運命の二人《UFO編》(短編)
藻ノかたり
運命の二人《UFO編》
やっぱり思った通りだった。ボクたちは運命の二人だったんだ。陰でボクたちの事をあれこれ言う連中もいたけれど、奴らは間違っていたと証明された。
隣では愛しい彼女が、可愛い顔をして眠っている。理想の新天地へと向かうUFOの一室で、ボクは心地よい満足感に浸っていた。
あれは数週間前、二人で深夜デートをしている時だった。まばゆい光が夜空に突然現れて、そこから見るからに宇宙人と思しき者たちがボクらの前に姿を見せる。
「素晴らしい! あなた方のようなカップルに出会えるなんて! 我々はとても運が良い。あなた方は運命の二人だ」
彼らの第一声に戸惑うボクたちであったが、話を聞いてみると次の様な事だった。
地球は戦争、経済の破綻、差別主義の台頭など様々な厄災に見舞われている。早晩、危機的な状況を迎える公算が強い。そこで善なる宇宙人の彼らは地球から優れたカップルを救出し、理想郷の星へと脱出させてくれるというのだ。
そしてこれは地球だけの話ではなく、同様の他の星々についても実行されて来た事らしい。
では何故、ボクたちが選ばれたのか?
それは彼らの探査措置を用い、理想的なカップルを探し出した結果なのだという。正に運命の二人というわけだ。
ボクたちは躊躇したものの、内心”我が意を得たり”と歓喜した。だが、もちろん理想郷へ行くのには二人の同意が必要である。いくら彼らの好意であっても、無理やり連れていくわけにはいかない。
ボクたちは、一週間の猶予を貰い考え抜いた。
仕事や家族との関係は上手くいっているとは言い難かったし、よくよく考えてみれば地球そのものにも余り未練はない。何より愛する者と理想の星へと行けるのだ。ボクたちは、彼らの申し出を受ける決心をした。
周りに悟られぬよう身辺の整理をし、それとなく家族、友人たちに別れを告げる。ボクたちに迷いはなかった。
ボクたちは迎えのUFOに乗り込み、いま理想の星へと向かっている。新しい星へ着けばそれなりの苦難もあるだろうが、二人の愛があれば大丈夫さ。ボクは彼女の寝顔を見ながら固い決意をし、運命の女の傍らで眠りについた。
「あ~、今回も上手く行って良かったな。毎度の事だが本当に気が疲れるよ」
彼等しか立ち入れないラウンジで、一人目の宇宙人が言った。
「だがこれで、委員会からの報酬もバッチリだ。結構いい稼ぎをさせて貰ってるんだから、地球人には感謝しなくちゃいけないぞ」
二人目の宇宙人が応える。
「しかし法令には触れていないだろうな? いくら地球が未開の星だとは言っても、人権は守られる必要があるってのが委員会の建前だぜ」
三人目の宇宙人が疑念を示した。
「いや、大丈夫だ、そこに抜かりはない。何せ我々は、委員会の提示した規則を遵守しているじゃないか。そしてあくまで納得ずくで、彼らはOKしたんだからね」
一人目の宇宙人が、自らを諭すように喋る。
「だけど委員会も酷な事をするぜ。奴ら一応は、知的生命体だろ? それを”未開の知的生命体における心理実験”だっけ? その為に、まるでモルモットの様に扱おうってんだからよ」
二人目の宇宙人が言った。
「今まで何組ものカップルを連れて行ったけどさ、全部最後は殺し合ってるんだろ? 委員会は、いつまで実験を続けるつもりなんだろうな」
三人目の宇宙人がグラスを傾ける。
「ま、こちらとしては成功しない事を願うばかりだよ。それまでは、報酬を頂き放題なわけだからさ」
一人目の宇宙人が、黒い大きな目でニヤついた。
「そうだよな。もう実験体の探し方にも慣れたし、苦労しないで大金を頂けるのだから有り難い。こんなの地球だけの話らしいぜ。他の惑星担当の奴らは、苦労しているらしいから」
二人目の宇宙人の口元が緩む。
「全くだ。探査装置に”バカップル”と入力して見つけた連中に、”あなた方は運命の二人です”と言えば、イチコロで引っ掛ってくれるもんな」
三人の笑い声が、宇宙船に響いた。
運命の二人《UFO編》(短編) 藻ノかたり @monokatari
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