第2話 尼崎のダウンタウンの少年

眼と鼻の尖った少年がいた。

高校生のようだ。

苛立っていた。


自分も親友も、この尼崎の町も

どれもこれも金が無くて、貧乏で、ひもじくて、食べ物もない。


娯楽はテレビだけ、これも荒っぽい父親が野球観戦でずっと占拠している。


「選手の移籍ってのが、よう分らんわ、浜田」

そういうことを言っていたのかもしれない。

「じゃあ、阪神と巨人のな、選手がもし丸ごとゴッソリ入れ替わったら、お前はどっちを応援するねん」

 そんな話をしていたのかもしれない。


「まっつんよお、そんなこと言うたら、スポーツ観戦って全部楽しまれへんで」

「ああ、選手個人は頑張ってるわ。でも、それに乗っかって、球団が勝ったら自分も勝った気になっとるファンが気に入らんねん。『ファンのおかげです』って、『自分の才能のおかげ』って思ってるに決まってるやろ!」

 少年は、当時からそう言っていたのかもしれない。


「せやけど、まっつん…俺らもそろそろ『お笑い芸人』や、もう吉本の養成所に金振り込んでるからなあ」

「俺は松竹でも良かったけどなあ」

「入ったら、志村けん、おるんかな?」

「まあ、舞台に上がれるようになれば、会えるんちゃうか?」

「俺らも、お客さんに支えられて金稼ぐんやぞ? ファンは大事や」


 松本はこう言ったのかもしれない。

「俺とお前は、死ぬまでずっと一緒やろ。解散も移籍も絶対あるワケないわ。俺の才能とお前の努力で、稼ぎまくって、女抱き放題やぞ」


 二人は、吉本養成所の一期生。

 名前は当然「ダウンタウン」

 後に、お笑いに革命を起こし、天下を取り…

 そして、お笑い芸人がテレビを支配する理由となった二人であり

 日本のテレビ番組を、「売れてない芸能人をからかって、イジるもの」へと変えた二人でもある。


 だが、少年期。

 確かに、二人には、才能も希望も夢も全部あった。

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日本人とテレビは、何を笑ってきたのか スヒロン @yaheikun333

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