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@Ichiroe

第1話

空が灰の色に覆われ、雨がじっとりと降り続く陰鬱な日に、廊下は凍りつくような静寂に包まれて、窓ガラスからのポタポタと落ちる滴の音しかないしない。居間の入り口に立ち止まり、開いたドアをノックしたが、中にいる長い紫色の髪を艶めかしく蓄えている少女は反応しない。


ソファーの一端でだらしなく、横たわっているか、座っているかがよく説明できないような姿勢で身を置いてる彼女の様子を横目で伺いながら踏み出して居間に入いた。



曲げた膝の上に、歴史に関する分厚い書籍が開いて。彼女はページを次々と尋常じゃないスピードで捲りながら、一文字も欠かさずにし、本の内容をきめ細かく視線を通している読書の様子は初見でもない限り、ぼくも驚いていたのだろう。訊けば、そのほうが彼女にとって読みやすいらしい……


「あの、失礼ですが——」


「——」


問いかけてはみたものの。

多分、今の彼女にとってぼくの言葉なんて海に落ちた蟻よりも響きが聞かないのだろう。


彼女を紹介しよう。


ファウスト領主の一人娘にして剣聖家系の正統継承者。十二歳で父を超え、ソルドマスターの称号を得てにも足らず、王国屈指の魔法使いにもされている、周知の大天才。家柄がもたらす不動な地位と名利、そして莫大な富み。受け継がれの高貴な血脈に加え、並ならぬ天生の才能。ひとりの女性としても、まるで美の意思の現れかのような外見に恵まれている。


それがこのシーランド王国の人間国宝と言われる尊い少女——リシア・ファウスト、ぼくを自分の偽婚約者に仕立てた大嘘つきでもある。










































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