第3話

後悔はしていない。

けれど、心臓がいくらあっても足りない。


背もたれのない丸椅子に対面で腰掛け、彼女は湿布の準備をしてくれている。


彼女の意識が湿布へ向いているのをいいことに、俺はさっきよりもずっと近い距離で、彼女の顔を盗み見た。


切れ長でいてぱっちりとした目から伸びる長いまつ毛、すっと鼻筋の通った鼻、つやつやとした形のいい唇。時折髪を耳にかける仕草が艶っぽい。


しなやかな指で湿布のラベルを剥がす。


俺の右腕に彼女の指先が触れる。


湿布ですうすうする右腕とは対照的に、全身が熱い。


この熱が、指先から彼女に伝わりませんように。

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一目魅し、恋そめる @miyu110

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