二人目
気づくと自分のベッドの上にいた。
慌ててカレンダーで日にちを確認し、戻ってきたことがわかる。
未来は変わったのだろうか。
LINE、Instagram。
一通り探したけど彼の名前はなかった。
椎奈ちゃんが亡くなってからインスタをはじめたと言っていた。
これは未来が変わったってことじゃないか。
桜の妖精さんのところまで走って、声をかけた。
「あの! 未来は変わりましたか?」
「……うん」
ほら、としゃぼん玉のような中に、樹と椎奈ちゃんが笑顔で手をつないで歩いている映像を見せてくれた。
あぁ、よかった。
ほんとによかった。
わたしの大好きな人が大好きな人の隣で笑っている。
うれし泣きなのか悲し泣きなのかはわからないけど、ただ涙が止まらなかった。
「……ゆずちゃんはこれでよかったの?
これじゃああまりにも報われなさ……」
「いいに決まってるじゃないですか」
その先を聞きたくなくて慌てて答える。
「桜の妖精さん。ありがとうございました」
深く深くお礼を言ってその場を離れた。
最後の最後までわたしのことを心配してくれた優しい子だった。
いいに決まってる。
わたしが自分ひとりで勝手に彼との結末おわりを決めたことなんだから、報われないとかそんなこと思う資格ない。
なにより、わたしが樹の心に生きている椎奈ちゃんごと受け入れられなかった。
例え、いまは自分に言い聞かせてるだけの言葉であっても、いつかはちゃんと想い出にできる。
樹と付き合ったときの記憶はわたしだけがずっと大切にもっていればいい。
その想い出だけでもう生きていける。
これがゆずちゃんの望んだハッピーエンドか。
ゆずちゃんは気づけなかったと思うけど、彼はほんとに愛してたよ、きみのこと。
おんなじくらいの愛。
いや、もしかしたら椎奈ちゃん以上の愛がそこにあったかもしれない。
愛してなかったら、あんなこと言わない。
『俺は、しーなを護れなくて後悔でしかなかった。
でも、やっと前を向けるようになった。
今度こそ俺は大切で大好きな人の手は離さない』
ゆずちゃんは彼女のことだと思ったんだろうけど、その大好きな人の手はきみのことだったんだよ。
だから、きみの手を強く握っていたんだよ。
あのままいけば、彼の隣にずっといたのはきみだったのに。
そしてこれは彼が書き留めていたゆずちゃん宛ての手紙。
きみのお誕生日に渡すはずだったのだろう。
『お誕生日おめでとう。
生まれてきてくれてありがとう。
彼女を亡くしてから絶望だった俺にきみはずっとバカみたいに笑顔でまっすぐで優しくて眩しかった。
太陽みたいだった。
俺にとっての希望の光。
いつも助けてくれてありがとう。
俺、ゆずのことだいすきだよ。
ほんとにほんとにだいすきだよ。
もうちゃんと前を向くから。
ずっと隣にいてほしい。愛してる』
この世界ができたことにより、この想いはもう消えちゃったのか。
ゆずちゃん、きみは優しすぎたんだよ。
彼のこと想いすぎた。
そんなゆずちゃんだからこそ彼も好きになったと思うけど。
時は流れ、ゆずちゃんも運命の人とめぐり逢えたみたいだった。
運命の人っていうのは恋愛に限った話ではない。
人は出逢うべき人には必ず出逢える。
「あ、きみは!」
「え……」
ほらね、出逢えた。
「あのとき、しーなを追いかけてって言ってくれた子だよね? よかったら名前教えてよ」
ゆずちゃんは驚いていたけどうれしそうだった。
彼とまたつながりができた、と言いたそうに。
別々の未来を歩んだとしても、
やっぱりふたりは運命の人なんだよ。
運命の人 天野 心月 @miru_amano
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