第18話 決断

「僕は……。わかったよ。龍の言ってることは正しいと思う。……だけどここまでやって止めるのはなんか嫌だな。……無理だから諦めるみたいで」

日向が下を向く。

「……私は……かまいません」

紅羽が消えそうな声で呟いた。

 

「諦めるわけじゃない。俺たちがそれを選んだだけだ。自分達にとって何が一番大事なのか考えた結果がそれだっただけだ」

龍が慰めるように言う。

 

簡単に割り切れるほどの軽い気持ちでやってきた訳ではない。勉強が苦手な二人にとっては長時間ひたすら勉強することは大変だっただろう。一緒にいた私たちは尚更その気持ちがわかる。

「納得いくまでやってみたら?」

四季が言った。

「龍の言ってることも分かるけど、二人の気持ちもわかるよ。ここでどちらかが折れてもきっとモヤモヤするだろうし。お互い好きなようにするのが一番じゃない?」

「龍は自分の思うように次の試験の内容を調べて対策を考えればいいし、日向と紅羽ちゃんは僕と緑香ちゃんが交互に教えればいいよ」

「どう?」と四季がこっちを見て、こてんと首を傾げる。

「私は構わないけど……」

そう言って日向と紅羽を見る。

改めて見ても二人は頑張りたいという想いが見てとれた、が一方で明らかに疲れているようにも見えた。

「……私もみんなそれぞれが納得できるようにやることが一番だと思う。納得できないことをやっても空気が悪くだけだし。ただ……無理はしないようにね。正直今の二人は見ていて心配になる。どうしても頑張りたいなら、周りを心配させないように自己管理はしっかりやるように! ……龍もそれでいい?」

そう言って龍の方に目を向けると、何か少し考えているようだったが「わかった」と頷いた。

「無理はしないように。……信用してるから」

龍は最後にそう付け加えた。

 

「じゃあ早速行動しよっか。龍は次の試験の調査。私と四季は日向と紅羽を教える。どう進めるか四季と相談するから、二人はその間しっかり休んでて」

「外の空気吸ってくるのもいいんじゃない?」と四季が提案すると二人は頷き部屋から出ていった。

 

「調査って言っても龍はどうするか考えてるの?」

教師に直接聞くしか無さそうだが何か考えがあるのだろうか。

正直簡単に教えてくれるわけは無さそうだが。

「そうだな、まずは生徒からの情報収集だな。それをもとに教師への聞き方は考える。俺に任せておけ」

自信ありげに龍は言った。

「それじゃあそっちは任せるから、何かわかったら教えて。手伝えることがあれば手伝うから」

「ああ、何かあったら頼む。それまでは紅羽と日向の様子を見ててくれ」

そう言うと龍は早速情報を集めに行ってしまった。

 

 

 

「––––二人の勉強の進捗はこんな感じかな」

四季から日向と紅羽の様子を教えてもらう。

「二人とも結構できてるじゃん」

正直な感想が口から出てきた。あれほど苦手だと言っていたが現状はかなり良くなっている。本当に頑張ったのだろう。

「常識的に考えたら合格ラインは超えていると思う。表彰を考えなかったらもっとゆっくりやってもいいと思うんだけどね」

四季が言った。

「そもそも表彰って言っても、どのくらいとれたら表彰されるのかわからないから頑張りようがないよね……。基準がわからないんじゃ闇雲に頑張るしかないのかなぁ」

ため息と一緒に弱音を吐きそうになる。

「そこが教師の狙いなのかもしれないよね。僕たちを惑わすには本当にいい材料だよ」

四季が言った。

「教師の狙い、ね」

ポツリと呟いた声が頭の中で反芻した。

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