現されてたまるもんですかってことよ。」
なぜか「おー」という溜息にも近い歓声と小さな拍手があたりを包む。
「先輩らしいですね。で、肝心のダンジョンってどこにあるんでしょうね。」
「それもどうでもいいわね。須奈乃、とりあえずその皆が持ってるっていうスキルの一覧でもまとめといて。」
「はい、ってなんで私が!?それってダンマスのやるべきことじゃないんですか。」
「私は私にしかできないことをするから気にしなくていいわ。」
「…はぁ、仕方ないですね。はーい、みんなー、ちょっと聞いてねー。寮長のお達しで皆のステータス情報を学生アプリのアカウントにつけ足しておいて欲しいの。偽の情報にしといて後でバレたらどうなるかは寮長の性格知ってるなら判ってるはずよね。開示先は寮長と私だけで構わないからすぐにやっておいてねー。」
須奈乃の言葉を聞いて、周りにいた皆が一斉にスマホを操作し始める。
須奈乃はここにいない寮生にもステータスが見えているかもということで一斉通知するために作業している。
どうやら何かが起きているのは間違いなさそうね。
この状況から考えられることはいろいろあるけど行動していれば自ずと事実が判ってくることでしょう。
大事なのは行動し続けることよ。
何もしなければ事態は動かないし、状況に取り残されていくだけ。
行動して失敗したとしてもそこから得られるものがあれば、何もしないよりよっぽどましなはずよ。
ま、私がそんな目に見えるような失敗をむざむざするとも思えないけどね。
「ところで、須奈乃のスキルって何なの?」
「…絶対に言いたくないんですけど。」
「それが私に通用するとでも?」
「…ですよねぇ。…「音痴」です。」
「…ふうん、ご愁傷様。」
「あんまりだわっ。この世界の全てを呪ってやるわ。」
そう言えば、須奈乃は新歓で超音波攻撃炸裂させてからその後一回も人前で歌ってるの見たことなかったわね。
でも、あれはあれで以前から備わっていたもので、新しく獲得したものというには語弊があるような気がするんだけど。
ま、そのうちに能力としての「音痴」がどういうものかというのは披露してもらおうかしらね。
アパート管理人はダンジョンマスターを兼務する 深香月玲 @crescent_
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