獣よ
わたしの最愛の人の死を喜び祝う者たちよ、隣人の死を悼まず宴に興じる心なき者たちよ、人の身に生まれながら死に悲しみを見出せぬ心持たぬ獣ども。
わたしはお前たちの死を願おう。お前たちの最愛の者の死を喜び祝おうではないか!宝石の鏤められた杯になみなみと酒をそそぎ高らかに祝の言を叫ぼうではないか!お前たちがそうしたようにわたしもそうしようではないか!
わたし自身の悲しみのため、わたし自身の慰めのために。わたしの嘆き、この胸のうちに滾々と湧き上がる憎しみはお前たちの死を願わずにはいられぬのだ。
だからわたしはお前たちの死を願う。愛を知らぬお前たちが最愛の者と呼ぶ者の死、そしてその最愛の者にとって最愛の者の死を。
近く、わたしが死によっての眠りではなく死に向かっての眠りに入った時、お前たちの魂に、いや、お前たちに魂と呼べるものがあるはずもない。
お前たちを獣たらしめる腐臭漂う洞穴、本来ならば魂のあるべき場所、そこにわたしの憎しみの解けぬ呪いの暉映たるしるしが深々と刻みまれるであろう。
それは獣の怖れるしるしだ。お前たちの怖れるすべてを想起させる光だ。それはお前たちな奪ったものを、今なおも奪い続けているものをあるべき場所へと導く光だ。
その光はお前たちにとっての最愛の者を忘れ去るほどに精神を狂わせ全身に刺すような苦痛を与える。お前たちはその苦痛に跪きそこから逃れようと死を望むだろう。
だがお前たちに逃れることなど出来はしない。なぜならその呪いはお前たちによって生まれたものなのだから。
より正しく言うならばわたしが呪うまでもなくお前たちは呪われていたのだ。わたしが死を望むまでもなくお前たち自身が死を招いたのだ。
死は間もなくやって来る。他ならぬお前たちの呼びかけに応え、お前たちとお前たちにとっての最愛の者を耐え難き苦しみのうちに連れ去るだろう!
そうであらねばならぬ!
そうであらねばならぬのだ!
獣に悲しみは理解出来まい。だからこそお前たちにはまず死の苦しみを教えねばなるまい。そうすることでしかお前たちは死の悲しみを得るに至らぬ。すなわち人の魂の嘆きを知るに至らぬのだ。
獣、その番、獣の子。死を知り悲しみを得て嘆くがいい。わたしはそれを祝おう。
獣であったお前たち、心持たぬお前たちが悲しみを知る一歩を踏みい出したことを。
詩集 本居 素直 @sonetto-1_4
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