第2話 聖女、ケガ人を治療する。

 この世界はどうやら科学と精霊魔術が融合し、かなり発展した世界のようでした。自動車は魔術機構で空を飛び、煌びやかな電飾と精霊たちの輝きで照らされている町を走り抜け、たどり着いたそこは警備員と職員が倒れて血を流している銀行でした。


「早く金を! 金を出せって言ってんだろうがぁあああっ!」


 野太い男の声が中から聞こえ、この現場は銀行強盗であると確信しました。


「悲惨な現場だね、早く助けないとっ!」


 私が銀行へと突撃しようとして足をました。


「わっ!? ってコロン、何するの!? 行かせてよ!」

『わぅ~~~』


 ズボンの裾を離さない犬のコロンは正面玄関の横へと引っ張っていこうしているようで、ふとそちらを見ると私を今、必要としている人たちが目に飛び込んできました。


「うん。わかった、ごめんねコロン」

『わんっ!』


「誰か! 誰か治癒術の使える方はいませんか!」

「ねぇ! 返事してよっ!! お願い、目を開けてっ!!!」


 路上に緊急用のエアマットが引かれて寝かせられている人々、どうして私はすぐに気付かなかったのだろうと悔やみます。しかし、そんな時間があるなら一刻でも早く痛みによる苦しみから解放してあげようと、数多の叫び声が安堵のため息、喜びの声に変わるように目を閉じ、を唱えます。


「―――〝地上の悲しみに、神たる貴女の信徒でもある、聖女ポリンが貴女の願いに応じます。その御身に宿る癒しの御力、その一部を私に授けたまえ〟―――神の癒しいやせ


 神の力をお借りして言霊にのせて奇跡を体現するのが〝聖女〟であり、のです。


「え? 傷が……、一体何が」

「あなたっ! よかった!!!」

「―――奇跡だ」


「「「わぁーーー!!!」」」


 私の言霊により発生した光に包み込まれた人々の傷が同時に、そして一瞬で癒され、その場に喜びの叫びが彼方此方で聞こえてきます。


「これでよしっと、それじゃ中の人を助けに……」



 いこうとして、そこで私の意識が失われていきます。この感覚、きっといつものように神様が私に憑依して助けてくれる。そんな安心感に包まれながら、ついに途切れました。


――――――


『いかせねぇーよ』


 コロンから渋いおっさんの声が聞こえるのは恐怖でしかないので、オレは黒い小型犬の姿を素早く解除し、主であるポリンを死神の睡眠術で眠らせた。


「こいつは、全く。いつになっても人助けだな。……まぁ、それは俺のせいかもしれないが、危険な目に合わせる気はない」


 オレはポリンの体を抱えて走り出す。白衣の死神、そう呼ばれた前世は死神たちにも恐れられた。それはポリン、いや前世はサヤだったか。まあいい、この子のために命を賭ける死神であり、本来は死なない死神すらも殺す力を持った死神であったからだ。


「それにこいつの手は汚させねえ。何度生まれ変わろうが、こいつだけは穢させねえ」


 それは毎回いっている決意にも似た言葉だが、オレは何度でも繰り返す。絶対に幸せな結末まで連れていくという願いを込めて。


「やっぱりな、こいつを行かせなくて良かった。皆殺しじゃねーか」


 銀行の内部は言葉に表したくもないほど悲惨な状況で、死体に空いた穴は小さな三角を描くように3つあったがそれぞれの傷跡は異なっていた。


「恐らくは実弾とレーザー銃、それと精霊魔術か。複数の攻撃方法を同時に展開することで個人にできる防御方法を突破する改造兵器、そんなところか」


 記憶をひっぱり出して相手の武器を予想する。元々は科学者で核醒者の研究をしていたオレは存在しているであろう多次元世界の情報を断片的ながら覚えている。


「確実に殺す、そんな意思を感じるな。強盗の本当の目的がなんにせよ始末してさっさと帰るか。……こい、ケルベロス」


 ポリンは知らないだろうがオレは死神の前世時に地獄の番犬ケルベロスを調教した。〝死が別つ〟なんて言葉はオレには無意味だ。それを繋ぐ〝縁〟ってやつをこいつがオレたちに創ってるからな。


「ペロス、オレが戻るまでこいつを頼む」

『カシコマリマシタ。オキヲツケテ』


 ケルベロスのペロスの背にポリンを乗せて奥へと進む。通路には死体が無数に転がり、その中には強盗と思われるものも多数存在した。


「仲間割れ……、いや、利用されただけか」


 オレは鎌を顕現させ、右手に持って通路を一人進む。


 カツンッ カツンッ カツンッ


 規則正しい杖をつくような音が背後から聞こえ振り返ると同時に相手の首元へと刃を持っていく。


「……白衣の死神、あなたがいるとは思いませんでした」

「そいつは悪かったな。オレも死神様に会うとは思わなかった」


 カラランッ


 後ろから来た黒装束に身を包んだ死神は降参とばかりに鎌を手放し地面に転がす。


「……ここに来るまでに寝ているあいつに手を出してねーだろうな」

「ケルベロスを知っている私が手を出すとでも?」

「……で、どうしてここに?」


 睨み合い、相手がポリンに何もしていないのを確認してからオレは鎌を下げて問いかける。


「目的はあなたと同じですが、私が欲しいのは元凶の魂」

「死神らしいな」

「ヤツはたちが悪い前世の記憶をもった転生者だが、あなたがいれば楽に仕事が終わるかなと」


 転生者、それが表すのは邪法にて死を克服した〝魂の輪廻から外れし者〟で、オレや、それにポリンも言葉には含まれるが〝核醒者〟としての力はそれを超越しており死神の処分対象外となっている。


「あぁ、だからこんな手の込んだヤバイ代物武器をもってるのか」

「ご名答。私も来てそこらで死んでいる者の魂も回収して気付きましたが、これは魂も削る魔実弾です」

「……魔工学のマッドサイエンティスト狂科学者か?」


 オレが実弾と呼んだもの、それは魔実弾と呼ばれる精神体と肉体の両方へのダメージを与えることができる代物だったようだ。ただの鉄の塊だと思っていたオレは知ったふりをして、この先にいるであろう転生者への警戒心を強めて追加の情報を求める。


「ええ、ヤツは最強の古代兵器〝ウイルス〟復活を自らの手で行うために転生した」

「まさかっ!」

「この銀行にはが保管されているんですよ。だから襲った。ここまで話したんですからちゃんと協力してくださいね」


 ッチっと舌打ちしてオレたちは二人で先へと進む。待ち受けるは大金庫も黒と白の死神の障害にはならず、そのさらに奥へと向かう。転生者のいるであろう隠し金庫へ。

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