もちちもっと
藤泉都理
もちちもっと
飾るから買ってきてとお使いを頼まれて、スーパーに行ってごったまぜの人混みの中に突撃。
無事に買えた戦利品を携えてスーパーから出た帰り道。
何かが後ろからついてくる気配を察知。
これはもしや。
恐怖が増長、心臓が爆音、徒歩が速足。
振り向くな、振り向いたら。
やつが、い、
ぎぃやあああ。
足は止まり、悲鳴と心臓が飛び出た。
足はその場に固定、心臓はすぐに体内に戻り、悲鳴は飛び出したまま。
視線は、私の前に回ったやつに、苦手な犬に、幼馴染で嫌なあいつが飼っているポメラニアンに固定。
間違いない。
首輪にあいつがよく口にする名前が記されている。
あいつのポメラニアンじゃい。
首輪をしているんだからリードもちゃんとせんかいっつーか、なんでポメラニアンだけなんじゃい。
そんでもって、なんで、ポメラニアンはさっさと立ち去ってくれないんじゃい。
互いに、硬直状態。を打破してくれたのは、杵を担いだあいつだった。
悪い悪い、リードが首輪からすっぽ抜けちまって。
可憐な外見に乱暴な口調のこいつは、ポメラニアンの首輪にリードを付けながら、うちの餅つき大会に招待してやるよと言ってきた。
いや結構です、鏡餅を買ったんで。
買い物袋から出した箱入りの鏡餅を見せても、搗きたての餅って超うめえんだと言って諦めない。
だから嫌なんだ。
こいつは。
美味い物を勧めて、私を肥えさせるから、嫌なんだ。
ただ、何より嫌なのは。
「な?美味いだろ?」
「うん」
断り切れない自分だった。
だって本当に、こいつがお勧めしてくれる食べ物は私にとって常に天下一品なんだもん。
搗きたて餅、超美味しい。
そのままでも美味しいのに、きな粉とか、砂糖醤油とか、勧めないでよー。
手が止まらないー。
「ポメラニアンがおまえを足止めしてくれたから食べられたんだ。ポメラニアンに礼を言えよ」
こいつに抱えられたポメラニアンに、私は顔を引きつらせながら礼を言った。
こんなにかわいいのに怖いなんて損だよなーって言われても、怖いもんは怖いんじゃい!
(2023.12.29)
もちちもっと 藤泉都理 @fujitori
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