「落ちる」

もう30歳手前だというのに、人生で1人も彼女ができたことがない。


元々存在感があるタイプでは無いのだが、話題の引き出しの無さと中途半端なスペックが災いし仲がいい女性すらもほとんどいない。強いてあげるなら職場でやたらと話しかけてくる後輩くらいだ。



その後輩はやたら仕事についてだけでなく趣味とか休みの日何してるかとかを根掘り葉掘り聞いてくる。が答えになるような趣味もほとんどないので軽く流してしまう。もしかしたらこういう所が彼女ができない理由なのかもな。



─────



ある日、後輩に昼休憩のついでに外に行きませんか、と誘われ近所の展望台に来た。

缶コーヒーを片手に景色を見つめる彼女はやけにぼーっとしていた。何かあったのかと尋ねると

「私、いきたい所があるんです」

と呟いた。

そういえば来月こいつと出張だったっけな。そのついでに何か食べたいものでもあるのだろう。

「いいぞ、時間ありそうだし行ってみるか」

と軽い気持ちで答えると

「いいんですか!ありがとうございます!」

と満面の笑みで喜んでいた。



思わずドキッとしてしまう。

こいつ、こんなに可愛かったっけな。





胸のあたりでトスッと音が聞こえる。










あぁ、落ちてしまったらしい。

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500字フィクション「壊れたカメラ」 @Lotus927

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