真相信霊

星雷はやと

真相信霊


 

「これが噂の『死者から電話が掛かってくる電話』だな……」

「いやいや、絶対それ嘘だよ! 帰ろうよ!」


 深夜の高校の旧校舎。僕は曲がり角から顔だけを出し、楽しそうな勇紀に訴える。


 僕らが深夜の旧校舎に何故居るかと言えば、勇紀の趣味が原因だ。彼はこの世の不思議な物への関心が高く、奇怪な噂を耳にすると確かめないと気が済まない。

 おかげで友達である僕は、こうして勇紀の趣味という名の奇行に付き合わされている。


「それを調べに来たのだろう?」

「何で、深夜なのさ……」


 意気揚々と廊下に置かれた黒電話に手を伸ばす勇紀。僕の外出には問題がないが、勇紀はちゃんと家族に外出する旨を伝えてきたのか疑問だ。彼の趣味にかける情熱は怖いぐらいである。


「深夜にしか、掛かってこないからだが?」

「えぇ……あれ? それ壊れてない? 電気が通っていないけど? 掛かってくるわけなくない?」


 彼が持ち上げた受話器のコードは途中で切れていた。勇紀は懐中電灯で黒電話本体の配線を照らすと、配線と電源コードは存在しなかった。つまり、電話が鳴る要素はないということだ。


「……なら、霊力とかでどうにかしているのだろう」

「霊力はそんな便利なものじゃないです!」


 僕の指摘に拗ねた口調で、非科学的なことを口にする勇紀。諦めず可能性を模索する姿は、大変素晴らしいが今ではない。思わず僕は大きな声を出した。


「じゃあ……この噂は噓ということか……」

「だから僕は、はじめからそう言っているよ」


 ため息交じりに受話器を置く彼は意気消沈している。この結果は噂を聞いた時から、僕には分かっていた。だから僕は散々止めたのだ。

 こういう類の噂は信憑性がない。第一に未成年である高校生が、深夜に旧校舎に忍び込むことが出来る方が可笑しいのだ。


「はぁぁ……今度こそ当たりだと思ったのに……」

「はいはい。いいから、早く帰ろう! ちゃんと寝ないと噂も見逃しちゃうかもよ?」


 その場に座り込みそうにある勇紀に、慌てて声をかけた。旧校舎は木造建築であり、床は傷んでいる。一箇所に体重がかかれば、床が抜ける心配があるからだ。


「それは駄目だ! よし! 帰るぞ!」

「うん」


 敢えて趣味のことを指摘すると、彼は元気良く姿勢を正した。本当はこんな趣味は止めて欲しいが、彼が楽しそうだから強く言えないのだ。


 彼が出口に向かって歩くと、床が軋んだ。廊下に一人分の足音が響いた。

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真相信霊 星雷はやと @hosirai-hayato

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