鎌と拳は聖女のために。
たっきゅん
第1話 聖女、夢をみる。
「―――いいからいけ!」
「いや! 私も戦うの!」
……これは私の過去の記憶です。白衣の男が嫌がる私を転送の装置へと無理やり押し込めてカプセルに閉じ込めます。
「……お前はまだ小さいから言葉が話せなくても警戒されない」
装置のボタンを押した顔は霞んで表情はわかりません。しかし、男が徐々に消えゆく私に語り掛けます。
「いいかい? これは夢だ。だから俺たちのことは忘れて、別の世界で幸せな人生を歩んでくれ」
『いやっ! やめて……。私を置いていかないでっ!』
私の声は装置に阻まれて……、男の言葉だけが、一方的な言葉だけが部屋に響きます。
「いたぞ!
「うわー!」
突如鳴り響く銃声や悲鳴、開いた扉が外の惨状を思い出させ、この部屋にも武装したビジネススーツの屈強な男たちが雪崩込み、刃物を片手に男に殺到します。
「まだ死ねないんだよ! この子を見送るまではなあ!」
『お願い……、一緒に逃げてよ……』
白衣の男は袖口からメスのようなものを取り出して応戦し、致命傷をさけて健闘しますが多勢に無勢、白衣は裂けて流れた血により赤に染まっていきました。
『誰か⋯⋯、助けて⋯⋯』
私の記憶はここまで
その後の展開を私は知りません。
――――――
パパパパパンッ!! ヒュ〜〜〜、ドンッ!!! デデデデンッ! バンバンバンッ!!
「雨が降り 地面が濡れた その道に 、 咲いた私は ちょーかわいいっ!」
私はお気に入りの蝶柄傘をさして、真っ赤なワンピース姿で雨がやんで銃弾が降り注ぐ戦場になっている町を歩きます。
「ねぇ、あなたが助けを呼んだの? はい、これ持って」
目的地は路地裏、〝るんるん〟気分で私はゴミ箱の後ろに隠れていた少年を見つけて傘を渡しました。
「あんただれ? てか、こんな目立つ傘いらない。てか、見つかっちゃうからどっかいってよ。てか、女一人でこんなとこきてんじゃねーよ」
「んー、それはいろいろと無理な要求かな。キミに呼ばれて私はここに来たんだし」
てかの多い少年の瞳を見つめると私のことを心配しているのがとてもわかり〝るんるん〟が大きくなるのを感じます。
「そっか、君。優しいね」
「……なんだよ、てか、気持ち悪い」
「いいよ、気持ち悪くて。それじゃ、君の大切な人に会いにいこっか」
「わ―――っと! いきなり何すんだよ!」
少年の手を引き立たせてから、私は路地裏から少年と共に飛び出します。
「お父さんに会いに来たんでしょ? 〝るんるん〟いっくよー! あっ! 傘……、ま、いっか!」
「え? ―――うわぁああああああああああああっ」
私の言葉に虚を突かれた少年の力が抜けたのを見逃さず、私は少年が宙に浮くほどの〝るんるん〟最高速度で戦場を走り抜けます。
「ちょっ! てか、どこへいくんだよ!」
少年の質問には答えずに目的地まで一直線! 目当ての人は満身創痍で屋根の煙突にもたれかかりながらも、高速で突っ込んでくる私に銃口を向けて⋯⋯、ひっぱられている少年に気付いてからは、さらに険しい表情で私が近くにくるまで銃を構え続けます。
「おっ! 間に合ったね!」
「―――っ父さん!!!」
「…………カズマ!」
「ねぇ、帰ってきてよ! てか、母さんの仇撃ちなんてもうオレは望んでない! てか、父さんまでいなくなるのがイヤなんだ!」
泣きじゃくる少年を抱きしめて、ああしか言わないお父さんは自分のことをわかっているようです。そろそろ夢の時間を終わらせてあげないといけませんね。
「えっと、もう大丈夫?」
「⋯⋯ダメと言ってもムダなんだろ? 可愛い死神さん」
ドスッ
私は頷き、少年の首に手刀を放ち意識を刈り取ります。
「やっぱりわかっちゃうか〜。自分の最期は自分が一番わかってるってヤツかな。私がしてあげれるのは、大切な人との最後の時間を作ってあげることだけだからね」
本来は死神業務外なんだけど、ついでだしね。私は〝るんるん〟を強めながら父である男の首を手刀で落とそうとして⋯⋯、私の意識が落ちました。
これも私の記憶です。前世は〝核醒者〟と呼ばれる世界干渉型能力者の少女、その転生者で世界の意思により〝魂救済〟を主神さまから任された〝死神〟でした。その他の記憶も昔は夢として見ていましたけど、二度目の転生によってかわかりませんが今ではこの二つの出来事を夢で見て思い出すことしか私にはできません。そんな私は今……。
──────
「夢は久しぶりだな。あ、ごめん。起こしちゃったか。おはよ、コロン。ねぇ、早くに起きちゃったし早めに教会に行こっか」
『くぅーん』
「あはは、眠いっか。ごめんね、コロン。ちょっと着替えたりするからあっちいっててもらっていいかな?」
私は布団で一緒に寝ていた黒い小型犬の使い魔〝コロン〟に別室に移動してもらって身支度を整えてます。共に外に出ると栗毛色の大きな馬が出迎えてくれました。
「あ、マロンもおはよー。キミは今日も早起きだね。いつもより早いのに私たちを待っててくれたの?」
『ぶるるぅっ!』
「そっかーっ。ありがとっ! ほら、コロンおいで。―――じゃ、いこっか。マロン、お願いね。目的地は……いつもの教会でっ!」
『ひひぃ~~~ん!』
パカラッ! パカラッ! パカラッ! パカラッ!
コロンを肩に乗せた私を、マロンは乗せて走ります。私たちが暮らしているのは深い森の中。この世界には動植物はいますが人族のような生命体は存在していません。なぜなら、先代聖女が私を聖女として封印した
「さ、今日も誰かを助けにいこーっ!」
マロンから降りて教会の扉を開くとそこには
「って、もう渦できてるじゃん! 待っててね。すぐ行くから」
つまり、渦が発生しているということは今すぐにでも私は駆けつけてあげられるのです。寛いでから出発するなど私にはできませんでした。
「あ、今回も教会の内部だからマロンはお留守番かな。ごめんね」
渦の発生場所は箱庭のどこか。もし発生していた場合、教会で[皆が幸せでありますように]と祈りを捧げると発生位置の信託を授かることができるのです。今回はたまたま教会内部に渦が出来ていたため渦に飛び込むだけでよく、私とコロンはさっそく渦へと駆け出します。
「マロン、ちょっと待っててね。なるべく早く帰ってくるから! それじゃ、いってきます!」
箱庭は不思議な結界で守られており、脱出も破壊もできません。なので体が大きくて教会にはいれないマロンは無理矢理入ってくるという選択ができないのです。渦に吸い込まれながらも自身から自然と発せられる
「さ、早く助けを求めている人を探さないと! お願い、コロンッ!」
『わんっ!』
一吠えすると空に向かって悲しみの匂いを探して、すぐさまにコロンは駆け出し、私も後を追います。
「さっすが! 私の相棒たちは凄いね!」
コロンが目的地に近づくに連れて確かに聖女への救いの願いが強く感じられました。間に合え……。その一心で私は全力で走り続けました。
これは、『私』こと〝ポリン〟が救いを求める人と接していくお話です。
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