畢生

 たった一つの言葉も知らぬ、

 まだ応える術など知らぬ、

 そんなものがあるとさえ知らぬ、

 そんな私に、貴方は愛を伝えた。


 私が言葉を得て、

 激しい感情を表し、

 時にそれらに支配されようと、

 貴方は私に伝え続けた。 


 その肉体が錆び付き、

 言葉を奪われ、

 決して抗えぬものに精神が脅かされ、

 自身が何者であるかさえ見失おうとも、

 貴方は私の名を忘れはしなかった。


 私から去る時でさえ、

 その愛は少しも失われてはいなかった。

 最早それを確かめる術はない、貴方は貴方を失ってしまったのだから。


 ただ、私の心に刻まれた愛は、

 貴方がなくとも失われはしない。

 その肉体、その悲哀の洞窟から解き放たれ、

 貴方は存在からの完全な自由を永遠のものにしたのだ。



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