【短編版】異世界転生ものが大っ嫌いな俺が、異世界転生をしてしまった件~今すぐ元の世界へ帰りたい俺ですが、美形すぎる顔のせいでド変態女どもが群がり俺を元の世界へ帰さないよう邪魔をしてきます~
大豆あずき。
第1話
俺は異世界転生ものが嫌いだ。
web小説で主人公がどんな風に人生を語られているか知ってるか?
高々、数行だぞ数行。
余りに人生の描写が少ない、中身の無さ過ぎる人生だ。
もっと描写するところがあるだろ描写するところが。
高校生だとしても16~18年は生きているんだ。結構生きている。沢山描写するところがあるはずだ。
たったの数行で人生を片付けられているだなんて主人公の扱い酷過ぎるだろ。
そして何より、大半の主人公が現実の世界で上手く人生を歩めていない、現実逃避をしている奴ばかりが異世界に転生している。
おかしいだろ?
普通、現実の世界で頑張って向き合っているやつが異世界に転生するべきだ。
だって、頑張って一生懸命に生きたのだから。ファンタジーの世界に転生して無双する権利はあっても良いと俺は思う。
なのに、どうしてだ?
どうして、異世界に転生する主人公どもはこうも一生懸命に生きていない奴ばかりなんだ。
逆に「異世界でなら人生をやり直せる! 頑張れるかもしれない!」などと…ほざいていやがる……。
ふざけるなっ!
何が異世界でならって何だ! 異世界でならって!
現実世界でも頑張れよ! やり直さなくてもいいくらい毎日懸命に生きてみせろよ!
もっと抗えよ!
現実世界に見切りつけて諦めてんじゃねぇぞ!
だから俺は異世界転生ものが大っ嫌いだっ!!
はぁ…何か久々に怒りをぶつけたから疲れて来た。怒るって結構体力を使うんだな。
で、話は変わるが
アンチ異世界転生ものを唱えている俺の自己紹介をしよう。
俺の名前は
女みたいな名前だが俺は一応男だ。
一応と言うのも、自分では余り良く分からないが、俺は女みたいな顔をしているらしい。俗に言う…女男というやつだ。
それが理由で、俺は同級生の男と女どもに頭から牛乳をかけられたり、全身を殴られたり、いじめられてきたんだけども……中学に上がってからはピタリといじめが無くなった。
それどころか、人気者となり女からモテ始めた。
とても
今まで散々、俺のことを肉体的にも精神的にも傷つけて来た奴らが急に手の平返しをしてきたのだ。
明らかに裏があると俺が不信に思うのは当然だ。
だが、どうやら本当に俺は人気者としてのレッテルを貼られていると知った。
だけど…本当の人気者だとしても、俺は自分の表面的な部分にしか魅力を感じない、信用できない奴らとは一切関わりたくなかった。
だから俺は一人で孤立することを選んだ。
一人は寂しくない。
俺には両親と姉がいる……本当の孤独ではない。
学校でぼっちになることなんて平気だ。
でも、いつまでも一人でいることは、社会不適合者になりマズいと思った俺は、高校ではしっかり交流をしてみようと思った。
しかし……その矢先、高校を入学した初日にまさかこんな目に遭うとは思いもしなかった。
俺は高校の入学式を終えて電車で帰ろうと駅のホームで待っていたら、知らない女に告白…いや、脅迫をされた。
どういうことなのかというと、自分の告白を受け入れないのなら、駅のホームから飛び降りるなどとイカれた頭のおかしいことを言って来たのだ。
勿論俺は、この女が本当に死ぬ覚悟が無いと思い、告白を断った。
瞬間、この女は本当に飛び降りた。
しかも、電車が来たタイミングで。
俺は無意識のままこの女を助けようと手を伸ばすと女は俺の手を掴んだ。
俺は何とか助けることができたと確信した。
そう安堵した途端に、この女は俺を手を引っ張り自分の方へ引き寄せたのだ。
そうすると…どうなると思う?
当然、その答えは―――
「おぎゃあ……おぎゃあ」
異世界に転生することになる。
◆
「ご出産おめでとうございます」
「元気な男の子ですよ。レイ様」
「はぁ…はぁ…ありがとう……ございます……」
違うだろぉおおおっ!!何転生してんだよ俺っ!!
俺は言ったよな!?
異世界転生ものの主人公の人生の振り返りが、高々数行で描かれてしまっているって。
俺の人生も数行で収まっているじゃないか!?
他にもあるんだよ~俺の人生!
なのに……本当に俺の人生……数行で片づけられた。
ちくしょうぅ……異世界転生め……。
そう思っていると、宙に浮くような感覚が体に伝わって来た。
もしかして…抱っこされているのか?
おい!俺はまだまだ言いたいことが―――
「―――生まれてきてくれて…ありがとう……」
俺の頭上からで優しい声が聞こえた。
ま、まずは状況を確認をして、この異世界の情報を収集しなとな、うん。
け、決して!今の優しい声で俺が異世界転生を好きになったとかそう言う訳じゃないからな!絶対に違うからな!
…って、俺はさっきから誰に言い訳しているんだ。
気を取り直して…こほんっ。状況確認だ。
今、俺抱っこしているこの人が異世界での俺の母親なのか。
俺は瞼を上げて、母を見ようとするが…赤ちゃんだから当然、視界がハッキリとしてないため顔を見ることができない。
少し残念、見たかった…母の顔。
すると、誰かが俺たちの方に近づく足音が聞こえた。
段々と近づく気配に俺はこう感じた。
冷酷で、残虐そうな、人を道具としか見ていない……そう嫌な気配を感じた。
「成功作だと良いのだがな……。お前が以前に生んだアテナは私の後を継ぐ皇帝には相応しくない無能だったからな。今回はどうであろうか…レイよ」
「………っ!」
突然、母の体が震えるのが俺に伝わって来た。
どうしたんだろう…急に怯えて……いやいや、今のは重要な情報かもしれない。整理に集中しよう。
多分だが、母……レイが話しているのは俺の父親兼この国の皇帝ってことだよな。
それで成功作とか、アテナ…恐らく俺の姉が無能だとか…状況が全く掴めない。
ただ、分かっていることは親父がクソだってことと母さんが怯えていること。
そして、俺がこの国の皇子であり、察するに他にも兄姉がいる……
つまり、俺は将来確実に帝位争いに巻き込まれることだ。
実に最悪な転生先だ!
「レイ…覚えているか?お前が先ほど生んだ子がアテナような無能だった場合……お前たちを処刑する…そう約束したことを」
「ひっ………!!」
さらにレイの体が震えるのが分かった。
自分の妻と子を処刑って……マジか、俺の想像以上にゴミだったなコイツ。
子が無能だからとか無能を生んだから…そんな理由で処刑するとか俺には理解できない。
俺が思うに、このクソ皇帝はある種の優勢思想ってやつか?
優秀な人間だけが生き残り、その他は淘汰されるべき存在だと……。
理不尽極まりない。
ムカつく……許せないな。
俺は異世界転生ものより……何より優しい人が傷つかれるのがこの世で一番大っ嫌いだ。
舞姉さんを傷つけた奴らのように……。
生まれてから短い時間ではあるが、俺はレイが強くて優しいことを知った。
なぜなら、レイは子である俺のことを守ってクソ皇帝に対峙している。
逃げず、泣き叫ばず、命乞いもせず……!
なら、今の俺にできることは!
俺は全身に力を入れると体温とは別の熱さを体で感じた。
この熱が魔力だな……流石ファンタジー世界だな。
このクソ皇帝が言うには、無能じゃなきゃいいんだろ。
だったら、無能じゃないことを証明すればいいだけだ!
全身に溜めていた熱…魔力を思いっきり解放した。
「おぉ! これがお前の魔力か…! こんな魔力の圧を今までの我が子らから感じたことなど無い! 素晴らしい……素晴らしいぞ! もしや…お前が我が皇帝の座を継ぐことになるかもしれん……!」
喜んでいるところ悪いんだけど、俺は皇帝になる気はさらさらない。
というか、お前を殺してこの国を一から建て直す。
そのためには、帝位争いに勝って、クズ皇帝の信頼を得て絶対的な傀儡と思わせる必要がある。
そして、機会を窺って油断している隙をついて殺せばいい。
長い時間を要するが簡単なことだ。
その後は、この国を治める新たな国王を任命して、母と見知らぬ姉の二人の安全が確保されたら、俺は元の世界に帰る方法を探す。
一応、この異世界での家族だ、俺には守る義務がある。
だから、自分の目的はそれを果たした後だ。
うん、そうしよう。計画が定まった。
まぁ俺に殺される前に、喜べるときに喜んどけクソ皇て―――
瞬間、体に酷い倦怠感を覚えた。
あれ……体に……力が入らない。
もしかして……これがファンタジー世界で言う…魔力切れってやつか……。
俺は体内にある全魔力を放出したことで、母の腕の中で気を失った。
◆
異世界転生してから6年が経った。
その間に、俺は様々なこと知った。
俺が生まれたこの国はミスティア大陸北部を支配しているユースダリア帝国という。
何でも…ユースダリア帝国はミスティア大陸で三大強国の一つに数えられているらしい。
つまり、クソ皇帝……現皇帝ジークは相当な実力者だということがわかった。
近年でも、そこそこの規模の国を侵略し帝国領土を拡大させていた……クソ、ただの冷徹噛ませ犬じゃなかった。
そして俺は、ユースダリア帝国、第九皇子…サイ・ユースダリアと名付けられた。
まさか…この世界でも
それで、話を戻すが俺は九番目の子…だから、兄姉が8人いることになる。
その内の一人は俺の姉アテナが一つ年上の八番目の子どもだということはわかっているが……後の7人の兄姉には実はまだ会ったことが無い。
というのも、俺は狙い通りジークに期待されているため、俺を強くしようと剣と魔法の訓練に時間を使われているから他の兄姉と会う機会が無かったからだ。
でも、名前だけは調べたので最低限の情報は取り敢えず得ることができた。
帝位争いに俺は勝たなきゃいけないからな。
そうそう、帝位争いについてなんだが…俺はてっきり男のみで争うと思っていたが、女であっても帝位継承権があると知った。
なので、アテナには継承権を返上してもらった。
よし、これでアテナの命は保証された。
そう俺は一安心をしたんだけど……まだ、問題があった。
俺は重要なことを失念していた。
それは……派閥だ。
俺の派閥…サイ派には当然、俺の家族であるアテナ姉さん、レイが属している。
一体俺が何を懸念しているのかと言うと……俺の派閥を崩すために、他兄姉が二人の命を狙われることだ。
一応、ジークに与えられた邸宅の前に護衛の騎士を置いて、レイとアテナを守っているが……正直不安だった。
なんせ、サイ派に所属しているのが全て女…ってことは護衛をさせているのも女騎士だ。
なぜ、女が俺に与するが分からない…だから俺は不安を抱いた。
しかし、生まれてからすぐに理由が分かった。
「まさか…今世でもこの顔になるとは……あはは」
俺は今、姿見の前で椅子に座りながら苦笑いをしている自分の顔を見る。
そこには、髪と瞳の色が違う、前世の小さい頃の自分が姿見に映っていた。
前世では茶髪黒瞳だったけど…こっちでは黒髪に金と銀のオッドアイとなるとは……。
どこの厨二病だよ……。
まぁ、この忌々しい見た目のおかげで、女どもを味方にすることができた訳だから甘んじて受け入れよう……。
「うんうん……」
「サイ?何一人で頷いているの?」
俺が目を閉じ腕を組んで頷いていると、アテナが俺の顔を覗き込んでいた。
アテナは黒髪で蒼い瞳をした明るくて可愛らしい女の子……なんだけど、時々グイグイ来るから
「あ、アテナ姉さん……何でも無いよ。ただ、この後の訓練のことを考えていただけだよ」
「ふ~ん、そっ頑張ってね」
そう言い残してスキップしながら立ち去った。
んだよバカ姉…お前たちを守るために俺は頑張ってるのに…それだけかよ……俺がいなかったらお前……死んでんだぞ……わかってんのか……あぁんっ!!
俺は部屋を立ち去ったアテナの背中を睨みつけるが……冷静さをすぐに取り戻した。
待てよサイ…相手はただのクソガキだ…一々腹を立てたってしょうがない。俺の精神がストレスに侵される…それだけだ……レイ母さんの顔を思い浮かべて……リラックス……リラックス……。
俺はあの一件があった時からレイのことが好きだ。好きといっても人として尊敬している方の好きだ、母を異性として見るなんて高レベル性癖は俺には持ち合わせていない。
俺はレイの顔を想像した。レイは白髪に蒼い瞳をした人なんだが……。
驚いたことに顔が前世の俺と似ていた。
「いるんだな…異世界でも自分と似たような顔をしている人が……」
俺がぼそっと呟いた瞬間、部屋の扉が開いた。
「サイ…今日も訓練に行ってしまうの……」
「母様…はい、僕は強くなりたいので」
俺は椅子から立ち上がりレイと向き合う。
「サイ……!」
すると突然、レイが俺を抱き締めて来た。
まぁ…レイがこうなるのも無理ないか。
実は、あの出来事があってから……レイは俺に依存するようになってしまった。
そりゃ、処刑されるって絶望していた時に俺が助けたら…依存するのも仕方のないことだと思う。
それに、時間が経てばいずれ、レイも俺に依存することなくなるだろう。
俺はレイの強さを知っている。必ず立ち直れるはずだ。
そう信じている。
「母様…そろそろ訓練の時間なので……」
「えぇ…」
レイは名残惜しいそうに体を離した。
「それでは、行ってきます」
「いってらっしゃい…怪我をしないようにね……サイ」
「はい……」
俺はレイに笑顔を見せるとレイも微笑み返した。
それを見て安心した俺は部屋を出て訓練場に向かった。
◆
「では、訓練を始めましょう。サイ様」
「はい、よろしくお願いします。シャルロッテさん」
俺は今、ユースダリア帝国軍の騎士団の一つ、
【
【
そして、団長であるシャルロッテは、帝国の軍士官学校を主席で卒業したと同時に団長に任命されたエリートだ。その人に俺は3歳の頃から剣を教えてもらっている。
「サイ様、剣を構えてください」
「はい」
俺は木剣を習った通りにシャルロッテに向けて正眼に構える。
「違います。こう構えるのです」
シャルロッテが俺の背後に立ち、木剣を持っている俺の手に自分の手を重ねて握り方を直接教える……んだけど。
「こうですっ……サイ様……」
シャルロッテが俺の頭に胸を乗せて来る。しかも胸を上下に揺らして頭に当てて来る。
毎回これなんだよな。俺の構え方とか握り方と完璧なのに、必ずこれをするんだシャルロッテは。
意味が分からん。
「そう…上手です……サイ様……その調子です……頑張ってください……はぁ…はぁ……」
「はあ……」
どうしたんだ?そんなに息を荒くして。まだ訓練は始まっていないぞシャルロッテ。
ただ俺はシャルロッテの言った通りに剣を構えているだけなのに何疲れてるんだ。
というか…そろそろ暑苦しく感じるんだけど…離れてくれないかな。
「シャルロッテさん、剣の指導をお願いしたいのですが……」
「は、はい……! わかりました。早速、模擬戦を致しましょう」
シャルロッテが慌てて俺から離れて対峙する。
「それでは、始めましょう」
「よろしくお願いします」
俺たちは木剣を構える。
「はぁあっ!!」
俺は地面を強く蹴りシャルロッテに剣を振りかぶる。
「ぐっ…!」
「踏み込みは良いですが、剣の振りが甘いです。もっと脇を閉めてください」
俺が振りかぶった木剣をシャルロッテは簡単に剣で受け止め、俺の指導をする。
さすが…ただの変態女じゃないんだよなシャルロッテは…ちゃんと強い。
でも、子どもだからって余裕ぶっていると足元掬われるぞ……こんな風にな!
「はっ!」
「なっ…!」
俺はシャルロッテの木剣を弾き、しゃがんでシャルロッテの股下を通り抜く。
小さい体こそできる芸当、子どもの特権だ。
「これでどうだ!」
「くっ……」
俺はシャルロッテの背後から膝裏を蹴り、膝カックンをするとシャルロッテが地面に膝をついた。
「僕の勝ちだよ」
そのままシャルロッテの首元に木剣を当てた。
「参りました…。流石です、サイ様」
シャルロッテが木剣を地面に落とし両手を上げ降参のポーズを背後から見せる。
ふ~、何とか勝つことができた。
だけど…この勝ち方は卑怯だな…子どもの体こそできたことだ。
それに、シャルロッテは加減をしている…いつかはちゃんと真正面から勝ちたい。
俺がそう意気込んでいるとシャルロッテが振り返り、正座で顔を赤く染めながら俺の目をちらちらと見た。
ん? 何だかシャルロッテがいつもと違うような……どうしたんだ?
「さ…サイ様は……」
「は、はい…何でしょう……」
な、何を言うつもりなんだシャルロッテは……。
というか…物凄く嫌な予感がするんだが……気のせいだよな……。
「サイ様は…私の……お……」
「お?」
「お…お股に……入りたいのですか?」
「…………」
何を言っているんだこの変態女は。
「どういうことですか? シャルロッテさん」
「だ、だって! 私のお股を潜りましたよね!それってもうっ……!
ぐへっ……ぐへへへ」
変態女は何やら変な妄想をし始めた。
あー…こりゃもうダメだ。暫く放っておこう。
俺はこの場を離れ、訓練場の端に置いてあるタオルを取りに向かう。
次は魔法訓練か…その人はシャルロッテみたいに変態じゃないからマシなんだよな…
早く魔法の訓練を始めたい。
そう思いながらタオルを二つ取りシャルロッテのところへ戻る。
流石に…いつものシャルロッテに戻っているよね。
「シャルロッテさん、タオルどうぞ」
「は、はい…ありがとうございます……」
シャルロッテは俺が差し出したタオルをたどたどしく受け取った。
そして、俺は自分の分のタオルで額や首元に流れる汗を拭っていると、シャルロッテが俺を凝視していた。
「汗、拭かないんですか?」
「い、いえ!拭かせていただきます……」
シャルロッテが俺の渡したタオルで汗を拭った。
何で俺のことを見ていたのだろうか……拭き方変だったのかな?
すると突然、汗を拭っていたシャルロッテの手が止まった。
「あの…!サイ様……お願いがあるのですか……よろしいでしょうか?」
「えっ」
シャルロッテが…俺にお願い?
嫌な予感しかしないけど…一応聞いておくか……俺の家族を助けてもらっているからな。
「お願いって何ですか?」
「サイ様の体え―――汗が染み込んだそのタオルが欲しいのです!」
「………」
おいっ、似たような下りさっきもやっただろ。反省しろよお前。
まぁ…シャルロッテには世話になっているからな……そのくらいのご褒美を与えるか。
「シャルロッテさん」
「は、はいっ!」
俺は自分の汗を拭いたタオルをシャルロッテの顔面に叩きつけた。
「~~~~~っ!!!」
「――――黙って嗅いでろ。このド変態クソ女ッ」
俺は発情した獣の如くタオルを顔に押しつけているシャルロッテを無視してこの場を立ち去った。
さて、次は魔法訓練か。
◆
俺は帝国軍の魔術師団の一つ、【
今日はいつもと違って訓練をするって言ってたけど何するんだろう…緊張するな。
そう思いながら、ドアを三回ノックすると「は~い」とおっとりとした声が聞こえ、ドアが開かれた。
「よろしくお願いします、マリアンさん」
「あら~サイ様~。さ~入って入って~」
俺はマリアンの部屋の中に入った。
彼女の名前はマリアン。シャルロッテと同級生で帝国の軍士官学校を次席で卒業し、
【
そして、【
ほんと…俺の派閥って……女しかいないな……。
「あら~ぼ~っとして~どうしたのかしらサイ様~」
俺が自分の派閥に女しかいないと悲観しているとマリアンが俺の顔を覗き込んできた。
「だ、大丈夫です。心配かけてすみません」
「い~え、大丈夫ならそれでいいのですよ~? では~今日の訓練を始めますね~」
マリアンは机の上から試験管のような物を持った。
あぁ…今日は魔法の実験みたいなことをするのか…。
いつもは魔力を増加させたり、様々な魔法を習得したりしてたから、こういうのは新鮮…少し楽しみだ。
「サイ様には~この中に~唾液を入れてもらえますか~」
「だ、唾液っ!」
「そうで~す。サイ様の唾液を~このビンに入れてくださ~い」
試験管に唾液なんか入れてどうするんだ! でも、マリアンはシャルロッテと違って変態な女ではない…きっと必要なことなのだろう……。
「わ、わかりました」
「は~い、支えてあげますからね~」
マリアンが試験管を支え、俺は試験管に唇を当て唾液を流し込む。
「これで…何をするのですか?」
「この唾液を~媒介にして~魔法陣を展開したいと思いま~す」
あっ、やっぱりマリアンはシャルロッテみたいな変態じゃないんだな。
ふ~良かった…マリアンまで変態だったらどうしようかと思った。
魔法陣を展開するための媒介として俺の唾液を求めたんだな。うんうん、安心安心。
「それで、どんな魔法陣を展開するんですか? 魔物の召喚とか?」
「い~え~違いますよ~今回は~サイ様が喜びそうな魔法陣を展開しますよ~。今日は~いつも訓練を頑張っている~サイ様へのご褒美なのです~」
マリアンが優しく俺の頭を撫でる。
しかし、俺のご褒美となる魔法陣か…想像つかない。
まぁ、期待しておくか。
「では、早速見せてもらっても良いですか? 早く見たいです!」
「は~い~行きますよ~えいっ」
マリアンが試験管に魔力を込めると試験管から小さな花火が上がった。
「ふぁ~~~っ! すごいです! マリアンさん!」
「ふふふ~喜んでくれて良かった~」
俺はつい、今の体に見合う子どもっぽい応をしてしまった。
だって俺は小さい頃から花火が好きだから、この世界でも見れるとは思わなかったから子どもぽっくなってしまうのは自然なことだ。
そうか…俺は魔法の認識を誤っていたようだ。魔法は人を傷つけることもあるけど、感動を与えてくれることもあるんだ。マリアンには良いことを教えてもらったな。
ここは第九皇子のサイではなく…ただの日本人の彩として感謝を伝えたい。
「ありがとう、マリアン」
「……! サイ様!」
俺はマリアンに脇の下から腕を入れられ抱きあげられる。
こ、これは流石に恥ずかしいな…抱っこされているみたいだ……。
まぁ、マリアンに俺の感謝の気持ちが伝わったって証拠だよな。
そうだったら…嬉しい。
俺もマリアンの首に腕を回して抱き締める。
そうして、暫くの間、互いを抱き締め合っていた。
「サイ様~また二人で花火を見たいので~唾液~頂けませんか~」
俺とマリアンが体を離すとそうお願いされた。
確かに、また見たいな花火。
よし。
「はい、僕の唾液でよかったら」
「本当ですか~?
ありがとうございます~では~―――」
マリアンが空間を切り裂き、そこから大量の試験管を取り出す。
えっ、こんな多いの? 2、3個だと思ったんだけど…この量はキツいぞ。
ていうか、わざわざ空間魔法に収納してるの試験管。魔法の無駄遣いじゃない?それ。
「は~い、お口あ~んしてくださ~い」
マリアンが俺の口元に試験管を差し出す。
ん~花火見たいからな……。
仕方ない…いっちょ頑張るか。
「わかりました」
「は~い、どうぞ〜」
俺はマリアンに微笑まれながら、次々と差し出される試験管に唾液を流し込んだ。
全ては花火を見るために……。
◆
※三人称視点
薄暗い広い空間の中に100人の女たちが円卓を囲んでいた。
「では、第831回サイ報告会を始める。報告する者はいるか」
そう発言すると炎が現れ、発言者の顔が照らし出される。
その正体は―――サイの母レイだ。
普段の儚い姿とは一変し、レイはこの100人の女たちを統べる威厳を示していた。
「はいっ!報告したいことがございます!」
「発言を許可する。【
シャルロッテは椅子から立ち上がり、レイに体を向ける。
「本日、サイ様と剣術訓練を実施し…サイ様のアーティファクトを入手致しました」
すると、円卓がざわつく。
「皆、静まれ……続きを話せシャルロッテ」
「はい、こちらのサイ様の聖水が染み込んだタオルです!」
シャルロッテが高々にタオルを掲げる。
「「「おぉおおおおおおっ」」」
女たちはシャルロッテが掲げたタオルをうっとりとした表情で眺める。
「シャルロッテ…あなたの功績を認め、序列を7位から4位に上げましょう」
「……!ありがとうございます!レイ様」
シャルロッテがレイに深々と頭を下げ着席する。
「他に報告するものはいるか?」
「は~い」
マリアンが手を上げたまま椅子から立ち上がる。
「発言を許可する。【
「私は~今日サイ様と~魔法訓練をして~こちらを入手致しました~」
マリアンが小瓶を少し上に持ち上げ小瓶を揺らした。
「それは……まさか!」
「は~い、サイ様の~唾液で~す」
瞬間、沈黙が訪れるがそれはすぐに終わった。
「「「欲しい~~~~~っ!!!」」」
レイとシャルロッテ以外の女たちが一斉に立ち上がり、小瓶を欲望と狂気の孕んだ目で見つめ息を荒くしていた。
「ぐぬぬ…!……唾液だなんて……羨ましいぞ……マリアン!」
シャルロッテは心底悔しそうに唇を噛む。
「静まれ」
レイがそう言うと、先ほどまで騒いでいた女たちは一斉に沈黙し着席した。
「マリアン」
「は~い」
「お前の序列を10位から3位に上げる」
「よっしゃあっ!!」
「「「………」」」
マリアンが椅子から立ち上がりガッツポーズを決めると、女たちが無表情でマリアンを見ていた。
「こほんっ…え~いいんですか~ありがとうございます~」
マリアンが両手を胸の前で組み、お辞儀する。
それを見た女たちはこう思った。
(いつまでも猫被ってんじゃねぇぞ。さっさとサイ様の前で本性を現しやがれ、このクソ女)
「他に報告するものはいるか」
「「「…………」」」
「……無さそうだな。では、本日から【サイハーレム王国】の計画について会議を始めよう」
すると、女たちが雰囲気が真剣なものへと変わり、視線がレイに集中した。
女たちの真剣な顔を見て、覚悟を決めたレイは皆にこう告げた。
「―――この計画を遂行する上で邪魔となる……ユースダリア帝国現皇帝ジークの殺害方法について作戦を立てよう」
~あとがき~
もし、この物語の続きを読みたいと思って下さったら、星★や応援コメントを頂けたら連載しようと考えています。(1/10までに決めたいと思います)
是非、よろしくお願いします。
また、現在別作品「無気力な次期領主が代わりの領主を探すために、やる気を出したらどうなるかわかってるの?」を連載しております!
こちらの応援もよろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16817330668884388759
~追記~
連載します! 是非よろしくお願いします!
こちらになります。↓
https://kakuyomu.jp/works/16817330669727013901
【短編版】異世界転生ものが大っ嫌いな俺が、異世界転生をしてしまった件~今すぐ元の世界へ帰りたい俺ですが、美形すぎる顔のせいでド変態女どもが群がり俺を元の世界へ帰さないよう邪魔をしてきます~ 大豆あずき。 @4771098_1342
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