だがしやのロルフくん

城戸圭一郎

消えたわたがしのナゾ

 街のだがし屋「いぬ屋」は大人気。今日もたくさんの子どもたちがやってきました。


 ジャンガリアンハムスターのロルフくんは、いぬ屋で働く店員さんです。今日はビー玉パチンコの新作を作ろうと、お店の裏庭でクギをトントン叩いていました。するとお店の通りのほうから、泣き声が聞こえてくるではありませんか。ロルフくんは手を止めて、手のひらをポンポンと叩き、ホコリをはらいました。


「ロルフ! いるかい?」


 いぬ屋の店主、テリア犬のくれはさんの声がします。


「いますよ。今行きます」


 と、ロルフくんは外に出ました。お店の前で、ウサギの姉妹が泣いていました。


「そのおちびちゃんたちの話を聞いてやんな。あたしはわたがしを作るんで忙しいからね。手が離せないんだよ」


 たしかに、くれはさんの操るわたがしマシーンには行列ができています。

 ロルフくんは、泣いているウサギの姉妹に声をかけました。


「おやおや。一体どうしたんだい?」

「えーん。えーん」

「泣いてちゃわからないな。お話ししてもらえるかな?」

「買ったばかりのわたがしがなくなっちゃったの」

「なくなった?」

「うん。わたがしを買って、それからラムネを買おうと思って私はお店に入ったの。だからわたがしは妹にあずけたんだけど、気がついたらなくなたってたっていうの」


 ウサギの妹はまだ小さくて、ずっと泣いているばかりです。


「ふぅむ。手に持っていたはずのわたがしが二つ、とつぜん姿を消してしまったというわけだね」


 ロルフくんはうでぐみをして考えました。しっぽがぽにぽに動いています。ロルフくんが考え事をするときは、しっぽがしぜんと動くのです。


「まかせておくれ。このロルフがナゾをといてあげる」


 そうなのです。ロルフくんはIQ180の天才ジャンガリアンハムスターなのです。



 ◆消えたわたがしのナゾ◆



 ロルフくんのしっぽのぽにぽにが止まりました。


「わかったぞ」


 ロルフくんはいぬ屋の屋根を指差しました。


「犯人は、カラスくん。キミだね」


 カラスはびっくりして首をふりました。


「ちがうよ! オイラじゃないよ!」

「そうとぼけなさんな。キミがわたがしを横取りしたんじゃないことはわかっている。カラスくんは引っ越しをしたばかりだったね。巣作りに材料が必要だろう。わたがしの丸い棒はぴったりだ。つい欲しくなってしまったとしても不思議じゃない」

「オイラじゃないって! たしかに引っ越したばかりだけど、木の枝とか落ちてる棒を拾って家を作ったんだぜ」

「理由はもうひとつある。ウサギの妹が持っていたわたがしは地面に落ちていなかった。つまり空から飛んできた誰かが持ち去ったということさ。キミは空が飛べる。そうだね?」


 カラスさんは大きな声でカアと鳴きました。


「そこまで言われたらだまっていられない!」


 黒い翼をばさりと広げて、カラスさんはロルフくん目掛けて一直線に飛びました。そして四本の指でがっしりロルフくんの体をつかむと、空高く舞い上がりました。


「うわわわわ〜」


 いぬ屋はたちまち小さくなり、屋根のならぶ街の姿もどんどん小さくなります。高いところが苦手なロルフくんは目をまわしました。しっぽはお尻にのなかに引っ込んでしまいました。


「さあ、着いたぞ。ここがオイラの新しい家さ」


 そこは森の中でもひときわ大きな木のてっぺん。カラスさんの新しいお家です。


「巣作りにわたがしの棒を使っているかどうか、自分でしらべてみるといい」


 そう言われたロルフくんは一本一本しらべました。いぬ屋のわたがしの棒には「犬」という字がきざんであるのです。カラスさんの家の材料になっている棒は、ぜんぶ違うものでした。


「カラスさんごめんなさい。どうやら僕の推理は間違っていたようだ」

「まったく。ロルフくんにも困ったものだよ」


 カラスさんはふたたびロルフくんを掴むと、空を飛んでいぬ屋まで連れて行ってくれました。


「しかし、これでまたわからなくなったぞ」


 消えたわたがしのナゾは解決しないままです。

 ロルフくんはうでぐみをして考えました。しっぽがぽにぽに動いています。

 くれはさんは相変わらず忙しそうにわたがしを作っています。いぬやの前の通りは、いつも誰かが歩いているので、見つからずにわたがしを隠すなんてできそうにありません。ウサギの姉妹はまだ困った顔をして、ロルフくんを見つめています。

 ロルフくんのしっぽのぽにぽにが止まりました。


「わかったぞ」


 ロルフくんは地面を指差しました。


「犯人は、モグラさん。キミだね」


 モグラはびっくりして首をふりました。


「ちがいますわよ! アタシじゃありません!」

「そうあわてなさんな。キミがわたがしを独り占めしたわけじゃないことはわかっている。モグラさんはネズミたちと地下コーラスで歌を歌っているよね。歌い手はのどを大事にするからね。のどあめをみんなに配るために、わたがしを材料にしたくなったとしても不思議じゃない」

「アタシじゃありませんって! たしかにのどあめを作っていますけど、ちゃんとツツジのみつをにこんで作ってるのよ」

「理由はもうひとつある。わたがしは地面に落ちていなかった。つまり地面のさらに下、地下に持ち去られたということなのさ。キミの家は地下にある。そうだね?」


 モグラさんは長い爪で地面をほりました。


「そこまで言われたらだまっていられません!」


 いったん地面にもぐったモグラさんは、ロルフくんの目の前でぼこっと顔を出しました。そして長い爪でロルフくんをかかえると、そのまま穴から地下にもぐりました。


「うわわわわ〜」


 トンネルのなかはまっくら。たちまち何も見えなくなりました。モグラさんはどんどん進んでいくので、まるでジェットコースターのようです。暗いところが得意なロルフくんでもさすがに目を回しました。しっぽはお尻にのなかに引っ込んでしまいました。


「さあ、つきました。ここがアタシの家ですよ」


 そこは天井が高く、テーブルとソファがあります。ロウソクの明かりがともっているのでよく見えました。


「ワタシののどあめにわたがしが使われているかどうか、確かめてごらんなさい」


 ロルフくんは、たくさんあるのどあめを一つ残らず食べました。全部ツツジのみつの味がしました。


「モグラさんごめんなさい。どうやら僕の推理は間違っていたようだ」

「まったく。ロルフくんにも困ったものですよ」


 モグラさんはふたたびロルフくんをかかえると、トンネルを走っていぬ屋まで連れて行ってくれました。


「しかし、これでまたわからなくなったぞ」


 消えたわたがしのナゾは解決しないままです。

 ロルフくんはうでぐみをして考えました。しっぽがぽにぽに動いています。ウサギの姉妹はまだ困った顔をして、ロルフくんを見つめています。

 そこへ、ひつじさんが通りがかりました。


「やぁ、ロルフくん。今日は忙しそうだねぇ」

「こんにちは。ひつじさん。ちょっとわたがしについて考えていてね」

「いぬ屋のわたがしはいつも大人気だよねぇ。さっき通ったときも、子どもたちの行列がすごかったよぉ」

「ところで、ひつじさん。髪型を変えたのかい?」

「髪型? いやぁ、いつもと同じだよぉ」

「それにしてはいつもよりモコモコして……」


 ロルフくんのしっぽのぽにぽにが止まりました。


「わかったぞ!」


 ロルフくんはひつじさんの背中にぴょんと飛び乗ると、モコモコのなかに顔をつっこみ、鼻をくんくんさせました。


「これはひつじさんのモコモコじゃない。いぬ屋のわたがしだ!」


 ウサギの姉妹もひつじさんの背中に飛び乗りました。


「本当だ! これはわたがしだ!」

「あまい、とってもいいにおい!」


 ロルフくんがモコモコのなかを探すと、丸い棒が二本、見つかりました。そこには「犬」という字がきざんでありました。


「どうやら、ウサギのおちびちゃんたちがわたがしを買ったとき、通りがかったひつじさんのモコモコに引っかかって、くっついてしまったようだね。ひつじさんのモコモコとわたがしはそっくりだから、誰も気づかなかったんだ」


 ひつじさんは頭をかきました。


「ごめんよ。おわびに、新しいわたがしを買ってあげるね」

「わぁ、ありがとう! ひつじさん!」


 ウサギの姉妹はよろこんでぴょんぴょん飛びはねました。


「ロルフや!」


 いぬ屋の店主、くれはさんがロルフくんを呼びました。


「ナゾがとけたなら、わたがし作りを手伝っておくれ。そのおちびちゃんたちのぶんも作るんだろう?」

「はい、くれはさん」


 いぬ屋のわたがしマシーンの前では、たくさんの子どもたちが、わたがしができあがるのを待っていました。



おしまい

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だがしやのロルフくん 城戸圭一郎 @keiichiro_kido

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