第16話 理不尽
食堂で一人ご飯を食べていると女子生徒二人が近づいてきた。
「あ、あのすみません」
顔を上げると見覚えのある女子二人。
「この前はうちのメンバーがすいませんでした」
二人がいそいそと頭を下げる。
「教室を強引に奪ってしまい本当に申し訳なかったです」
彼女たちのグループの力関係は目に見てわかる。男子が主導権を握り女子が振りまわされているのだろう。第一印象からおとなしそうな、気弱な感じがしていたが男子たちにいい様にされているらしい。
「他にも部屋はたくさんあるし、私たちは大丈夫だよ」
確かに不快ではあったが彼女たちに非はない。何事もない様に返したつもりだったが彼女たちは目に涙を浮かべた。
「す、すみません」
彼女たちは目を擦り何度も謝る。
「だ、大丈夫? 本当に気にしなくてもいいから。……ここじゃ何だし何処か別のところ行こっか。話聞くよ」
なんとか彼女たちを宥め小教室に移った。
「落ち着いた?」
涙ぐむ二人にティッシュを渡す。本当はハンカチを渡したかったが、生憎一枚しか手元にない。
「……ありがとうございます」
二人は涙を拭う。
「さっきの話だけど私たち本当に怒っていないからね。何なら忘れてたし」
忘れてたは流石に嘘だが、気にしていないのは本当だ。日向たちも勉強でいぱいいっぱいでもう何とも思っていないだろう。
「……優しいですね。私たちもそんなグループだったらなぁ」
きっとこれが彼女の本音だろう。二人はポツリポツリとことの経緯を語った。
二人は中島絵里と手塚愛香。元々は青森夢たちと女子五人でグループを組むつもりだった。
しかしそこにあの男、北村剛が割って入ってきた。彼の親は中島の親の上司で手塚の親のお得意先らしい。半ば脅されるような形でグループに無理やり入れられた。残りの男子二人も北島の取り巻きで機嫌を取ってばかり。女子二人も逆らえず肩身の狭い思いをしている。
「夢ちゃんたちは仕方ないって言ってくれたけど、本当に申し訳なくて。緑香さんのところにも迷惑かけてしまい……」
「それは二人のせいじゃないし、本当に気にしないで」
そこまで謝られるとむしろこちらが申し訳なく思ってしまう。
「……そうではなくて、私たちがいけないんです……」
絵里がまた涙ぐむ。
「私たちが余計なことをしてしまったから……」
愛香が言葉を引き継いで続けた。
「もともと、最初の投票で私たちは緑香さんたちより一つ下の11位でした。剛さんはそれが気に入らなかったみたいで、すごく機嫌が悪かったんです」
「本当に大変でした」と絵里が遠くを見つめる。
「他の上位のグループは権力者、いわゆるカースト上位の人が何人かいたりして彼も強く言うことはできなかったんですが、……その、緑香さんたちのところはそうじゃないので納得できなかったんだと思います」
……。今さりげなく私たちはカースト最下位だと言われた気がするが気のせいだろうか……。
私の疑問に気づかす二人は話を続ける。
「剛さんは緑香さんたちのグループが目につくたびに不満や悪口を言っていました。……それで、協力の提案があった時、迷ったんですが一応、剛さんたちに聞いてみたんです。そしたら特に何も言わなくて」
「そんなにボロクソに言ってたのに?」
思わず話を遮る。「はい」と答えて愛香は続けた。
「私たちも絶対何か言われると思っていたんですけど何もなくて、良いともダメだとも言われなかったんでどうしようか悩んでたんですが……」
愛香と絵里が目を合わせる。
「その後に、夢ちゃんたちのグループと手を組んだって知ったみたいで、本当に手もつけられないほど怒って……」
絵里が青い顔をして言った。
「今は少し落ち着いたんですけど……」
愛香が言った。
あれで落ち着いたなら本当に大変だったんだろう。思わず二人を憐れみの目で見てしまう。
「私たちが黙っていたらあんなことにはならなかったはずなので、本当にすみません」
二人して頭を下げる。
「話を聞いても二人が悪いなんて思わないよ」
そうきっぱりと言い切る。悪いのは全部北村剛だろう。そしてその取り巻きも。あんなのか弱い女の子にどうこうできるもんじゃない。
「……これからずっとあの人とやっていくなんて無理……」
小さな声で愛香が言う。絵里は何も言わず目を伏せた。
「大変だと思うけど頑張って。何かあったら力になるから遠慮なく言ってね」
口をついて出てきた言葉。もっと良い言葉があったのかもしれないが、今の私には思いつかなかった。愛香たちのグループに比べれば私たちのところは遥かに恵まれている。そんな人から慰めの言葉をもらっても嬉しくなんかないだろう。卒業のためには勝手にグループを変えることもできない。良くても悪くてもずっと付き合っていかなきゃならないのだ。
「……なんか理不尽だな」
みんなの元に戻る間にそんな言葉が思い浮かんだ。
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