第7話 マシュマロを食べたのは誰!? 正直者の薬
ここは優の家。
いつも優の家にいる気がするな……。
「あれ?」
俺は、リビングのテーブルに置かれている空っぽの皿を見て固まった。
なんで俺のマシュマロがなくなってるんだ。
必要な物を取りに、ほんの少し家に帰っていただけなのに。
「響どうした?」
週末課題をしていた優は手を止めて、俺にきょとんとした顔を向けた。
「あ、いや。そこまで気にすることじゃないんだけど、マシュマロないから、なんでかなって。ちょっとビックリしただけ」
「本当だ。誰か食べたのかな」
誰か? 優と夏絵手先輩しかいないけど。
「まさか僕を疑ってる……?」
だってこの部屋にいるのは優だけだろ。
先輩の居場所はわからないけど。
「いやいや、勝手に食べるわけないじゃん。それに僕は勉強してたら眠くなるから、さっきまで寝てた」
課題中に寝るなよ!
「わざとじゃないしー」
それは知ってるよ。振り子みたいに揺れる様子が、簡単に想像できる。
とりあえず俺が言いたいのは、できるだけ寝ないように頑張れってこと。寝たらその分の時間がなくなるだろ。
せっかく課題する時間があるのに、居眠りに使ったらもったいないよ。
「はーい。もう一度言うけど、僕は食べてないからね」
うーん……。
優が食べるわけがないとわかっていても、この状況では疑ってしまう。
今、部屋には優しかいない。
俺が出たときも、優だけだった。
いやでも、めちゃくちゃ優しくていい奴な優が人のものを勝手に食べるわけがない。
「あ、後輩もどってきたんですね」
ふわふわした声が聞こえて振り返ると、夏絵手先輩がリビングに入ってくるところだった。
なぜか表情がかたい。声が柔らかい分、余計に気になる。
「先輩、ちょっと聞きたいんですけど」
「なんでしょう」
「俺のマシュマロ、少し離れた間になくなってて。何か知りませんか?」
「し、知りませんねぇ〜……」
汗ダラダラですけど。
「暑いんですよねぇ、最近」
へー。冬なのに暑いんですね。
冷房に切り替えましょうか。もし嘘だったら超寒いけど大丈夫ですか?
「あ、それなら僕が」
声の方を見ると、優がエアコンのリモコンを手にするところだった。
「えっと、冷房ってどうすんだっけ?」
状況わかってる? それやったら、夏絵手先輩だけじゃなくて、お前も俺も凍えるんだよ。
「後輩、自分で自分を苦しめるようなことはしないほうがいいですよ! 優くんも、寝起きで頭が働いていないのでは!?」
夏絵手先輩、大慌てですね。
「ギクッ。い、いえ、雫が慌てているのは、後輩の思っているような理由ではなく……! マシュマロだって食べてないので」
まさか、マシュマロ食べたの?
「たっ、食べてないですよ。それより、なんで敬語使ってくれないんです?」
すいません。たまに忘れるんです、先輩ってこと。
先輩と優に本当のことを話してもらうには、どうしたらいいのかな。
ウソ発見器……なんてない。
ていうかウソ発見器をつけたからって嘘じゃないことがわかるだけで、ごまかしようはいくらでもあるよな?
黙られたら駄目だし。
うーん……あ、そうだ。
「嘘をつけなくなる薬とかあります?」
「そそそ、そんなものあるわけないです!」
この反応、もしかしてあるんじゃ……?
「白衣見ていいですか? 薬はいつもそこにあるでしょ」
そういえば、どんなふうに入ってるのかな。
先輩は薬を見た目で判別しているのか、それともネームプレートのようなものが貼ってあるのか。
もしかして、容器の形とか?
間違った薬を取り出したことがないから、何か仕掛けはあるんだろうけど……もし記憶しているんだったら驚く。
「ちょっと待ってくださいよ!? 雫だって乙女なんです! 白衣の中に、見られたくないものの1つや2つ……」
「たとえばー?」
「カッコイイ朱雀さまの写真とか――って、わー!! 優くんの質問だからって、反射的に答えて……! 今のは忘れてください!」
「え? あー……うん」
一人で騒がしいな。
優が何か言いたげな顔をしてるけど、どうしたんだろうか。
「夏絵手が写真を捨ててくれたら、明日の朝には忘れると思う」
そっか。「捨てて」って言うのをためらってたんだな。
「嫌です。絶対捨てません。家宝にします」
「でも、夏絵手が僕の写真を持ってると考えたら――って、家宝!? 響、早く薬見つけて!」
はいはい。
先輩が優の写真を持ってると考えたら、なんなのかな。
恥ずかしいのかもしれない。
あ、そういや俺も優の写真持ってるな。
でもアルバムの写真だから問題ない。
「後輩ストップです! ちゃんと出しますから、そうやって雫との距離を詰めるのはやめてください!」
「じゃあ、早くしてください」
「わかりました……。もう、やな後輩」
先輩はほおを膨らませながら、白衣の内側から小瓶を取り出した。
「はい」
「どうも――じゃなくて、先輩が飲むんだよ! 俺に渡してどうすんだ!」
いつもあんたがやってるみたいに、口にぶちこんでもいいんだぞ! 嫌なら飲め!
「わ、わかりましたよ。飲みます。でも怒らないでくださいね」
はいはい。
マシュマロを食べた犯人が知りたいだけなんで、怒るつもりはありません。
「うーん……苦くはない。ちなみにこれは、あっという間に効く薬です」
それじゃあ早速聞いてみるか。
「先輩はマシュマロが無くなった原因を知っていますか」
「雫が食べたからです」
やっぱり!
「お腹が空いていて、リビングに来たらマシュマロがあって……あまりにもおいしそうだったもので、つい」
「そうだったの!?」
「優くんは寝てたので見てないですよね。可愛らしい寝顔でしたよ」
……別の心配が生まれてきた。
優、盗撮されてたりしないかな。
夏絵手先輩は頭がおかしいとこあるから。
「後輩、すみませんでした」
いや……なくなったものはしょうがないし、もういいですよ。
「今度マシュマロあげます。謝罪です」
「そうですか。ありがとうございます」
良い人なんだけどなぁ。
頭のネジが1つ足りてない。
やっぱり変な薬を作る奴に、マトモな人はいないよな。
先輩、俺に試薬品を飲ませるのはやめてください! ねこしぐれ @nekoshigure0718
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。先輩、俺に試薬品を飲ませるのはやめてください!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます