第8話


ジョンは居心地悪そうに、食前の祈りをささげる。

あれから三日、ジョンは奇妙な日々を謳歌していた。

武器こそは取り上げられたようだが、スミスはジョンを部屋に閉じ込めることは無く、家の中を自由に過ごさせている。

だが、スミス自身は多忙なのか、早朝に何処かへと出かけ、夜分に帰ってくる・若しくは日を跨ぐこともあった。


しかし、この奇妙な生活には同居人が居た。

スミスの妹、名はクロエというらしい。

今、丁度、ジョンと共に食卓を囲っている女性だ。

女性にしては背が高く、褐色の肌を持ち、黒い長髪をポニーテールで縛っている。

それはジョンの故郷でも古いヘアスタイルだったが、逆にその素朴な感じが兄と同様に切れ長の目で端正な顔つきを引き立てていた。


だが、立ち振る舞いは大きく違っていた。


今も、同じ卓にて食事をとっているが、クロエはジョンとは対角線上に座っていて、何度もジョンのことを横目でチラリチラリと伺っている。しかし、いざ目が合うとビクリと身体を竦ませる。

そして、今日の今日までまともな意思疎通を取ったことがない。

ジョンは手当の礼を言おうと話しかけたが、クロエは蛇と出会った猫のように飛ぶように逃げてしまった。

恐らく、スミスはなんらかの目的があってジョンを助けたのだが、クロエは敵である彼を得体の知れないものと恐怖しているのだろうと考えた。

ジョンは勝手にそう妄想し、勝手にクロエに罪悪感を感じていた。


それにしてもここの食事は美味しい。

山の中に住んでいるからか、肉は少ないが、上手く香辛料を使って飽きの来ない奥深い味にしている。

固く、しょっぱいだけの公国レーションとは大違いだった。


クロエは食事を終えると、皿洗いを始めた。

ジョンは手伝いを申し出るか迷ったが、今だ身体を満足に動かせない自分がいたところで邪魔だろうとやめておいた。

せめて、一言礼を……しかし、この前話かけた時のあの反応のことを思い出し、心がズキズキと痛み、それもやめておいた。

ジョンはまだまだ若い青年だった。


「……あ、ハーブがなくなっちゃった」


ふと、クロエが小さく独り言をつぶやき、簡単な身支度をして、勝手口から外へとでた。


外に何かを取りに行ったようだ。

それにしても、静かだと一人残されたジョンは思う。

静かで、平和だった。


ごとっ、と部屋の隅で何かが堕ちる音がした。

音の方を見やると、写真が額縁ごと壁から落ちたようだった。

ジョンがそれを拾いあげる、そこには幼い頃のクロエとスミスとその両親が写されていた。

父親らしき男は優し気な笑みを浮かべて、ライフルを片手に携えていた。

この銃は狩猟者のものだ、ジョンには分かった。

写真を拾い上げ、もとの場所へ戻そうとするときにジョンは気づいた。

壁にかけられている写真、何かが変だ。

違和感を感じたひとつの写真に手を伸ばすと、それがスライドし、中から黒光りする拳銃が現れた。


「…….44マグナム」


シカなどの中型獣をハンドガン・ハンティングしたり、ライフル・ハンターのサイドアーム等の目的で使われる大口径の拳銃。

もちろん、人に撃っても、十二分すぎる能力を発揮する。


ジョンはあたりを見渡し、クロエもスミスが居ないことを確認すると、恐る恐る手に取った。


公国はこの山脈に住む者達は、誰もが皆無許可で定住しており、公国の立ち退き要請に反発し、武器で部外者を恐喝する無法集団と定めているが、そうとは思えない平和な空間が広がっていた。

だとすれば、その平和を脅かす自分のような軍人を救ったのに何の理由があるのだろうか。


いや、ある筈がない。

自分に救いが来るはずがないのだ。

ようやく、ジョンは気が付いた。

自分の敵は、自分が決めなければならないと。


突然、勝手口のドアノブが小さな音を立てて回る。

ジョンは銃を構えた。




これにて、当作品の投稿を止めます。

中時間のご愛読ありがとうございました。




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志願兵――Fires of Survive @flanked1911

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