第34話EP②
そして小一時間後、爆破を免れた研究所に警察やアカデミーの関係者たちが集まってきた。
今回の一件は実験中の事故ということでオチがつき、サルタリーは責任者として名乗り出たのである。
当初は主犯だと荒っぽい扱いをされそうになっていたが、俺が庇ったことでそこまで重い罪にはならなさそうであった。
捜査官として来たガレットと、関係者として来たローズが二人で口を揃えて「バルスが言うならそうなのだろう」と言ってくれたのが大きかったようである。
いやぁ、持つべきものは友達だよな。
「色々とありがとうございますバルス君。……とはいえやったことの責任は取らねばなりません。私はしばらく牢に入ることにしますよ」
「残念だ。絶対出てこいよ。そしてまた遊ぼう!」
「えぇ、私たちは友達ですからね」
手を振りながら連れ去られるサルタリーを俺は見送る。
あいつめ、黙秘してれば少しは罪も軽くなったかもしれないのに、全部吐いちゃうんだもんなぁ。
全く、変なところで真面目だから困る。社会不適合者としての自覚が足りないぞ。やれやれとため息を吐きながらガレットにこっそり耳打ちをする。
「なぁガレット、こいつ本当は全然悪い奴じゃないんだよ。だからあまり長い間牢に入らなくていいようにしてくれよな?」
「それは俺が決めることではない」
しかし、プイッと目を逸らされてしまう。つ、冷たい。
ガレットって俺様キャラだから自分以外どうでも良いって考えてそうだからなぁ。犯罪者であるサルタリーに情けをかけるはずもないか。
「ふっ、友達か……警察がマークしていた限りバルスとサルタリーの繋がりはない。事件の際に知り合っただけなのだろうに、ここまで懸命に味方するとはな。案外本当に抒情酌量の余地があるのかもしれん。デュエルにより勝者と敗者は分けられ、場合によっては関係が断裂することすら珍しくもないが、むしろ友情を育むとは……なんと熱き魂を持つ男よ。流石は俺の生涯のライバルと言ったところか。奴もおとなしく全ての罪を吐いていたし、以前会った時と違い晴れ晴れとした顔をしていた。……やれやれ、犯罪者に情けをかけるのは俺の流儀ではないが、出来うる限りの力添えはしてやるとするか。一つ貸しだぞ?」
何やらブツブツ言いながら去っていくガレット。
俺の話、聞いててくれたのかなぁ。不安に思いながらも見送るしかない。
「あぁっ、素晴らしいですわバルス様。アカデミーでも目をつけていたサルタリーの元へ潜り込み、罪を認めさせるとはなんという手腕。流石私の未来の旦那様です」
なんか後ろではローズがうっとりした顔でブツブツ言っている。
……こっちはこっちで不気味だな。ドン引きしている俺に耳打ちをしてくるアルフォンス。
「おいバルス、あの子のこと言わなくていいのかよ?」
「あぁ、そうだっけ」
色々あって後回しになってたが、オルタのことを話すのを忘れていた。
記憶を失った上に怪しい格好をした女の子なのだ。説明は面倒くさいが放置するわけにもいかないだろう。
ローズは生徒会長だし力になってくれるかもしれないしな。というわけで戸惑っているオルタをローズの前にずいっと差し出す。
「あー、ローズ? 彼女は……」
じっとオルタを見つめた後、ふむと頷く。
「……なるほど、彼女に研究所で攫われていた行方不明の少女ですか。カードの能力を付与され、居場所と記憶を失ったことでバルス様を頼ってこの場にいる、と。そういうわけですね?」
「なんでわかんのぉ!?」
「居場所と記憶があればバルス様に頼る必要はありませんからね。その格好と身体から感じられる人並外れた魔力、そしてここで行われていた研究……これだけ情報を与えられればバルス様の未来の妻である私からすれば一目瞭然でしてよ?」
驚愕するアルフォンスをローズはふふんと鼻で笑う。
いや、普通わからんから。マジですごいなローズ。でもちょっと怖いぞ。
「行き場がなくて困っているのでしたら彼女は私の屋敷でメイドとしてでも働かせましょう。もちろんあなたが良ければですが」
「よ、よろしくお願いしますっ!」
深々と頭を下げるオルタ。なんか全部いい感じにやってくれるな。
俺は面倒狩りなのでそういうのは非常に助かる。流石未来の俺の嫁。
でも……いいのだろうか。こんなに上手くいっていて。楽しげな光景を前に俺はしばし考え込んだ後、思い切って言う。
「なぁ、一つ聞いていいかな」
ローズに、アルフォンスに、そしてオルタに問う。
「自分で言うのもなんだけど、俺みたいな奴とよく友達やってくれてるよな。正直不思議で仕方ないよ。……理由を聞きたいんだけど、いいかな?」
俺はかつて、カードショップで出禁になった経歴を持っている。
空気も読めないし、気も利かないし、自分の思うまま突っ走ってしまうわがままな極まりない性格だという自覚はある。
俺はいい。ずっとそうして生きて来たから今更それを変えるのは無理だ。しかし周りの皆はもしかしたら嫌々付き合ってくれているんじゃあるまいかといつも思っていた。
そろそろついていけない。距離を置くべきだろう。……そんなことを考え始める頃かもしれない。
だったら今のうちに覚悟を決めておいた方が心のダメージは少なくて済む。
その重圧に耐えきれず出た言葉なのである。
さぁやるならやってくれ。バッサリと。ドキドキしながら答えを待つ俺を見て、三人はぷっと吹き出す。
「なーに言ってんだよ。バルスの性格くらいとっくに知ってるさ。俺たちもそれを好きで付き合ってんだよ。言わせんな恥ずかしい」
「男子たるもの、周囲を振り回してなんぼです。特にあなたは私の未来の旦那様になる方ですもの。それくらいでないとむしろ拍子抜けるくらいですわ」
「無茶苦茶なのは最初から知ってましたから今更です。……でもそれでいいんじゃないでしょうか。その方がバルスさんらしくて良いじゃないですか。ふふっ」
返ってきたのはあっけらかんとした返事だった。
勘違いしているのかと思ったが、わかってて俺を受け入れてくれているというのか。
なんかその、結構嬉しいな。俺は俺のままでいいってことか。
ショップから追い出され、社会不適合者的扱いされていた俺を、こんなに快く受け入れてくれるなんて……いい奴らだなぁ。本当に。
溢れそうになる涙をぐいっと拭い、誤魔化すように声を張る。
「ありがとう」
「へっ、気にすんなって」
「私はいつでもバルス様の味方ですわ」
「私としては面倒かけてすみませんと言いたいくらいです」
皆の温かい言葉に背を押されるように、俺は駆け出す。
「よーし、アカデミーに帰ったら早速デュエル相手を探すぞぉ! アカデミーは広い。世界はもっとだ。まだ見ぬ強敵も沢山いるに違いない。新たな出会いを求めてレッツゴー、
眩い未来を信じ、栄光の階段を駆け登っていく。そう、もはや俺を止められる者は誰もいやしないのだっ!
「……まぁでも、少しは自重した方がいいかもな?」
「周囲に目を向けることも、上り詰めるには大事なことではありますわね……」
「ていうかバルスさん、なんか今見たことないくらい強めの癖が出てませんでしたっ!?」
背後の方で三人が何か言ってた気がするが、鐘の音でかき消されてよく聞こえない。
ごーん、ごーんと鳴り響く鐘の音は、まるで俺を歓迎するかのようである。
さてさて、また新しいデッキを試すかなぁ。ワクワクに胸躍らせながら、今日も俺はアカデミーの門を潜るのだった。
とある古参のデュエリスト〜転生先が悪役貴族のかませ犬だったけど、前世のチートデッキが使えるので特に問題なさそうです〜 謙虚なサークル @kenkyo
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