『あっ』

圭琴子

『あっ』

 僕は今日も、S@meyちゃんとXで話してた。DMを送り合う。


『夏のプチオフ、何処でする?』


『遊園地に行きたいな。海でも良い♪』


 S@meyちゃんとは好きなアニメ繋がりで知り合って、大きなオフ会で一回会っていた。

 でも今度は二人っきり。事実上のデートだ。

 僕は告白する気満々で、心の準備と計画を立てていた。


 そしてDMとは別に、誰かがしたリポストを何気なく話題にする。


『さっきまで普通に歩いてたお婆ちゃんが倒れて、病院に運ばれたら、死後三日は経ってたって。僕、ホラー嫌いなんだよな。見ちゃったよ』


 S@meyちゃんもホラーが苦手と言っていたから、可愛く恐がる返事が返ってくるかと思いきや、返ってきたのは意外な一言だった。


『あっ』


 ん? S@meyちゃん、どうしたんだろう。しばらく待ってみても、それ以上の返事は来なかった。


『S@meyちゃん、どうしたの? ごめん、怒った?』


 DMをしてみるが、一向に返事は返ってこない。

 しびれを切らして、まだ送った事はなかったけど、聞いてあったLINEの方に話しかけてみた。


『S@meyちゃん、何かあった?』


 ――五分。十分。既読がつかない。

 これはどう考えてもおかしいぞ!

 

 僕は焦って、110番して事情を話す。


「女の子の一人暮らしだから、何かあったのかもしれません。調べてください!」


 警察は、僕からS@meyちゃんのLINEのIDを聞くと、すぐに様子を見に行くと約束してくれた。


 その間も、僕はS@meyちゃんにLINEを送り続ける。結局、ひとつも既読にならないまま、三時間後に警察から折り返しがあった。


「残念だけど、竹内佐和美さんは、お亡くなりになっていました」


「えっ!?」


 僕は呆然としたけど、最後の『あっ』が気になって、思わず訊き返す。

 守ってあげられなかった悔しさに、涙をじわりと滲ませながら。


「事件ですか!? 事故ですか!?」


「それが……」


 警察官は、歯切れの悪い返事をした。何か、重大な事件なんだろうか。


「君、通報してくる直前まで、竹内さんとSNSをしていたと言っていたね?」


「はい」


「思い違いじゃないのかね? まあいずれ、任意での事情聴取があると思うけども」


「やっぱり、事件なんですね!」


 すると警察官は、困惑したような声音を出した。


「事件も何も、分かったもんじゃないよ。竹内さんは、死後二ヶ月は経ってるんだから」


 へ? 僕は涙も止まってしまった。


 ――ピコン。


 Xの通知音が響く。画面には、S@meyちゃんのポップでカラフルなアイコンが映し出されていた。


『プチオフ、やっぱり山にしない? 一回、富士の樹海に入ってみたかったんだよね。S@mey、恐いの苦手だから、一緒に行ってくれると嬉しいな♪……』


End.

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『あっ』 圭琴子 @nijiiro365

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