最終話:僕とノワールの思い出。

朝起きて、ノワールは一番にヤギのお乳を絞りに行く。

それから鶏小屋に寄って卵を全部回収してくる。


で、仲良くふたりで朝食を食べる。


いつもの日常・・・とくになにか劇的なことが起こるわけでもない。

起きないほうがいいに決まってるんだけどね。


「涼ちゃん私、眠い・・・寝てもいい?」


「いいよ・・・いつものことだろ?」


朝食を食べるとノワールは野生の習性がでるのか朝寝を始める。

それにしてもよく寝る子だ。

その辺はやっぱり猫なんだね。


その間、僕は南の部屋の書斎兼仕事場で頼まれたデザインを起こして、

その合間にノワールとの日記、エッセイを書いたりする。

それはいずれ出版できたらしてみたい。


で、昼前によく寝てるノワールを起こして、昼食を食べてから

ホームセンターで買ってきた材料で 僕とノワールのど素人ガーでキングと

家庭菜園がはじまった。


サロペットに麦わら帽子のノワールが可愛い。

改めて絵になるなって思った。

黒猫にあえて真っ白なサロペット・・・汚れたらそれではそれで逆に

おいしいって言うか可愛いって思う。


で、僕は久しぶりにノワールを連れて外食にでかけた。

なんでも最近オープンしたばかりのイタリア料理の店で、クチコミでは

美味いって噂だったので行ってみたわけ。


なんだけど・・・。


「涼ちゃん・・・美味しくない」


ノワールは正直、思ったことは素直に発言する。


「あのね・・・あまり大きな声で言わないの」


たしかにノワールが言う通り、あまり美味いとは思えなかった。

って言うか味が淡白・・・薄い・・・イタリアンってこんなもん?

失敗したかな?

そもそもイタリアンなんて普段そんなに食べに行かないから、よく知らない

んだよね。


ノワールが一番閉口したのが、一品食べたら次の料理が出て来るまで、

やたら長いこと。

それは僕も思った。


「涼ちゃん・・・次のお料理でてこないよ?」


「ちょっと待ってね、イタリアンとかフランス料理ってそういうシステム

なんじゃないか?・・・だからねもう少し待とうね?」


ほんとにまだかよってくらい待たされて、なかなか料理が出てこないから

終わりかと思って、席を立とうとしたら、ようやくデザートが出てきた。


なんかね、貧素なイチゴのシャーベット。


ノワールはすこぶる不機嫌。

僕もノワールの満足いかないディナーだった。


まあ、たまたま行ったイタリアンに僕たちは恵まれなかったってことだろうけど、

高い金払ってイタリアンなんか食べに行くより、最近の冷凍食品のほうが

以外に美味かったりするから・・・それでいいんだ、な?ノワール。


まあ、そんなこともあったりで僕とノワールの日々はいたって平和。


僕が趣味の自転車で島にでかけた時、偶然出会った黒猫ちゃん「ノワール」


ノワールは不思議な猫で、暮らしてるうちに、突然人間になっちゃった

前代未聞の珍しい猫。

謎だけど、ただの猫じゃなかったみたい。

ノワールが人間の女の子にたったことを期に僕は田舎に引っ越した。


そこで古い洋館、パーシモンの館に出あった。

その洋館が気に入った僕はその館でノワールと一緒に暮らし始めた。


田舎に引っ越したとはいえ毎日の平穏な日々、だけど昼間にノワールを

放っていけなくなった、僕は趣味の自転車で走りにいけなくなった。


しかたがない・・・なにかを得るためにはなにかが犠牲にしなきゃ。

だからどうしても出かけるときはノワールと一緒にジムニーで一緒のこと

が多くなった。


僕たちが庭ではじめたガーデニングと家庭菜園。

ノワールは日々のガーデニングと嘉永差延に思った以上にハマって

しまったって、俺が参考にと思って買ってやったイギリスのガーデニング

番組のDVDを熱心に観ている。


とくに「ターシャ・テューダー 」のDVDがお気に入りでよく見て観てるね。

庭の話もそうだけどターシャ・テューダーその人が好きなんだろう。

あと足の短いコーギーと鶏も気に入ってるみたいだ。


僕も暇があったら庭いじりを手伝うが、仕事が立て込んでるときはノワール

一人で嬉しそうに頑張ってる。


そういう生活が今はメインになっていた。

ノワールは自分の身の回りのことはもう一人でできるけど。でもまだ

ひとりでは街には行かせられない。

いろいろ教えてはいるけど、まだ知らないことが多すぎるからね。


僕とノワール・・・人間と猫の関係・・・いくらノワールが人間の

女の子になったからって、そこに恋愛感情が生まれるのかって話だけど、

俺のノワールに対する恋愛感情は微妙で複雑。


ペットや家族に対する愛情とはまた違った感情。

人間の男と女が織りなすような感情に近いのかもしれない。


ノワールの方はどうなのかは聞いたことがないから明確には分からない。

彼女にとって僕が大切な人だって思ってくれてるのは確かなようだ。


どちらにしても、お互いなくてはならない存在・・・もう離れては暮らせない。

この先、お互いが恋愛に発展して行ったとしてもおかしくはないだろう。

僕自身は受け入れる覚悟はできてる。


それよりもノワールは今のままの状態?・・・人間になったままなんだろうか?

いつかまた元の猫には戻らないんだろうか?

こればかりは月日が経ってみないとなんとも言えない。


まあ、できれば僕としては今のままのノワールでいてくれほうが楽しい。

会話ができるからね・・・ニャ〜としか鳴かない猫よりしゃべってくれる

ノワールの方がいいに決まってる。


それに猫としてだけじゃなく人として触れあうことだってできる。

温もりだって感じる・・・ツンデレだけど優しさも感じる。


一番心配してるのがノワールの寿命のこと。

猫は長く生きても平均15年くらいだろう?

確実に僕より先に天国へ召される時がくる。


だけど今は人間になってるわけだから、どのくらい寿命があるのかは

分からない。

もしかしたら僕くらいは生きるのかも知れない。

そこが知りたい部分でもあるし、少し心配な部分でもある。


だけどまあ、先のことをあれこれ気に病んで考えたってしかたない。

なるようにしかならないんだから。


だから僕はこれからもノワールと1日でも楽しいって思える思い出を

このパーシモンの館でたくさん作って生きたいって思う。


汚れたサロペットを着て麦わら帽子を背中にさげて、僕をみて思い切り

笑ってるノワールの姿を目に焼き付けながら・・・。


おしまい。








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僕とノワールとパーシモンの館。 猫野 尻尾 @amanotenshi

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