第17話 目指すもの

部屋に戻ると紅羽と龍、そして日向が勉強をしていた。

「……みんなお昼食べた?」

心配になって聞く。

私がいく前には「もう少しやってから食べるから先に食べてて」と言われた。

愛香たちと話している間に食べたのかもしれないが、なんとなく食べてないんだろうなと言う気がした。

「もう少し頑張りたいから。四季が食べれる物買ってきてくれるって」

日向が教科書を見ながら答える。

紅羽も必死な顔をして問題を解いている。

龍の方を見たが少し困っている顔をして肩をすくめた。

 


「簡単に食べられそうなもの買ってきたよー」

四季が袋を抱えて戻ってきた。空いてる机に中身を放り出す。

「こんなに買ってきたの?」

「何がいいかよく分からな方から。多かったら僕が食べるし」

そう言うと日向と紅羽に「何がいい?」と聞く。

「何でもいいよ。後で食べるから」

日向がそう言うと「私も」と紅羽も言った。

……最近二人はあまり話さなくなった。

元々口数が少ない紅羽はともかく、日向も話しかけないと答えてくれない。答えたとしても必要最低限しか喋らない。

表彰されたい、みんなの足を引っ張りたくないという二人の焦りがひしひしと伝わってくる。空気が悪いとまでは行かないが、何となく前より暗くなっている。


二人は頑張っている。周りから見ても良くわかるほどに。でも、このままでいいのかと言う漠然とした不安に襲われているのも事実だ。

二人のやる気に、みんなの目標に水を差したくないが……。どうしたらいいだろうか。


 

「そういえば緑香は自分の勉強は終わったのか?」

龍が聞いた。

「うん、一応は。必要なところは一通り終えたよ」

「それなら教える方にも回ってくれるとありがたいんだが」

「……それは問題ないんだけど……」

紅羽が「私に教えてください」と疲れた顔でこっちを見る。

「……」

私が言い淀んでいると紅羽が不思議そうな顔でこっちを見ている。

「……正直、私も完璧じゃないし……。と言うより正直このままでいいのかなって不安はある」

二人の頑張る気持ちはよくわかるが、だからこそ今聞いておきたいと思った。

「このまま、本当に表彰を目指していいのかな」

 

みんなの視線がこちらに集まる。

「みんながそれに向かって頑張っているのはわかってるんだけど、……何ていうか無理してるんじゃないかなって」

 

沈黙が流れる。

「……わ、私が勉強出来ないせいでご迷惑をおかけしてすみません。でも、頑張って足を引っ張らないようにするので……」

紅羽が謝る。

日向は何も言わずに目を逸らした。

「いや、そうゆうことじゃなくて……」

伝えたいことがうまく言葉にできない。

私は二人に「できない」と思っているわけではない。そうじゃなくて……。

 

「緑香が言いたいことはわかる」

龍が唐突に口を開いた。

「俺も考えていたことだ」

「龍も無理って思っていたの?」

日向が投げやりな表情で言った。

「そうじゃない。二人はよくやっている。実際成績も上がってきている」

「じゃあ」と口を挟む日向を四季が止めた。

「俺が以前聞いただろ。お前は何のためにここにいるのかと」

「それはこのグループで卒業するためだよ」

日向が答える。

「そうだ。このグループで“卒業”するためだ。表彰されることじゃない」

龍がキッパリと言い切る。

「そうかもしれないけど今いい点を取っておけば後々有利になるかもしれないじゃん」

「それこそ教師が考えた罠じゃないのか?」

龍が静かに言った。

「いい得点をとって表彰されることが目的になってしまえば目先のことに囚われて大事なものが見えなくなってしまう。卒業することが俺たちにとって一番大事なことなら考えることは一つだろう」

全員の顔が龍に向く。

「俺たちが考えるのは“次”だ」

「次って?」

日向が聞く。

「この試験を合格した後のことだ。試験の内容は一度説明があっただろう?」

そういえばそんな説明もあったな。学力試験の衝撃が大きすぎて忘れていた。

「……確か、実技試験と言ってましたよね……。ですが詳しい説明はなかったような……」

「そうだな。詳しいことは何も伝えられてなかったが、質問があれば聞きにこいとも言っていた。……今考えてみればそれにも理由があったのかもしれないな」

 

「……それで、どうする? 龍の言うことも理解できるけど、二人は納得できるの?」

四季が日向と紅羽に聞く。

一瞬の沈黙が辺りを包む。

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