【短編】お前が世界を救うなんて許さない

厨厨

勇者達、魔王城へ

「遂にこの時が来たか、勇者よ」


 玉座に座り、俺達に声をかける国王陛下。

 俺達パーティ3人は横一列に並び立ち、陛下に視線を向ける。


勇者リュウガ、そして仲間の《サツキ》と《ホノカ》。よくぞ、この日を迎えてくれた」


「やっとの思いでございます。私はこの2人と共に、必ず魔王を倒し、この世界を救ってみせます!」


 俺の言葉に同意するように頷く2人。

 俺達の固い決意を見て、陛下は嬉しそうに微笑んだ。


「神官たちが、別世界の学び舎の学徒30名を召喚してから、もう2年か。ソナタら以外の者達も、この戦いの勝利を信じ、各々の役目に励んでおる」


「彼らの支援があるからこそ、私達はここまで戦ってこれたのです。とても感謝しています」


「だからこそ、1……」


「陛下……」


 この世界に召喚された同じクラスの生徒30人の内、死んだたった1人の男子マモル。クラスに馴染めずにいたアイツは、この世界に来てからもずっと1人だった。

 

 だからこそ、どこで何をやっていたのかも分からず、誰かに看取られることもなく、死んでしまった。この世界に来て、まだ1ヶ月のことだった。


 陛下はアイツの死に、ずっと心を痛めている。


「我々が必ず、彼のようなことが起きない平和な世界にしてみせます」


「……うむ。期待しているぞ」


 ゆっくりと玉座から立ち上がった陛下。

 羽織っている国王としての衣装を翻しながら、大きく右腕を前に突き出す!


「さぁ行くのだ、勇者達よ! 貴殿らの勇猛さを以て、邪悪な魔王を打ち倒すのだ!」




 ――魔王城前

 

 遂に俺達は魔王城の前に到着した。

 

 目の前には、10メートルはあるであろう巨大な扉。隔てられているにも関わらず、城内の禍々しいオーラが漏れ出ている。


「こ、ここが魔王城……」


 オーラに少し押されているホノカ。

 無理もない。この2年間の冒険で戦ってきた魔物とは、ここは比べ物にならない程に濃密なオーラが漂っている。まだ対峙していないにも関わらず……。


「心配しないで、ホノカ。私がパッパとぶちのめしてやるわ!」


 彼女とは対照的に戦う気満々のサツキ。

 コイツ、最初はホノカよりもビビりだったハズなのに、この2年間で誰よりも神経が図太くなったな……。

 バーサーカーにでもなったんじゃないか?


「開けるぞ」


 両手を扉に添え、腕と足腰に思いっきり力を入れる!

 ズドドドド、と鳴り響く轟音と共に、大量の土埃が舞いながらゆっくりと開いていく。


 扉の先は、まさに闇そのもの。

 壁に設置された紫色の松明だけが、足元を照らす道標だ。


「うわっ! 凄いオーラだな。ハハッ」


「気を抜くと飲み込まれそうだわ……」


 思わず笑ってしまったサツキと、この濃密な闇のオーラに苦しむホノカ。

 一方の俺は声こそ出さなかったが、このオーラに圧倒されていた。


「ふぅ……お前ら、準備は良いか?」


「もちろんよ!」


「は、早く魔王を倒して、私達の元の世界に帰りましょ!」

 

 俺に向けて、覚悟の決まった声を発する2人。やっぱり頼りになる仲間だぜ。


「よし、行くぞ!」


 俺は背中の鞘から剣を、ホノカは魔法の杖を、サツキは2本の短剣を構えて、この混沌の闇の中へ足を進めていく……。




 ――魔王城


「オラァ! サツキ、そっち行ったぞ!」


「任せて! ドリャア!」


「2人共、前方からまだまだ来るわ!」


 魔王城の中には、俺達の想像を遥かに超える量の魔物が蔓延はびこっていた!


 俺とサツキが前に出て、ホノカが後方から援護する、いつもの陣形で戦い続けている。

 かなりの量の魔物を殺したはずなのに、一向に攻撃の手が止む気配が無い!


「クソっ! このままだと、魔王に辿り着く前に俺達がやられちまう!」


「ホノカ、何か良い魔法無いのかよ!?」


 2人でなんとか魔物を退けていくものの、数に押されてジリジリと後退している!

 こ、このままでは!


「で、でも魔王まではまだ先があるわ! ここで魔力を使っても良いの!?」


「魔力ポーションは多めに持って来てる! それに、ここで死んだら元も子もない! やってくれ!」


「分かった! 2人共、目を閉じて!」


 ホノカは杖を天井に向けて高く掲げ、呪文を唱え始めた!

 杖の先端に取り付けられた魔石を中心に、大きな魔法陣が展開される!


「さぁ、目を眩ませよ! 《マジックフラッシュ》!」


 この辺り一帯が、強烈な真っ白な光に包まれる!

 あまりの眩さに視界を奪われ、悲鳴をあげる魔物共!


「2人共、この隙に!」


 ホノカの言葉と同時に突っ込んでいく俺達!


「今度は私の番だぁ! 喰らえぇ!!!」


 魔物共の中心に飛び込み、次々と剣撃を繰り出す得意技ソニックスラッシュを発動するサツキ!


 周囲の魔物を一瞬で、大量になぎ倒していく! 彼女の足元には、自身の手によって切られた魔物の死体が積み上がっている!


「勇者としての力を喰らえ! 《ホーリー・ディザスター》!」


 勇者だけが行使できる、俺だけの必殺技!

 

 光り輝く剣の刃を、思いっきり床に突き刺す!


 強大な聖なる力が爆発のように放出され、床を破壊しながら魔物に向かっていく!


 爆発に巻き込まれる魔物共!


 聖なる力に包まれたとき、奴らは肉片を一つも残すことなく、消え去っていく……。


「はぁ……はぁ……」


 よし、なんとか片付いた……。

 これだけ多くの魔物を相手にしたのは、王都に魔物の軍勢が一斉に攻めてきたとき以来か。

 手強さで言えば、ここの方が何倍も強かったけどな……。


「ふ、2人共、大丈夫か?」


 息切れしながらもサムズアップしてみせるサツキと、杖で身体を支えながら手を振るホノカ。

 かなり疲弊しているようだが、大きな怪我は無さそうだな。


「いやはや、さっきのはヤバかった……」


「本当、私死ぬかと思ったわ……」


「はぁ……でもまだ、本丸が残ってるからな。これからだぜ?」


 勘弁してくれと言いたげな顔を浮かべながら、その場に倒れ込むサツキ。全身から汗が吹き出している。


「休憩したいのは分かるけど、ここは敵の本拠地だ。ポーションを飲んで回復したら、すぐ行こう」


「あぁ、今だけフカフカのベッドが欲しい……。ホノカ、魔法で出してくれよぉ」


「そんな魔法無いわよ。気持ちは分かるけどね……」


「ほら2人共、早く行くぞ」




 ――魔王の間


 あれから幾度と襲いかかってくる魔物の集団を蹴散らし、遂に魔王がふんぞり返っている部屋の前へ到着した。


 扉は多くの頭蓋や骨などで装飾されている。正義の名のもとに散っていった者達のものだろう……痛ましい。


「はぁ……はぁ……やっとね……」


「まさか、道中でこんなにボロボロになるとはな……」


 俺は疲れきった2人の背中を、喝を入れるようにパンっと叩く。

 狙い通り2人は痛っと叫び、飛び上がった。


「え、ちょ、何!?」


「女の子を叩くなんてひっどい! 切りつけるわよ!?」


「まぁまぁ。少しは元気出ただろ?」


 不服そうに俺を睨みつける2人。


「帰ったら覚悟しとけよ? ね、ホノカ!」


「うん! 何か高い物を買わせるから!」


「分かったよ。そのためにも、生きて帰らないとな」


 3人で扉に手を置く。

 

 もう後戻りはできない。いや、するつもりも無い。

 俺達は勇者。この世界を救うために、元の世界に帰るために戦ってきた。この先に進めば、最後の戦いが始まる。

 どれほど強大だろうと、俺達は負けない。俺達3人とクラスの皆との絆は、決して魔王には負けない!


「お前ら、行くぞ!」


 一気に扉を開け、魔王の前へ飛び出る!


 ……しかし、目の中に入ってきた光景は、俺達が想像していたものとは違った……。


「お、おい……?」


 玉座に座ったまま腹部に剣が突き刺さった、禍々しい鎧に身を包んだ男。

 周辺には、紫色の液体――魔物の血――が飛び散っており、悲惨さを際立たせている。


「あれって……」


 俺達が凝視していると、ピキっと音がした。

 その瞬間、頭部の鎧が外れ、カーンと音を立てて床に落ちた。

 外れたことで、犬歯と真っ赤の両目が特徴的な醜悪な顔が露になる……。


「あぁ、……」


 魔王が……!?


 こ、こんなことが有り得るのか!?

 勇者の手でしか倒せないと言われていたのに、一体誰が!?


「きゃあ!!!」


 っ!? なんだ!?

 振り返ると、さっきまで居たはずのサツキの姿が無い……。


「ホノカ、サツキはどこへ!?」


「わ、分からない! さっきまで隣に居たのに……声がしたと思ったら、急に消えたの!」


「クソっ! サツキ、返事してくれ!」


 彼女がどこに居るのかを捜すように、この間を見渡す。

 しかし、彼女の姿は見えない。あんな一瞬でどこに……。


「え、なんで……あぁ!!!」


「ホノカ!?」


 ……き、消えた。ホノカとサツキが消えた……。

 どこに、一体どこに!? クソっ、一体何が起きてるって言うんだ!


「サツキ! ホノカ! どこに居るんだ!」


 ……返事は無い。クソっ!


「魔物め……出て来い! 2人をどこにやったんだ! 姿を現せ!!!」


 ……

 

 …………

 

 ………………


 ……………………


 …………………………言われなくても、そうするよ。


「っ!?」


 男の声!

 しかも、この流暢な日本語……俺達のことを相当研究している奴に違いない!


「ど、どこにいる!」


「……前を向け」


「ま、前……!?」


 言う通りに視線を向ける。しかし誰も居ない。魔王の死体が見えるだけ。


 騙されたと思った瞬間、目の前に巨大な魔法陣が展開され始めた!


「な、なんだ!?」


 魔法陣から発動したのはワームホール!

 これは、空間転移の魔法!

 このワームホールの中から、ゆっくりと歩いてくる人影が!


「お前か……魔王を殺し、2人をさらったのは!」


 徐々に明らかになってくる全体像。

 

 腰に1本の剣ともう1つの鞘を携え、黒色のフードを被った男。

 全身から発しているおぞましい雰囲気。しかし、どこか近しい何かも感じる。この正体は一体……?


「……覚えているかな?」


「は? テメェのことなんか知らないし、見たこともない!」


「そうか……なら、これなら?」


 そう言うと、男は自らフードを外し、顔を見せた。


 に、人間だ。しかも、……。

 そしてあの顔……見覚えがある……。そう、確かこいつは――


「ま、《》!?」


 し、死んだはずのマモルが、どうして!?


「どうしてって顔をしているね。地獄の底から這い上がって来たんだよ……1つの目的のためにね」


「な、何を言ってんだよ? それに目的って……?」


 腰の鞘から剣を抜き、鋒を俺に向けるマモル。


「お前に、だ!!!」


 お、俺に復讐!? こいつ、本当に何言ってやがるんだ!?


「……覚えてないのか?」


「え……え?」


「やっぱりな……やった側は何も考えず、その場の勢いでやるんだもんな。やられた側の気分も知らないで!」


 何だコイツ……何を言っているんだ!? まるで俺が、何かしたみたいじゃないか!

 確か、コイツと俺は小中と今の高校も一緒だ。何があった……思い出せ……。


「……小学5年生のとき」


「しょ、小学……5年生?」


「初めて同じクラスになったとき、お前は俺に何をしたのか……」


 しょ、小学生のときのことなんて……。


「俺のことを殴る蹴る、私物も燃やすわ捨てるわ……いじめやがったな!?」


 鬼の形相を向けてくるマモル。


 お、俺が……マモルをいじめた? そんなことは……っ!?


「思い出したか? その顔、思い出したんだなぁ!? 自分がどれだけ酷いことをしたのか!!!」


「あぁ……で、でもあれは――」


「忘れるだけに飽き足らず、言い訳する気かぁ!? この薄汚い外道がぁ!!!」


 怒りにままに、剣を振るうマモル!


 とてつもない強さの衝撃波が一直線に向かってくる!


 魔法障壁を展開して防いだものの、完全に勢いを殺すことはできず、少し後方に吹き飛ばされてしまう!


「クッ……」


「毎日が苦痛だった! 登校すれば必ず何かされる! 休んだら休んだで、次の日は余計に酷いことをされる! どうすればいいのか、分からなかった!」


「あ、あのときはまだガキだったから……」


「だから何だ!? 確かにお前は、小学校を卒業してからは何もしなくなった。でもな、一度ズタズタにされた心は、いつまで経っても治らない、元に戻らないんだよ!」


「す、すまない……」


「……すまない、だと? あれから人が怖くなって誰とも話さなくなったのに、毎日フラッシュバックしてうなされているのに、すまないだけで済ませるのかぁ!?」


 な、なんだ!? とんでもない闇のオーラが、急にコイツから溢れ出てきた!?

 この感覚……まさか、この魔王城から発していたオーラは、全てマモルからのもの!?


「まぁ良い……この積年の恨みも、遂に今日晴らすことができる」


 踵を返し、魔王の死体の方へと歩いて行くマモル。何をする気なんだ……?


「クラスの奴らに死んだと思わせて行方をくらましてから、俺はあらゆる手を尽くした。強くなるために、圧倒的な力を得るために……」


「そして、手に入れた……?」


「そう、俺は手に入れたんだ! この世界で最も強くなったと言っても過言では無い!」


 背を向けたまま視線をこっちに向けるマモルは、狂気じみた笑みを浮かべている。

 その笑みがあまりに不気味に感じた……背筋に寒気が走る。


「魔王を殺したのも、お前なのか?」


「その通り。それに加えて、この城でお前達に差し向けた魔物共も全て、俺がやったことだ」


「な、なんだって!?」


「そして、今からコイツらも、俺の手で……」


 奴がそう告げた瞬間、新たに2つの転移魔法が発動した。

 

 現れたのは、ワームホール内の鎖に縛られた状態で吊るされた、ホノカとサツキ!


「2人共!」


 ……返事が無い。眠らされているのか!?


「クラスメイトごとこの世界に来て、お前が勇者として選ばれたと聞いたとき、反吐が出たよ。俺の人生をめちゃくちゃにした奴が、正義の味方になるなんてなぁ?」


「それは……」


「そんなとき、この2人はコイツがクソ野郎だと言うことは露知らず、勇者のお前に気に入られようと、率先して尻尾を振った」


「ち、違う! 2人はこの世界のことを誰よりも案じていた! だから俺に協力してくれて――」


「違うなぁ。この2人は、お前に好きになって欲しいから協力したに過ぎない。知ってるか? お前の前では仲良さそうでも、裏では互いを罵り合ってたんだぜ!?」


 そ、そんな……嘘だ!

 2人は仲良しで、信頼し合っている……。互いに信頼していたからこそ、俺も信頼して命を預けられた……。

 あぁ、そうだ。そうに決まってる……。


「おいおいおい! 良い表情するなぁ!? 自分が抱いていた2人の理想像を崩されて悲しいか!? 悲しいんだろぉ!?」


「……だ、黙れ!」


「その表情はずっと見ていたいけど、そうは言っていられない。この阿婆擦れ女共は、勇者に協力した悪しき存在。つまり、お前と同罪なんだから……」


「まさか……やめろ、やめろ! 2人は関係ない!」


「それを決めるのはお前じゃない! 俺だぁ!!!」


 奴がヒモを引っ張るような動作をした瞬間、2人の身体を縛っていた鎖が、一瞬で彼女達の身体を締め付けた!


 ボキボキボキッと、骨が砕ける音がする!


 しかし、鎖の力は緩まることを知らない!

 

 そして最後には、肉体が破裂! 辺り一帯に血のシャワーが降り注ぎ、細かい大量の肉片が飛び散る!


「あ……あぁ……」


 アァァァァァァァァ!!!!!


 ふ、2人が、2人が死んだ! 殺された!

 この2年間、ずっと苦楽を共にしていた仲間が! 友人が!

 目の前に居る、俺達と同じ世界の人間に……殺された……。


「……グッ!!! 貴様ァ!!!」


 怒りに任せて、アイツに向かって走り出す!


 殺す、絶対に殺してやる! 2人の仇を討ってやる!!!


 奴の頭蓋骨を叩き割るために、剣を大きく振りかぶる!


「オラァ!!!」


 し、しかし、俺の全力を込めた剣は、奴に片手でいとも簡単に止められてしまった!


「クッ……お前のせいで! お前のせいでぇ!!!」


「俺のせい、心外だなぁ? あの2人を殺したのは、俺をいじめて優越感に浸っていた過去のお前だ! 身から出た錆だろうが!!!」


 奴は剣を持ったまま俺の身体を引き寄せ、俺の腹部を蹴りを入れる!


「グフッ!!!」


 蹴りの力のままに、俺は後方に大きく吹き飛ばされ、扉に激突!

 顔から床に落ち、鼻から出血してしまった……。


「さて、そろそろ最終段階に移ろうか」


 奴はふんぞり返っている魔王の死体を無理矢理掴み上げ、玉座に両足を乗せた。


「……どうして俺が魔王を殺したと思う?」


「……え?」


「貴様みたいなクズの手によって殺され、世界が平和になることを防ぐため。そして、貴様がどんな手を使おうとも殺せない、新たな魔王を作るためだ……」


「新たな魔王……お前まさか!?」


「そう、


 掴み上げられている魔王の死体が身にまとっている鎧が、ブルブルと動き出した!

 独りでに動き出した鎧は死体を離れ、奴の身体にまとわり着いていく!


 全ての鎧を身に着けたとき、もう用済みだと言わんばかりに、魔王の死体を投げ捨てるマモル。


「これで計画の最後のピースがハマった。さぁ、これで最後だ!」


 奴は天井目掛けて片手を突き上げ、掌を広げた。


「お前……まさかっ!」


「さっしたか、だがもう遅い! 俺がこの手で、この世界を滅ぼしてやる! この世界に生きる命を全て、一つ残らず根絶やしにしてやる!!!」


 掌から生み出されたのは、真っ黒な球体。

 しかし、この球体が生成された途端、何かとんでもない力が全身に掛かるっ……!

 あ、あの球体に吸い込まれてしまいそうだ……!


「ぶ、ブラックホールかっ!?」


 ブラックホールに強く引き寄せられ、魔王城の一部が倒壊、その瓦礫が全て吸い込まれていく!

 このままでは、この城はおろか、世界ごと吸い込まれてしまうっ!!!


「お前っ……この世界の人は何もっ……関係無いだろう!?」


「いや! この世界の人間は、お前を勇者だと持ち上げ、救世主としてただただ盲信し、崇めた! これもあの阿婆擦れ女共と同じ、同罪だ! 殺す!」


「そ、そんな身勝手な……」


 クッ……ヤバいっ……徐々に吸い込む力が強くなっている!

 お、俺ももう、限界が……!


「お前が大切にしていた人間を殺し、お前が我が物顔で闊歩していたこの世界を滅ぼし、お前も殺す! これでやっと、俺のズタズタな心の傷口に痛み止めが塗れる!」


「グッ……」


 だ、ダメだ……クソっ!!!


「悔しいか!? 勇者としての責務を果たせなかったことが! 皆の期待に応えられなかったことが!」


 も、もうっ……!


「例えこの世界の人々が、クラスの皆が、お前の仲間が、お前を勇者として認めていようとも、俺は――」


 ――お前が世界を救うなんて許さない。

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【短編】お前が世界を救うなんて許さない 厨厨 @tyuutyuutyuuni

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