第3話 死神、狂科学者と戦う。
「おい死神、ついたぞ」
「ええ、着きましたね。そういえば共闘するにあたって白衣の死神は長いので白衣、と呼んでも?」
オレは「好きにしろ」とだけ答えて歩みを止めずに先へと進んだ。すでに死体はなく、ただ一人を残して強盗含む全員が死に絶えたと思われる。まっさらな大金庫の奥にある通路を抜けて隠し金庫へとたどり着く。
「白衣、準備はいいですね」
「する準備なんて死神には何もねーだろ。一回死んでんだから」
「魂の消滅、死神にも十分に覚悟のいることだと思いますけどね」
おしゃべりはここまでにして、オレは入り口の封印が解かれた隠し金庫の中へと先に進む。黄金の輝きに照らされた室内は文字通り目が眩むほどで……。
―――ッ!
「ッチ! この逆光じゃ場所がわからねぇ!」
無音で打ち出された弾が掠った頬を撫でると確かに魂の残滓があり、魂が削られたのを魂で感じた。
「ぎゃはははははっ! もう少しなんだ! 邪魔すんなよ! さっさと死ねよ!」
―――ッ! ―――ッ! ―――ッ!
連続で打ち出される弾丸を常に移動することで避け続ける。
「白衣っ! 入ってきた扉から右回りに壁沿いを行け!」
「死神っ! てめーどこにいやがる! さっさと何とかしやがれっ!」
オレは死神の指示に従い左回りにヤツの背後、もしくはヤツ自身に接近するために壁際まで下がり回り始める。
「ばぁああああ~かっ! そんなのに引っかかるかよぉ~っ!」
だろうな。そりゃそうだ、向こうからはオレの動きなんて丸見えなんだから。それでも囮としての役割として馬鹿を演じるのは必要なことだったんだよ。けれどよ、遅いっ!
「くっ! 死神ぃいいいいっ! 早くしろっつってんだろぉおおおおお!」
「―――お待たせしました。精霊よ……いえ金欲の聖霊よ、私を依り代としなさいっ!」
パキンッ!
何かが割れる音がした後、光の奔流が反対側の壁にいる死神を飲み込んだ。
カラン⋯⋯。バタッ。
「はああ? ふざっけんなぁああああ! そいつは俺んのだぞぉおおおおお!」
精霊光の強さから、封印解除のギリギリだと読んだオレたちはどちらかが依り代として憑依させる作戦に出た。それは成功し、死神のやつはぶっ倒れた。
「それが死神のやることかよぉおおおおお! ちくしょー! こうなったらお前を殺して―――っ」
「させるかよっ! おらっ!!!」
光源が消えたことではっきりと目視できた強盗と同じ防弾チョッキと着た男、やつが動き出す前に接近し蹴りを入れて地面に転がす。
「うっ、ぎざまっ!」
「⋯⋯核醒者、そんな力が本当に欲しいのか?」
痛みに疼きまるやつの首元に鎌を当てがい、オレは顔を近づけて元同僚に尋ねる。
「ああ、欲しいね! 核醒者は神と同義、それはお前もわかるだろう!」
「わかるさ、だから殴られろよ」
「ぐふっ⋯⋯」
イラつく。こいつも、研究に携わっていた過去のオレも。だから今はあいつのために尽くそう。それがオレの庇護欲だとしても。
――――――
「聖女さまが言うにはね、私は見たこともないくらい澄んだ魂を持ってるって。だから次の聖女に選ばれたの。この〝聖女〟としての人生が終わったら私はきっと〝神域の楽園〟に行けるらしいんだ。いつになるかわからないけど、コロンもマロンも一緒にいこうね」
あいつはその聖女の言っている言葉の意味を知らない。しかし俺にはわかった。そして、運命を恨んだ。〝転生をいくらしてもこの子は神へと至るための宿命を負わされる〟ことに。
――――――
「だからよ。オレが、オレたちが守るんだよ。なぁ、死神……いや、キンコ」
死神の体がどんどん縮み、変化し、子狐になったでオレは〝名付け〟を行った。
『キンコとは私のことでしょうか』
「あぁ、いい名前だろ?」
『……まぁ、金の狐だからとか安直な付け方な気もしますが、名前のなかった時よりはマシですね』
起き上がった金色の子狐〝キンコ〟はすらっとした女性の死神へと変化し、音もたてずにオレの鎌の刃と反対側から鎌を振りぬき、挟み込む形で強盗に扮した狂科学者の首を跳ね落とした。
「はぁ……。〝聖霊〟を取り込んで分かりました。これは他者の欲望すらも増幅させる」
「あぁ、お前が阻止したかった古代兵器ってのは欲望増幅装置のことだ。神の感情を取り込んで周囲に訴えかける代物、人々の感情を支配できればそれは実質的な神とでも言えるだろ?」
「感情の波は周囲に波及する……、いきすぎた感情はどんなものだろうと悲劇を生む。だから〝ウイルス〟ですか」
オレは頷く。基本的にポリンが向かう先には聖霊がいる。それは聖女としての宿命であり、神へ至るための導きでもある。
「いろいろと言いたいことはありますが、まずはこの魂を冥界へと持ち帰ることにします」
「おう。またな」
キンコと共にポリンの元へと戻る。ペロスが死神に対して唸るがオレがわからせてやるとすぐに理解したようで大人しくなった。
『まさか聖霊の再封印を私の体で行うとは思いませんでした』
『まぁ、成り行きってのはよくあるよな。しゃーない、こいつの使徒として他の聖霊の封印も頼むぜ』
寝ているポリンの頭を撫でてからオレは子犬に戻り、ペロスと共に渦を抜けて教会へと帰ってきた。キンコは別の
「マロン、いつも通り家まで頼むわ」
『任された。
「あいよ。そいつが目を覚ます前には必ず帰るわ」
人型へと再びなってマロンの背中にポリンを乗せて家まで運ばせる。オレは事務所の受話器を取って前聖女へ電話をかけた。
鎌と拳は聖女のために。 たっきゅん @takkyun
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