第19話 知らない
「ここまでにしてお昼にしよっか」
今日は紅羽と二人で勉強会。ひと段落ついたので休憩を挟む。
「私の物覚えが悪いばかりに緑香さんにもご迷惑をかけてしまいすみません」
紅羽はいつになく小さくなる。
「気にしないで。私の勉強にもなるから」
もう何回目になるか分からない返答を繰り返す。
紅羽を教えていて感じたこと、それは彼女は頭が悪いわけではない。理解力で言えば平均以上、いやかなり高いレベルだと思う。
だが、彼女が点数を取れないのは“考えすぎ”が原因だろう。
例えば読解問題。すぐに答えは出ているのに“もしかしたら違うかも”と別の選択肢を考えだす。全ての問題に時間をかけすぎるので当然時間内に終わらない。そして考えすぎてパニックになり間違った選択肢を選んでしまう。
基本的にどの教科も時間がない、自分の選択に自信がない故の不正解がほとんどだ。
「紅羽は何か食べたいのある? 食堂に行ってもいいし、何か買って別のとこで食べてもいいし」
片付けをしながら紅羽に聞く。
「……、私は何でも構いません。緑香さんが食べたいもので大丈夫です」
「そっかー。どうしようかな」
食堂は良いけどこの時間少し騒がしいんだよな。人が多いと紅羽は嫌だろうし。
「購買で軽く買って静かなとこ探そっか」
「良いですね。そうしましょう」
紅羽は嬉しそうに微笑んだ。
軽食を買った後、少し歩いて良さそうな場所を探す。
天気がよく、穏やかな風が心地いいので外で食べることにした。
……。
些細な会話をしたが徐々に少なくなり沈黙の時間が流れる。
最近は別々に行動していたせいか何気ない会話がぎこちなくなる。
「緑香さんはすごいですね……」
ふと紅羽がこぼした言葉。
他の人なら気にも止めなかったが彼女から出てくるその言葉が引っかかった。
少しの空気の変化を感じたからだろうか紅羽が慌てて言葉を重ねる。
「緑香さんは勉強もできるし、しっかりしているし人前でも堂々としていて……ほんとうに、本当にすごいです。……私はなにをやってもダメで……」
最初の勢いがなくなり最後は呟くような声だった。
「どうしたら、緑香さんみたいになれるでしょうか……」
消え入りそうな彼女の声はとても切実だった。
ただの自信のなさ、で片付けるには違和感を感じる。
「紅羽には紅羽のいいところがある」
口から出てきたのはそんなありふれた言葉。
きっと気休めにもならない。
でも、何かを言うにしても私たちはあまりにもお互いを知らなさすぎる。どんな過去を経験したのか、なんでこの学校に来たのか。
でも、それを話すのは今じゃない。今は試験に合格すること、目の前の課題に集中することが最優先。
それと……、
「紅羽、私たちは絶対合格できる」
紅羽の方を見て力強く言う。
彼女が今、自分より私を信じるなら、私が紅羽の光になればいい。
学校物語 あおい @aoiyumeka
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