そんなに綺麗になってどーすんの?
久里
そんなに綺麗になってどーすんの?
「もおおおおっ! ゼッッッタイに見返してやるんだから!!」
勢いよくジョッキをテーブルに戻した反動で、ビールの泡が跳ね上がる。
さざめく金の液体は、まるで今の私の荒ぶる心のようだ。
「……へー。ま、頑張れば?」
「これ以上にない棒読みをどうもありがとう!
「実際、興味ないし。
目の前のスーツの眼鏡男、
続けて、遠慮なくビジネスバッグからスマフォを取り出し、弄びはじめやがった。このクソオタクのことだ、どーせまたゲームにでも興じているんだろう。っていうか、いくら大学時代から含めてもう六年目の付き合いになるからって、この失礼極まりない態度は流石に話し相手失格じゃない!? 私は、あ・な・たと飲みにきてるんですけど!
「っていうか、まだ、別れてないよっ!! 元じゃないしっ!」
「は? もしかして、まだあのクソ男と付き合い続けんの? 既に二股されてるって判明してるのに尚?」
「うるさいうるさい! まだ確実に浮気されてるって決まったわけじゃないもん! そうだよ、あの娘が
息切れ寸前でまくしたてると、銀縁眼鏡の下の切れ長の瞳がスッと冷たくなった。
「仮に女の方からアプローチしたんだとしても、奴自身が、クリスマスイブに翼よりも彼女を優先したのは事実だろ。しかも、翼には急な仕事が入ったから無理になったとかほざいてたらしいけど、仕事中に急ぎの用件振られてるそぶりはなかったし、当日は浮かれたように直帰していったよ」
歯に衣着せぬ鋭い正論に、心の柔らかい部分を抉られる。
喉が、焼けるように熱い。
瞳の淵に涙がたまって、目の前の咲夜の顔が歪んだ。
「でもっ! でもでもそれでもっ、私は、拓真さんじゃないとダメなんだよっ。だからっ、努力して、絶対にもう一度振り向かせてみせるもん」
「あー……そーいや、大学時代も似たような台詞を聞いたな。その時はたしか
「うるさい! その名前は禁句って言ったでしょ!」
「お前は、ほんとに懲りないな……」
憎たらしいことに、咲夜は私の黒歴史を知り尽くしている。なにせ大学三年時のゼミで出会って、偶然、同じ会社に同期として入社するという腐れ縁ぶりだ。示し合わせたわけでもないのに、内定式で会ってしまったときには絶句した。
咲夜とは、飲み友だ。
会社帰りに、よく一緒に飲む仲。
私が恋バナをしはじめると、咲夜はいつも『恋愛なんてくだらないものに振り回されて大変そうですね(笑)』って澄ました顔でゲームをしはじめる。流石は、彼女を作る気すらなさそうな筋金入りのオタクだ。顔はそこそこ良いのにさ。死んでも本人には言わないけど。
「つーか、そろそろ帰りたいんだけど。明日も会社だし」
「ええっ、まだ来たばっかでしょ? 全然、話聞いてくれてないじゃん!」
「ゆーて、もう二時間は付き合ってますから。てか、翼、顔真っ赤じゃん。そんなんで家までちゃんと帰れんの?」
「っ! 馬鹿にしないでよ! 子供じゃないんだからっ」
「駄々こねてるし、完全に子供じゃん」
「咲夜の馬鹿馬鹿! クソゲームオタク!」
「なんでしょうか、ダメンズウォーカーの翼ちゃん。……つーか、そんなフラフラじゃ絶対一人で帰れねーだろ」
彼は「バカだなぁ」とぼやきながら、小さな子供をあやすみたいに私の頭をぽんぽんと撫でる。くうぅぅ、馬鹿にされてる! あれ、でもたしかに、ちょっとフラつくかも……。
咲夜が勝手にレジの方へ向かい始めたので、慌ててそのスーツの裾を掴んだ。
「待ってよ! お金、私もはらうっ!」
「無防備に万札を出すんじゃない。ったく、掏られたらどーすんだよ。金は、前回、翼が奢ってくれた分のお返しってことでチャラでいいから」
私、コイツに奢ったことあったっけ? 体内を巡るアルコールの所為でうまく思考できない。理性が、ふわふわとした目が回るような気分に、押し流されていく。
「早く、別れれば良いのに」
「なんか言った!?」
「さあ。ってか、腕つかまれよ。真っ直ぐ歩けてないし」
結局、咲夜の腕を借りて、よろけながら帰り道を歩くことになる。十二月の厳しい寒さに、コート越しの体温が温かい。
「翼ってさ、社内ではホント猫被ってるよな。会社の飲みになると、カシスオレンジしか頼まないかわいい女子キャラらしーじゃん。ウケる」
「うっさい、ほっといてよ! ってかそれ誰から聞いたの!? 咲夜はそもそも会社の飲みには参加しないじゃん!」
「行きたくもない飲み会に付き合う必要はねーからな。つまんねー話聞かされて、愛想笑いのしすぎで顔の筋肉疲れた上に、金まで払うなんて不毛の極みだし」
「誰もが咲夜みたいに我を貫きとおせるわけじゃないの! それに、会社の飲み会のおかげで拓真さんと付き合えたわけだし、全部が全部悪かったとは…………」
「ってことは、その飲み会に行かなければ、二股される未来もなかったんじゃねーの?」
「っっ! はったおすわよ!」
「しーっ。夜道なんだからもっと静かに」
その日も、なんだかんだで彼に家の前まで送ってもらってしまった。悔しい。
「じゃ。また明日な」
「んーー……。明日、起きれるかなぁ」
「……は? もしかして、モーニングコールを依頼されてる?」
「はあ!? 頼んでないし!!」
「しないよ。彼女にしかな」
一瞬。
ほんの一瞬だけ、月明かりに照らされたその不敵な笑みに、不覚にもときめいてしまった。違う。これは、きっとアルコールのせいで脳がバグってるだけだ。
咲夜はマンションのエントランスにすら足を踏み入れようとせず、いつも足早に帰ってしまう。世間には送り狼なんて言葉があるけれど、それは、黒川咲夜という人間からは最も遠い言葉だろう。
*
翌朝。けたたましく鳴り響く目覚ましの音に叩き起こされた私は、鏡を見て愕然とした。
まず、ぶつぶつとした醜い出来物がたくさん浮かんでいる汚い肌に衝撃を受けた。昨日泣き腫らしたせいなのか、ただでさえ吊り目気味で大きいとはいえない瞳が余計に小さくなっている。
髪にも唇にも艶がなく、はっきり言って、死ぬほどの不細工。
そういえば、最近は、自分の身なりを全く気にかけられていなかった。
義務感から適当に施した化粧を、そのまま落とさずに寝てしまうことなんてザラだ。食事もコンビニ弁当が中心で、間食にスナック菓子をむさぼりがち。猫背気味で姿勢も悪く、この世の全てが忌まわしいというような顔つきになってしまっている。
拓真さんとのことで情緒不安定になっている内に、こんな悲惨なことになっていたなんて……。咲夜も、大学時代からの友人とはいえ、よくこんな妖怪みたいな女とのサシ飲みに付き合ってくれたものだ。アイツ、実は、結構良い奴なのかも? 違う違う、あんなオタクのことはどうでも良くて、今は拓真さんとのことを考えなきゃ。
このままじゃ、彼にハッキリと振られてしまうのも時間の問題だ。
「……努力、しよう」
頑張って、キレイになって、ぐらつきかけている拓真さんの心を絶対に取り戻してみせるぞ!
胸に堅く決意したその日から、私は、必死に努力した。
まずは、化粧水、乳液、クリーム等自分の肌質に合いそうな商品を調べてから、実際にデパートまで赴き試用してから選んだ。それから、今まで怠りがちだった洗顔も入念に行った。『ハイハイ。とりあえず、洗えてれば良いんでしょ?』とがさつに済ませるのではなく、ちゃんと泡立てネットを使い、きめ細かな泡をたててからやさしく包み込むように。
それから、自炊をするようになった。今までの肉至上主義を泣く泣く方向転換し、最近は意識的に野菜を多く採るようにしている。流石に会社帰りに凝った料理を作るまでには至っていないけれど、スーパーで買ってきた野菜を炒めたり、茹でたりしたものを中心に食べるようにシフト。今まで自堕落を極めていた私にとっては大きな進歩だ。
生活改善を試みてから、あっという間に、一ヵ月が経った。
以前の怪物みたいな容貌からは脱却し、少しずつ、女らしさを取り戻してきた気がする。
この間に、拓真さんからの音沙汰は一度もなかった。
ちなみに、彼が半年前に部署を異動してからフロアが変わったので、社内で顔を合わせることはまずない。そもそも社内の人には内緒で付き合っているので、恋人面もできない。まぁ厳密にいえば咲夜には話してしまったけど、アイツは口が堅いからほんとに誰にも言ってないみたいだ。
「あー、違うか。単に話す友達がいないんだ」
「相変わらず失礼過ぎんだろ、はったおすぞ」
「べっつにい? 誰も咲夜のことだとは言ってませんけど」
気がつけば年が明けてしまい、少し遅めの新年会。
私は相変わらず、行きつけの飲み屋でコイツと飲み交わしている。本当は今頃、この相手は拓真さんだったはずなんだけどなぁ。
「で。翼は、まだ、あの男と付き合ってるわけ?」
「まぁね……まだ、振られてはないし」
「ふーん。ちなみに、あれから二人で会ったわけ? この前に俺と飲んだときから」
「…………会っては、ないけど」
「連絡は取ってんの?」
「っ。会ってないし、取ってもないよ!」
「それって、付き合ってるってゆーの? 俺にはよく分かんねーけど」
「うるさいっ!」
咄嗟に耳を塞ごうとした私の手を、彼の手が、ゆるさないというように力強くさらっていった。銀縁眼鏡の下の切れ長の瞳には、瞳に涙をためている私の顔がありありと映っている。
「なあ、翼。アイツさ、この前も、女と外食に行ってたよ」
「えっ」
「会社帰りに落ち合ってるのを偶然見かけた。本人たちはバレてないつもりだったみたいだけど」
喉を締め付けられているみたいに、息苦しい。
顔が熱いのは、アルコールのせいじゃない。悔しさと惨めさのせいだ。
なんなの、それ。これまでの私の努力は、全部、無駄だったってこと?
あの娘の清楚な微笑が脳裏に浮かんできて、意地悪に歪んでいく。
「翼はこのままでいいわけ? だって、はっきりと振られたわけでもないんだろ? それって、翼はただの都合の良い――」
「咲夜はお節介すぎなのよ!!」
自分の口から飛び出た火花のように激しい言葉に、彼の瞳が悲しそうに曇った。思った以上に声が響いてしまい、周囲の人々は何事かと目を丸くしている。
これ以上はまずいって、理性ではわかってる。
でも、だけど……どうやっても止まれない。
胸の内が、ドロリとした暗い気持ちで塗りつぶされる。
「……咲夜には、分かりっこないよ」
「はあ?」
「恋愛よりもゲームが大事な咲夜には……私の気持ちなんて、一生わからない!」
彼は私を睨みつけると、いつになく低い声で唸るように言った。
「……ああ、分かりっこないよ。今の翼は、アイツに囚われすぎだ。見ていて吐き気がする、痛々しい」
大した声量ではないのに、焔の揺らめいているような強い言葉が、胸に深く突き刺さってくるようで。どうしようもなく、痛かった。
彼は叩きつけるようにテーブルにお代を置くと、乱暴に立ち上がって店を出て行った。
でも、どうして?
なんで咲夜の方が、私よりも、ずっと傷ついているような顔をしていたの。
*
咲夜から叱咤されて一切の連絡を絶たれたあの日から、私は死んだ魚のように干乾びていた。辛うじて生きているというような鬱々としたテンションで、会社と自宅との行き来だけを繰り返すつまらない一月を過ごした。
二月に入ったある日のこと、そんな私に更なる追い打ちをかけるような出来事が起きた。
「拓真ぁ。今日もお仕事、おつかれさまっ!」
「
「ねーねー、今日はどこへ連れて行ってくれるの?」
「夜景を一望できる高級レストランを予約しておきましたよ、お嬢さん」
ある会社帰りのこと。
書店に寄ってから駅に向かおうとしたその時、知らない女子と拓真さんが仲良さげに腕を絡めあいながら裏道に消えていく姿を目撃した。
二月の厳かな寒風が、立ち尽くした私のロングコートをはためかせる。
私、ホントに馬鹿だなぁ。
咲夜があれだけ忠告してくれていたのに、この目で実際に確かめるまで、まだ、拓真さんの心を取り戻せるんじゃないかって頭のどこかで信じていた。
私はまだ捨てられてないって思いたくて、必死だったんだ。
でもさ。
拓真さんは――アイツは、とっくに私のことなんて忘れて、他の女の子と楽しそうに過ごしてんじゃん。
しかも衝撃的なことに、あの娘は……私が思っていたのとも、咲夜が話していたのとも、また別の女子だった。
つまり、こういうことだ。
彼が私をきちんと振ってくれなかったのは、心が離れたからじゃない。
そもそも、拓真さんには、私と付き合っているという認識すらなかった。
彼の正体は、多くの女子を毒牙にかけてそのことすら忘れている、最低最悪のクソ男だったのだ。
渇いた笑いが、漏れてきた。
「ははっ」
馬鹿らしい、なんてアホらしい。
なんで私は、あんな男なんかのために綺麗になりたいって必死だったんだろう。
よく考えたら、誠実に女と向き合うことのできないあんなクソ男の為に綺麗になるだなんて、とんでもない。
アイツは、見返す価値すらない男じゃないか。
彼のために泣き腫らして、情緒不安定になって、みっともない女に落ちぶれていくのは、もう終わりにしたい。
そうだ。
私は――私のために、綺麗になろう。
もっと自分のことを好きになって、自信を持つために。
毎日を笑って楽しく、胸を張って生きるために。
それから……もう遅いかもしれないけど、格好悪い私を本気で叱ってくれた大切な友人に謝りにいきたい。
*
生まれ変わるのだと再び決意してからの日々は、慣れるまでキツかったけど楽しくもあった。
以前に生活改善に挑んだ時よりもずっとやる気が漲っていたので、自炊に加えて、適度な運動をするようにもなった。最近は会社帰りに二駅分歩くようにしているし、今では少し前までキツくなっていたジーンズにも余裕で足を通せる。
それから、化粧品に対する意識も再びあらたまった。
前よりも、お金を惜しまずに、注ぎこめるようになったのだ。
捨てられないように、幻滅されないように、という後ろ向きな気持ちではなく。これは他の誰のためでもない未来の私自身への投資なのだという前向きな気持ちになった途端、選ぶことにワクワクできた。
熱心な努力の甲斐があって、私の外見は悲惨だったあの時から、徐々にマシになってきている。特に肌の調子は抜群だ。
どん底の冬を超え、繁忙期の三月もあっという間に過ぎていき、花咲く春がやってきた。この間にも、何度か拓真さんと女(※毎回違う女)のツーショットを見かけることはあった。それでも、自分のために努力をすると決めた日からは奴の姿など目に入らなくなり、もう前みたいに心がうずくこともなかった。
そして、桜が舞い散る中。
会社帰りに、私は、半年ぶりに拓真さんの方から声を掛けられた。
「翼! 待ってっ」
付き合っていた時と変わらぬ柔和な笑顔を目の当たりにした時、虫けらでも見るかのような目つきになってしまった。
「なんですか?」
「久しぶりだね。翼、見違えたよ。綺麗になった」
図々しくも腕を取られた時、ゾワゾワと全身の肌が粟だった。
違う。違う違う違う! 私は、アナタのために今日まで頑張ってきたんじゃない!
だけど、これは……考えようによっては、ある意味、絶好の良いチャンスかも?
私は、紅いルージュを引いた唇の口角をつりあげた。
「どうも、ありがとう。でも、別にアンタみたいなクソ男の為じゃないんで、そこのところ勘違いしないでもらえますか?」
笑顔で言い切って、馴れ馴れしく触ってきた彼の腕を思いきり振り払ってやった。まさか私なんかに言い返されるとは思いもしなかったのだろう、呆気にとられたような顔が最高に滑稽だった。
さようなら、拓真さん。
さようなら、捨てられていることを怯えてた、みっともない私。
ハイヒールを踏み鳴らして拓真さんの前から立ち去った瞬間、心はいつになく澄み切っていた。
「痛快だったよ、翼」
「っ!?」
突然、後ろから肩を叩かれてぎょっとした。
咲夜だ。彼も、ちょうどいまが仕事帰りだったらしい。
「み、見てたの?」
「ああ。一部始終な」
「そ、そっか……」
春の夜風が、私と彼の黒い髪を流してゆく。
咲夜とこうして話すのは、あの気まずい空気になってしまった新年会ぶりだ。ずっと謝ろうと思っていたけど、中々勇気が出なくて宙ぶらりんになってしまっていた。
だけど、こうしてまた、普通に話しかけてもらえてすごく安心している。
今なら、素直に謝れそうだ。
「ねえ、咲夜。その……新年会の時は、ひどいこと言ってごめんね」
「あー……なんつーか、あの時は俺もごめん。言い方キツかったよな。ムキになってた」
生温い沈黙が流れた後。
彼は、頭一つ分高い位置から、私の顔をのぞきこんできた。
「……にしても翼、ほんとに綺麗になったな。なんか、ムカつく」
憎まれ口には、即座に、憎まれ口で返す。
それがいつもの私たちなのに、彼の頬がうっすらと朱く染まっているのを発見した瞬間、不覚にもギュンと胸を締め付けられてしまった。
えっ……なんか、咲夜の様子がおかしいんだけど! いつも何を考えているのかよく分からないローテンション野郎なのに、急にどうしちゃったの?
「さ、咲夜? どしたの? 熱でもあるの?」
「お前さ、そんなに綺麗になってどーすんの。また、どーしようもねえダメンズひっかけてくるわけ?」
「う、ううううるさいっ!」
動揺することばかり言うから、どうにも罵倒の調子が出なくて。咲夜は、どんどん高鳴っていく私の胸をさらに追い詰めるように、長細い指で私の髪を撫でた。
「お前が見違えてからやっと良さに気がつく男なんて、どーせまたろくでもねーだろ。いい加減クソ男ばっか引っかけてないで、俺にしとけよ。バーカ」
っっ。
無気力クソゲームオタクのくせに、咲夜のくせに。今まで付き合ってきた誰よりも、格好よく見えてしまうなんて、そんな馬鹿な……!
「っていうか、私のことそんな風に思ってたの!? ええええええいつから!?」
「……前々から俺は行きたくない飲み会にはいかない主義だって散々言ってんだろ、バカ翼」
「はあ!? バカって言った方がバカだし!」
「ハッ。小学生かよ」
「だ、だいたいっ、それが好きな子に対する態度なわけ!?」
「そーだよ。口先ばっかり甘いこと言うろくでもねー奴よりマシだろ」
「むううっ」
「膨れんなって」
眼鏡越しの切れ長の瞳が、優しく細められた。
「正直、俺はお前の言う通りのクソオタクで、恋愛のことに関しては疎い方だけど。純粋に翼と過ごす時間が好きだし、お前には笑っていてほしい。翼を他の誰かに取られないために、この関係に特別な名前が必要だっていうんなら、それが欲しいんだ」
……咲夜は、ズルい。そんなことを言われてしまったら、頷くしかないじゃない。きっと私は、今日というこの日を一生忘れないだろう。
「返事は?」
「……これからさ、飲みにいかない?」
「はあ?」
「……私、めっちゃくちゃ酔う自信あるから。でも明日も仕事だし、咲夜がモーニングコールで起こしてよね」
「ふはっ……ほんっと、素直じゃなくて、かわいいやつだな。翼は」
顔が熱くて仕方ない。
今日の夜空には、どこも欠けることのない真ん丸の月が輝いていた。
【完】
そんなに綺麗になってどーすんの? 久里 @mikanmomo1123
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