第33話EP①

どぉん! どどどん! ずどどどどどぉぉぉーーーん!

断続的に響く爆発音。

研究所の揺れは収まらず、むしろひどくなっていた。


「ど、どうして……ヘルべロスは還したのに……!」

「恐らくさっき暴れた際に研究所のヤバい部分が破壊されたのだろう」


なんか色々とすごそうな機械があったからな。

そこに使われている燃料なんかが爆発したらとんでもないことになるだろう。

のんびりしていると生き埋めにされてしまうかもしれない。


「で、でもどこへ逃げれば……」


天井はどんどん崩れ落ち、床も崩壊を続けている。

オルタもあわあわと右往左往するのみだ。どうしたものかと考えていると、


「……ん?」


ふと、俺たちのすぐ横の壁がミシミシと音を立てているのに気づく。

次第に壁には亀裂が生まれ、徐々に大きくなっていき、そして……ズドォォォォォォン! と壁が砕けた。

穴が空いた向こう側には砕き両手にドリルが付いた機械と獣の融合体みたいなモンスター。

その上に跨っているのは……アルフォンスだ。


「うおおおおっ! 助けに来たぜバルスっ!」


どうやら俺を助けに来たらしい。そういえば一緒に来てたんだったな。完全に忘れてたぞ。

彼が乗っているのは『破砕戦獣ガルバゴ』、レベル6のレアモンスターである。

攻撃時に決闘を受けたモンスター全てに1000ダメージを与える能力を持ち、更にはパワー5000タフネス1500と偏重したステータスを持つ超突破型のモンスター。上手くいけば一撃でデュエルを終わらせるエンドカードである。

両手のドリルで頑丈な壁を破壊し、ここまで掘り進んで来たというわけか。カードからモンスターを具現化させると二度と元には戻せないというのに、わざわざ俺の為に貴重なカードを使ってくれたのか。


「へっ、確かに少し勿体なかったがよ。永遠の友であるお前を助けられるならレアカードの一枚や二枚、痛くも痒くもねーぜ! ……そりゃガルバゴはデッキに入れることも検討してたけどよ……べ、別に惜しくなんかないんだからな! 本当だぞ!」


自分を納得させようとしているようにブツブツ呟いているアルフォンス。なんかその、悪いことさせちゃったな。

コモンカード、『穴抜けの紐』を使って建物の外に出ようと思っていたんだが……なんてことはとても言えない雰囲気である。

ここは素直に感謝して乗せて貰うとするとするか。うーむ、俺ってば気遣い上手。


「ありがとなアルフォンス。お前は命の恩人だよ」

「へっ、よしてくれ。こそばゆったらねぇぜ。ってか早く乗ってくれ。さっさと脱出かましちまおうぜー……ってなんか知らない子がいるな」

「あ、ども……」


ぺこりとお辞儀をするオルタ。

アルフォンスは目を丸くして彼女をしばし見つめた後、コソコソと俺に耳打ちをしてきた。


「……おいバルス、誰だよこの子。めっちゃ可愛いじゃねぇか! お前、こんな子連れて帰ったらローズちゃんにぶっ殺されるぞ。あいつ絶対嫉妬深い顔してるからなぁ」

「変な邪推をするなって。彼女はこの研究所に攫われて実験されてたんだよ。別にやましいことはない。それに記憶も失ってるし、放っておくわけにはいかないだろう」


俺の説明を聞きながら一頻りふむふむと唸った後、アルフォンスはニヤーっと笑う。


「……やれやれ、仕方ねぇな。そこまで言うなら、そういうことにしといてやるぜ。ったく憎いねー色男! ま、安心しとけって。俺がしっかり擁護してやるからよっ!」


任せろとばかりに俺の肩をバシバシ叩いてくる。

なんか妙な誤解をされている気がしないでもないが……まぁいいか。


「そうだ。こいつも忘れないようにな」


倒れていたサルタリーを肩に担いで持ち上げる。


「そいつは……俺たちをここに連れてきた奴じゃねぇかよ。確かサルタリーとか言ったっけ?」

「うん、実はこいつが例の教授だったのさ。さっきの揺れは彼が研究所を生贄にでっかいモンスターを暴れさせ、ここを破壊しようとし起きたものなんだよ」

「な……っ! ってことはこいつが黒幕なんじゃねぇか! それを助けるつもりなのかよっ!?」

「だが放ってはおけないだろ?」


言い争っていると、担ごうとしたサルタリーが口を開く。


「ふざ……けるなっ!」


俺から離れ、たたらを踏みながらもなんとか一人で立ち、声を張る。


「君はなんと馬鹿なのでしょう。殺されかけたのがわかっていないようですね。私がまた同じようなことをしたらどうするつもりなのですか? その度に君が私を止めるつもりなのですか!? いつまでもそれが出来るとでも!? そもそも君のいない場所で行うとは思わないのですかッ!?」


はぁはぁと息を荒らげるサルタリー。アルフォンスはそれを見下ろし、鼻で笑う。


「何がおかしいっ!?」

「……馬鹿はテメェの方だよ」

「なん、だと……?」

「やれやれ、バルスの言いてぇことがまだわからねぇようだな。だったら教えてやらぁ! こいつはお前を更生させようってんだよ。一旦お前の罪を全て背負い、やり直す機会を与えようとしてんのさっ!」

「……ふん、大方私の研究成果欲しさに甘い顔を見せているだけでしょう。そんな奴は今までも沢山いましたよ。しかし結局連中は私を信じ切れず、すぐ私を排除しようとした。彼もまた同様に決まっています」


サルタリーは俺に疑心に満ちた目を向けてくる。

今まで様々な場所で嫌われ、弾かれてきたんだっけ。俺と同様、追い出されまくったんだよなぁ。

そんな彼の言葉にアルフォンスはしたり顔で返す。


「へっ、やっぱわかってねぇなお前はよ。長い付き合いだからよくわかるが、バルスは出来ないことは言わねぇ男なのさ。お前を更生させると言ったら絶対にさせる。どれだけ時間がかかっても、根気よく付き合うつもりだぜ。そうだろバルスよ?」


まぁ更生するかどうかは正直どうでもいいが、根気よく付き合うつもりなのは確かだ。

むしろ根気よく付き合って貰う、と言った方が正しいかもしれないけどな。


「安心しろ。もちろん俺も協力を惜しむつもりはねぇからよ。これから長い付き合いになるだろうぜ。ま、諦めて覚悟を決めるんだな」

「わ、私に出来ることならなんでもしますっ! で、でも私のこと、絶対元に戻して下さいよねっ!?」


話に加わるオルタ。バルガスの背から研究員たちがゾロゾロ降りてくる。


「俺たちは教授のこと、嫌いじゃなかったっすよ。そりゃ無茶なこともやってたけど、それでも学園で孤立していた俺たちに声をかけてくれたじゃないですか!」

「そうだ! ここは除け者たちの集まりなんでしょ!? 教授はそこを守ってくれたじゃないですか!」

「俺たちごと研究所を破壊しようとしたのだって、最初からそう約束してたからじゃないだ! 我らの居場所を失うくらいなら、俺らを排除しようとする世界に喧嘩を売ってやろうって!」

「お前たち……」


呆然とした顔のサルタリー。なんだ、意外と慕われているんじゃないか。

世間に馴染めず、白い目を向けられる者たち同士、ウマが合ったのかもな。

とどのつまり、彼らは自分たちを差別する世間が許せなかったのだ。ちょっと空気が読めないだけで理不尽に自分たちを排除しようとする、自称一般人たちを。……わかるなぁ。俺も似たようなものだったから。

気づけば俺はサルタリーに手を差し伸べていた。


「悪いようにはしないつもりだ。だから俺と友達になってくれないか?」

「いい、のか……?」

「いいから」


彼は俺の手をしばらくじっと見つめた後、深く長い息を吐いた。

その顔はどこか、憑き物が取れたかのように晴れやかに見えた。


「……やれやれ、ありえない程のお人好しですね。だがそんな君だからこそ、皆がついてくるのかもしれません」


差し出した手を、サルタリーは何度か躊躇した後、握り返した。

冷たい手。だがその奥底にはどこか熱いものを感じられた。


皆から嫌われ、世界を憎んだマッドサイエンティスト。

しかしデュエルの腕と勝ちへの執念は本物だった。

バルスとなんのしがらみもない強い決闘者で、いつでもデュエルができて、何より俺の策にハマった時の反応が素晴らしかったしな。

あれだけ勝ち誇った直後の絶望顔、そして素晴らしい負けセリフ……これだけの逸材は中々いやしないだろう。見捨ててしまうのはあまりに勿体無いからな。色々あったが……ふふ、俺としては新たな友達サンドバックが増えてよかったと言ったところかな。

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