音楽の雑談 KANについて

加藤 良介

第1話

 KANの音楽性について、とやかく言える知識を持っているわけではありませんが、一人のファンとしての解釈を書いていこうと思います。よろしければお付き合いください。



 ・KANの音楽のスタイル

 

 KANの楽曲は、ビリー・ジョエルの強い影響を受けていることは明白です。

 音の作り方や、全体の流れ、曲の終わらせ方に至るまで、類似点は多いでしょう。

 両者ともに、ピアノの弾き語りというプレイ・スタイルのため、どうしても類似点は多くなります。ですが、この二人には明確な違いが存在します。

 ビリー・ジョエルの楽曲は基本ロック。それに比べてKANの楽曲は基本的にポップスと言えるでしょう。しかし、個人的感想ですがKANに関しましては、ポップスと言うよりも古典的、もしくはオーソドックスと表現したくなります。


 古典的、オーソドックスとは、私が勝手に作った分類になります。

 なぜこのような分かりにくい分類を作ったのかと言いますと、KANの楽曲はロックとかポップスとかの分類以前に、音楽の基礎に忠実という印象を受けるからです。


 ちょっと分かりにくい表現になりますが、ピアノ教室に通っていた子供が、そこで学んだことを土台に、自分のJPOPを作った感じと言えばいいのかな。奇妙なほどに基本に忠実で真っすぐ。そんな感じです。

 こんな感想を持つのは、私もガキんちょの頃に、ピアノ教室に通わされていたからかもしれない。

 KANの楽曲については、クラシック音楽の要素が強いってことですね。



 ここからは、KANの解説と楽曲の解説を交互に挟んでいこうと思います。

 取り上げる楽曲に関しましては、全曲YouTubeにUPされておりますので、お聞きいただけると幸いです。

 では、スタート。




 「Songwiter」


 導入から速弾き調の伴奏で、最後まで弾き続ける曲。

 演奏には、それなりの奏力が求められると思われます。

 KANとビリー・ジョエルの共通点の一つに、ピアノの演奏が滅茶苦茶うまいという訳ではないが、それなりに難しいことる出来る。ってのがあると思います。

 

 歌いだしでピアノを使う曲にありがちな、最初だけピアノ伴奏、途中から色々な楽器が登場して、ピアノはフェイドアウトなどというテクニックを使わずに、最後までしっかりと弾ききるかんじです。

 まぁ、KANの曲は基本最後までピアノ伴奏ですけど。

 途中からヴァイオリンが加わるが、POPな曲調を保ったまま進行します。


 聴き所としては、曲の終盤のサビ。

 「I`m songwiter ピアノをたたき 繰り返す表現のみが 唯一存在の意義です」の箇所。

 KANの自伝的曲とも言えるでしょう。


 


 「すべての悲しみに さよならするために」


 スローテンポで進行するロック調の曲。

 ピアノ伴奏は控えめで、ドラムとギターが前に出る。

 普遍的なラブソングの一つでしょう。 




 「東京ライフ」


 上京した若者の心境を歌った曲。

 センチメンタルなピアノ伴奏が、全編通して静かに響き渡る。

 日々の慌ただしさに、ただ流され生きている若者像に、華やかな東京と自身とのギャップが、如実に浮き上がりる。

 何かの漫画で使われていたらしいです。詳しくは知りません。




「死ぬまで君を離さない」


 シンセサイザーを使った曲。

 結婚式用の曲って感じですね。ちょっと狙いすぎのような気もするけど、いい曲だから許す。 



 


 ・KANのファンと世界観


 KANの楽曲に登場する主人公は「普通の男性」といった要素が強いですね。

 特に才能に恵まれているわけでもなく、野心が強いわけでもなく。女性に強気なわけでもない。どこにでもいる普通の男の人です。

 最近は聞かなくなりましたが、「草食系男子」とでも言えばいい存在なのかな? 基本的に心優しい男性が主人公です。「健全 安全 好青年」なんて楽曲もあります。

 ですが、草食系男子の間でKANが流行ったとは聞きませんし、彼のお客のボリュームゾーンは一体全体どこにあるのでしょうね。

 女性に人気があるような気はする。

 ( ̄▽ ̄)//あたしゃ男ですけど。




 「今度君に会ったら」


 KANの曲の中で歌われる、男性像の中央値を表している曲。

 うだつは上がらないけど、優しくて不器用。そしても何よりも誠実。




 「よければ一緒に」


 私のような、捻くれたKANファンの目から見ても、一般受けしそうな曲です。

 JPOPの基本を押さえており、非常に聞きやすい。

 フェスとかで歌ったら盛り上がるでしょう。

 

 


 「君が好き胸が痛い」


 ピアノによる静かなる悲痛な叫び。

 明るいコードと、悲し気なコードが交互に浮き上がります。ピアノのバラードとしての、基本中の基本って感じの曲です。




 「MAN」


 簡単そうに聞こえて、難しい曲。

 特にテンポが、(。´・ω・)ん?ってなる。歌う分には大して難しくないだろうけど、演奏がなぁ・・・





 ・KANの業界への影響力


 さて、私たちKANファンの密かな誇りが、KANのファンに多くのアーティスト達が含まれていることです。

 有名どころで言えば、Mr childrenの桜井君やAikoとかですかね。山崎まさよしなんかも加えてもいいでしょう。

 多くのオーディエンスには「愛は勝つ」でしか、インパクトを与えられなかった彼ですが、同じ職の人々には一定の影響力を発揮したと言えます。


 この方々がKANのどこに惹かれたのかは知る由もありませんが、基本に忠実な彼の音楽性に惹かれたのであれば、私は納得できます。

 あれはやりたくても出来ない類のスタイルです。

 ( ̄▽ ̄)//絶対にどこかで捻りたくなるもん。

 


 

 「何の変哲もないラブソング」


 歌いだしの「晴れわたる空に白い雲 君と僕がいて」の通り、澄み切った青空に、どこまでも響き渡っていくような曲。

 ミスチルの桜井君がフェスで歌っている動画が、YouTubeにUPされておりますので、一聴してみてはいかがでしょう。

 どっちも上手。




 「and I love you 」


 元はMr childrenの楽曲です。

 何かのフェスでKANがカバーしました。

 YouTubeに動画かUPされておりますので、ご覧ください。一見の価値があります。

 個人的な所感ですが、オリジナルのはるか上を行く出来栄えです。





 ・KANの歌詞

 

 KANの歌詞は一言で言えば、「何を歌っているか、瞬時に理解できる」に尽きます。

 英語の歌詞の部分もありますが、それほど長いフレーズではありませんので理解は容易いです。

 それっぽいワードをテキトーに並べ立てて、なんか良さげに誤魔化している歌詞はあまり記憶にないかな。一部、分かりにくいぐらい。


 逆に言えば、聞き手に解釈の余地が少ないですかね。

 聴いたままの事を歌っているわけですから、誤解のしようがありません。

 特に強いメッセージ性は持ってはいません。

 これまた個人的な感想になりますが、Mr childrenや槇原敬之よりも、メッセージ性は低い気がいたします。そんなに小難しい話をする人ではありませんでした。

 




 「エキストラ」


 KANが得意とする弾き語りバラード。

 詳しくは拙著「音楽の雑談 KANのエキストラって曲がやばい」の参照を願います。


 特に難しいことはしていません。

 単純明快な曲調に、意味の分かる日本語の歌詞。音楽の基本中の基本を押さえた感じ。

 私はKANが投げた、140kmの直球だと思っております。




 「千歳」


 北海道の千歳空港が舞台の曲。

 分かれた彼女が、別の男と一緒居るところを目撃した男の悲しい歌。

 「最後に少し こっちを見ても ごめん僕は笑わない」ってのが、心に来る。




 「世界で一番好きな人」

 

 平和な日本に生まれたことを感謝できる曲。スローテンポ。

 ただ、この平和がこのまま続いていくとは限らないことも歌っています。




 「regrers」


 日本語の歌詞に英語を頻繁に挿入する曲。

 いかにも90年代スタイルですね。

 



 「恋する二人の834km」


 明るいシンセサイザーが全編にわたって響き渡る。北海道にゆかりのあるKANらしさの溢れる曲。

 KANの訃報を聞いた時に、車内で爆音で流して一緒に歌いました。

 まさかこの曲で泣く日が来るとは思わなんだ・・・





 ・KANと秋ソング


 JPOP内での秋ソングに関しましては、KANの独壇場だと考えています。

 「Autume Song」「秋、多摩川にて」「けやき通りがいろづく頃」等など。この他にも、明確には秋とは表現していませんが、曲調が明らかに秋をイメージしたであろう楽曲が多数存在しています。


 一般的に、夏はもちろんの事、冬や春を歌った名曲は数知れませんが、なぜか秋ソングは少ないですよね。夏の終わりや、冬の始まりを歌ってお茶を濁す感じです。

 秋ど真ん中に挑戦するアーティストは貴重です。

 小田和正やキリンジあたりには、秋を歌っているイメージがありますが、明確な秋ソングは少ないです。

 フジパブリクの「若者のすべて」も秋ソングではあるが、秋ど真ん中ではないかな。

 真夏のピークが去ったんだもん。まだ暑いって事じゃん。

 

 明確な秋ソングが少ないというこの傾向は、秋ソングにはピアノ伴奏のイメージが強いからだと推察します。

 つまりショパン先生が全部持ってった。ってことですね。

 ピアノ弾きでクラシック要素の強いKANは、この文脈に乗って曲が作れるので秋に強いのでしょう。




 「Autume Song」


 秋ソングが得意なKANの中でも、最高の出来栄え。

 全編にわたって、美しいピアノ伴奏が響き渡ります。




 「けやき通りがいろづく頃」


 KANにしては珍しく、歌詞がやや分かりにくい。

 意味は分かるが、意図が分からない感じですかね。

 女友達が恋を叶えたことに、逆切れしている雰囲気が漂う。ですが、その女友達のことが好きだったわけでもなさそう。

 (。´・ω・)?よく分からん。

 ただ、曲調が素晴らしく、無理やり聞かせてくるところに、KANの恐ろしさがあるでしょう。




 「月海」


 愛する人を失った男の絶望を、優しく歌い上げた曲。

 「美しき絶望」のフレーズが完璧すぎる。思いつかん。




 「小さな花のテレジア」


 流れるようなピアノ伴奏が素晴らしい。

 テレジアって花があるのかと思ったら、なさそう。

 バラの品種にマリア・テレジアってのがヒットしましたけど、これとは違うやろ。

 



 「雪風」


 KANの名前では出していない曲です。

 あったかい部屋から、深々と降り積もる雪を、窓越しに眺めながら聞きたい一曲。




 「愛は勝つ」


 周知のとおり、KANを代表するヒットソングです。

 これを知らない人は、KANの存在を知らない人と言えるでしょう。

 文句なしに素晴らしい曲なのですが、KANファンからすると少し複雑な気分になる曲ですね。

 理由といたしましては、この曲の認知度だけが抜群に高く、他の名曲たちの認知度が絶望的に低いので、妙な反感を抱いてしまうからです。

 この曲に罪はないのですが・・・


 ここで自分語りを一つ。お許しを。

 私も多くの人と同じように、この曲を入り口にKANのファンになりました。

 ただ、私がこの曲を最初に耳にしたのは、中学の音楽の授業でした。

 なぜか私の中学の音楽の授業は、全てJPOPで占められており、この曲もその中の一つとして登場いたしました。

 私は「愛は勝つ」の特徴的なピアノのイントロを、母校の音楽室で初めて聞いたのです。音楽の先生のピアノが抜群に上手くて、それで撃ち抜かれたわけですな。

 今、思い返してみても凄い先生でした。どれぐらい凄いかと言えば、一年後どこかのフィルハーモニー管弦楽団に採用されたから教員をお辞めになられたほどです。確かオーボエ奏者だったような・・・。ピアノも物凄く上手でした。

 私がKANのファンになったのは、音楽ガチ勢と言うかプロの音楽家と言える先生の力も大きかったですね。

 なんだったんだ。あの先生。(。´・ω・)?。凄いという事しか分からん。





 ・KANにとっての「愛は勝つ」


 この曲によりKANは紅白に出場し、世間にその名をとどろかせる事が出来ました。

 しかしKANの曲のレパートリーに、「愛は勝つ」に類似する楽曲は一つも存在しません。

 マジで一つもありません

 普通はセルフカバーする。似たような曲を作って、二匹目のドジョウを取りに行きますよ。

 だって売れた曲だもん。しない方がどうかしていますよ。でも、しませんでした。その気が無かったとしか言いようがありません。

 この曲は、他の何の曲にも似ておりません。そこが、彼が今一つ、世間様から受けなかった理由かもしれません。




 「まゆみ」


 「愛は勝つ」以前に、スマッシュヒットした曲です。

 三ツ矢サイダーのCMに使われていたそうです。

 この曲でKANのファンになった方は、古参勢と言えるでしょう。私は知りませんでした。 




 「セルロイドシティーも日が暮れて」


 歌詞の「セルロイドシティーも日が暮れて」が、全部持っていく曲。

 セルロイドって、お人形かピンポン玉でしかお目に掛からないんだけどなぁ。

 しかしながら、セルロイドシティーってなんだよと、突っ込ませない力があります。




 「Silent siren」


 シンセサイザーの音色が、テンポよくドラムとマッチしている。

 完全に個人的趣味ですが、KANの中でもっともオシャレな曲だと思います。

 歌詞も端的で、KANにしてはやや意味が通じにくいのですが、そこがいい。





 ・KANとコミック曲


 コミック曲とは、ふざけて作ったような楽曲の事です。

 KANのコミック曲は数多く存在します。

 それらの全てが、真面目な人間が、無理してふざけている様な曲ばかりです。

 ふざけた人間がふざけた曲を作っている感はゼロですね。




 「Red flag(一般道路速度超過)」


 KANのコミック曲の中でも、一番笑える曲です。

 羽田に妻を迎えに行く途中、環八で警察のネズミ捕りに引っかかる曲です。

 「あれはなんだ 初めて見た 道路に飛び出るポリスメン」

 「それはそうと あれはなんだ! "止まれ"とかかれた赤い旗」

 このフレーズに爆笑間違いなし。

 



 「車は走る」


 槇原敬之のカバー曲

 槇原敬之の何かの曲をカバーしたのではなく、槇原敬之本人をカバーした曲ですね。物マネともいえる。

 カバーの完成度は非常に高い。オチも完璧。




 「青春国道202」


 タイトルに国道が入っている通り、ドライビングソングとして秀逸。

 明るい曲調にテンポの良い展開。

 高校生の希望と不安が、色鮮やかに表現されています。

 国道202号線は、KANの故郷、福岡県を走る国道です。




 ・私にとってのKAN


 一言でまとめることは難しいです。 

 ただ単純に「好きなアーティスト」ではないですね。好きだけでは、こんな文章を書くことはありませんし。彼よりも音楽性の優れたアーティストは、沢山います。


 そうですね。

 なぜか私の心に刺さる。そんな人でした。

 そして私はそれを誇りに思う。



 以上です。




 音楽を文字で説明するほど野暮なことはございませんが、「小説家になろう」で活動している以上、ここで、この企画だけはやらなくてはならなかった。

 一ファンとしての責務は果たしたと思う。


 

 KANへ


 安らかにお眠りください。

 これまで、ありがとうございました。




              終わり

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